鈴代邸は煉瓦造りの二階建て。大きなシャンデリアが天井から吊るされている玄関を入って右には螺旋状の階段があり、それを上っていくと長い廊下が現れる。 手前の部屋が応接室、その隣が当主の書斎、三つほど空き部屋があり、そこから少し歩いて、突き当たった場所に、一人娘である泉観の部屋が置かれている。 豊はモップがけをしながら、屋敷中を散策する。階段を下り、一階の玄関、トイレを経由、そこから叔父夫婦と兼用の食堂に入り、ウッドデッキで造られたテラスから中庭を覗く。和洋折衷な様式の庭は、当主のお気に入りの場所だという。 そういえば、主人の姿が見当たらない。豊が賢季に問うと……彼が殺人未遂事件の被害者であることを知らない豊に、あえて言う必要もないだろうと賢季は判断したのだろう、入院しているとの簡潔な応えが返ってきた。持病でも持っているのだろうか、と考えながら豊はモップがけを続ける。 食堂、キッチンを抜けると当主の寝室、妻の部屋、空き部屋、納戸と続く。大理石でできた浴室、トイレ、女中たちの準備室、他にもたくさんの部屋が並ぶ。「あ」 メイド服の少女が、洗濯籠を持って歩いている。住み込みで働いている美弦だと、賢季が言ってたっけ……こんなに幼い子なんだ。 豊の視線に気づいたのか、美弦が顔をあげ、ぺこりとお辞儀する。豊も、礼をする。「お疲れ様です」 美弦にとって、自分の方がこの屋敷では先輩だというのに、豊が初めて彼女を見た時から、常におどおどしていた。まるで豊を怖がっているみたいに。もしかしたら人見知りが激しい女の子なのかもしれない。豊がそんなことを考えているうちに、美弦の姿は、テラスに消えていた。 美弦を見送った豊は、モップがけを続ける。 やがて、庭を横断するような形で渡り廊下が現れる。 ここから先は賢季たち……夕起久の弟夫婦が暮らす空間だ。 こちらには二階部分が存在しないが、広々とした間取りは相変わらずだ。執務室、書斎、夫婦の寝室……そして、突き当たりにあるのが、賢季の部屋。「ここなんだ……」 思わず、立ちすくんでしまう豊。「いけません!」
Terakhir Diperbarui : 2026-07-24 Baca selengkapnya