今年の梅雨入りは、例年よりもずっと早かった。肌にまとわりつく湿気で息が詰まりそうになり、国岡佳之(くにおか よしゆき)はこういう天気が嫌いだと言っていた。落ち着かず、胸がざわつくのだと。図書館から外に出ると、私・会田亜矢(あいだ あや)の後れ毛にきらきらとした小さな雨のしずくがいくつか止まっている。こんな天気は佳之のぜんそくを引き起こしやすい。毎年この時期、私はいつも神経を尖らせ、部屋の隅々まで徹底的に除湿している。彼はいつも、自分の体はそんなに弱くないと言っている。ある日、小雨の降る中へ飛び出しては、服が濡れるのも構わずに向かいに来た彼に、私は怒りで目が真っ赤になった。すると、背中から名前も知らない白い小さな花束を不意に差し出してきた。黄色いおしべがちょこんと覗いていた。「ほら、近くの花屋で新しく仕入れた花。お前みたいにきれいだ。お店の人がよかったらどうぞって、ただでくれたんだ」あの頃の私たちは二人とも貧乏学生だったので、ただでもらった花束でも私の心は踊るほど満たされていた。財布はすっからかんだったが、愛だけは溢れていた。去年、佳之は起業に成功して自分の小さな会社を持ち、先月、私たちは新居を買ったばかりだった。実家にはすでに話を通してあり、来月卒業したらすぐに婚姻届を出す予定だった。SNSで突然、見知らぬ人からDMが届いた。アイコンの画像を見ると、とてもきれいな女の子だと分かった。写真が、津波のように押し寄せてきた。どれもこれも、彼女と佳之がぴったりと寄り添っているツーショットばかりだ。【L公園って、会田先輩が告白された場所ですよね?彼、ここでも私に告白してくれたんです!】【ここ、見覚えありますか?先輩の大学のグラウンドですよ。彼とここでキスしました!】私は凍りつき、指先がちくちくと痛んだ。【それから二人の新居で……あのベッドにもう一緒に寝ちゃいました!】挑発的な最後の一言。【先輩が院試勉強をしていた時から、私たちは付き合っています】その場に立ち尽くし、何度も何度も写真を拡大して見返した。そして、ようやくその顔を思い出した。学部を卒業した時のこと。写真部の部員である橘川枝実子(きつかわ えみこ)が、私と佳之の記念写真を撮ってくれたのだ。「先輩たち、本当にラブラブです
Read more