メローラの叫びに応えたのは、身を切るような冷たい風だけだった。ゼイルは一瞬足を止めたものの、決して振り返ることはなかった。大祭司夫妻は互いに支え合いながら、暗い夜道をよろめきながら去っていく。誰もが分かっていた。メローラの言葉は間違っていない。クレッサを殺したのは、決して彼女一人ではなかったのだ。メローラは階段の上にへたり込み、凍えるような寒さに身を縮めていた。魔力を失った体を、冷たい風が容赦なく打ちつける。乱れた髪の隙間から覗く瞳は虚ろで、かつての無垢な少女の面影は、もうどこにも残っていなかった。セレーネは神殿の影に立ち、その一部始終を冷ややかに見つめていた。月光が彼女の顔を照らし、そこに浮かぶ冷ややかな無関心を映し出していた。けれど、手の中で消えかけた巻物に目を落とした瞬間、その瞳が赤く染まった。羊皮紙は金色の光の粒子となり、風の中へと消えていく。まるで、あの日クレッサが星屑となって散ったときのように。セレーネは胸の痛みに耐えるように、拳を強く握りしめた。爪が掌に深く食い込む。彼女は思い出していた。5年前、初めてクレッサと出会ったあの日を。あの心優しい少女は彼女の手を温かく握り、未来への希望にきらきらと輝いていた。「セレーネ、私、ゼイルと結婚するの!」彼女は星のように微笑んだ。「きっと幸せになれるわ!」あのとき、セレーネはこの結婚に強く反対した。ポセイドンの息子は傲慢で自惚れた男であり、クレッサの純粋な真心を受け取る資格などない。けれどクレッサは彼をあまりにも深く愛し、彼のために自分のすべてを捧げてしまった。「……いつか、こんな悲惨な日が来ると分かっていたわ」セレーネは心の中で苦く笑った。「警告したのに、あなたは聞いてくれなかった」彼女は星空を見上げた。月光に照らされたその表情には、重い痛みが刻まれている。「クレッサ、見ている?」彼女は心の中で語りかけた。「メローラは、すべてを失ったわ。もう、愛される後継者なんかじゃない。魔力もない、ただの下級のセイレーンよ。ゼイルとあなたの両親も報いを受けた。これから死ぬまで罪悪感と後悔に溺れて過ごすことになる。誰一人、自分を許すことなどできないでしょうね」夜風が優しく彼女の頬を撫でていった。まるで、クレッサが静
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