ドレス試着の日、彼氏の入江真宙(いりえ まひろ)は一緒に来ると約束していたのに、いくら待っても姿を見せなかった。 ウェディングドレスの裾は長く、私・大崎百華(おおさき ももか)はひとり鏡の前に立って、何度も体をかがめては裾を整えた。 3度目に裾を踏んだとき、ようやく真宙からメッセージが届いた。 【梨愛がさっき帰国したんだ。まだ気候に慣れてないみたいだから、迎えに行ってくる。先に試着しといて】 次の瞬間、SNSのタイムラインが更新された。 上杉梨愛(うえすぎ りえ)が、写真を投稿していた。 片膝をついた真宙が、梨愛の細い足首をそっと包み、ヒールのストラップを留めている――そんな写真だった。 一言だけ、キャプションが添えられていた。 【やっぱりこの人、絶対に自分でかがませてくれないんだから】 投稿を開いた瞬間、真宙の「いいね」がついているのが目に入った。 空気を読んだのか、スタッフがそっと声をかけてくれた。 「大崎様、入江様は大崎様のことをとても心配していらっしゃいます。『こっそりダイエットして体を壊すといけないから、ウエストは直さないように』と、わざわざご配慮くださって」 私は笑った。 心配してくれていること自体に、嘘はない。ただ、彼が別の誰かを優先することを、その優しさはちっとも止められなかった。 うつむいて、白いドレスを見つめる。 ふと気づいてしまった。 身の丈に合っていないのは、ドレスじゃない。 きっとずっと前から――この結婚そのものだ。……翌朝早く、玄関の電子錠が解除される音が響いた。すぐに掛け布団がめくられ、ひんやりとした手が後ろから私の腰に回され、強く抱きしめられた。「寝たふりなんてしなくていいから。入った瞬間にわかった」真宙が低く笑いながら、顎を私の首筋に押し当ててくる。「何年一緒にいると思ってるんだ。俺がいないと、お前ってろくに眠れないだろ」何気ない口ぶりのその言葉が耳に届いた瞬間、目の奥がじわりと熱くなった。彼は全部わかっているくせに。それでも私を1人残して、一晩中帰ってこなかった。さわやかなシャワージェルの香りが鼻をくすぐった。けれど少し嗅いでみると、その奥に混じる女性用香水の残り香に気づいた。甘く、濃く、まとわりつくような匂い。梨愛がい
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