「わたし、大学へ戻るか、今の仕事を続けるか、選ばなくてはならなくなりました」 本来ならば、いいとこのお坊ちゃま・お嬢様大学に在籍していた彼女。 ところが、運命変転の果てに、今はピアノ教室の講師をしている。「関口さんですね、最近メキメキ腕が上達してるんです。それを、先生のおかげですよって評してくださって。他の生徒さんも、わたしのおかげだって、どんどん腕が伸びてるんです。わたし、どうしたらいいんでしょう」 顔を手で覆うハルちゃん。生徒想いの、いい先生だ。それだけに、復学で離れるという選択に、苦渋しているのだろう。「おねーさん、わたしは、どうしたらいいんでしょう?」「それは、ハルちゃん次第かな。それを踏まえた上で、ものすごく無責任なアドバイスならできるよ」 彼女が、ごくりと固唾を飲む。「いい? これは無責任なアドバイスだからね? まずさ、ハルちゃんってなんのために大学通ってた?」「それは……その、親の言うがままに」「うん。でも、ハルちゃんはそのレールを、自分で外れたわけだ。だったら、外れ通すのも道じゃない?」 真剣な面持ちで述べる。「じゃあ、音楽講師を続けたほうがいいんですね!」「ストップ。無責任なアドバイスって言ったでしょ。日本は学歴社会でね。その人の本質じゃなく、学歴で人を判断しようとするの。だから、音楽講師がダメになったとき、ハルちゃんが忌んだ、男性との輿入れとかが視野に入ってくるよ。そして、ハルちゃんは、アオイグループのお飾りになる」 そう言うと、明るくなったハルちゃんの表情に、影が差す。「これは、あくまでも、私個人の無責任な考えね。鵜呑みにしないでね? ハルちゃんは、講師兼、作曲の道に進むといいんじゃないかな。博打ロードだけど、ハルちゃんの生き方にあってると思う。私から言えるのは、これだけかな。ミドリさんの意見も訊いてみてもいいかも」 突き放すようだけど、そう結んだ。「わかりました。ミドリさんにも、相談してみます……」 そう言って、とぼとぼ歩み去っていく彼女。 最適解をね、スパッと切り出せるようなら良かったんだけど。 自室のベッドに大の字になり、愛しのハルちゃんのことを、想うのでした。 ◆ ◆ ◆ そして、夜。まかないを作るためのキッチンに、私とハルちゃんが同席していることにどよめくシェフやメイドさん
Last Updated : 2026-07-01 Read more