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消えゆく愛の行方

消えゆく愛の行方

작가:  あずきココア참여
언어: Japanese
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개요
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国岡佳之(くにおか よしゆき)と付き合って8年、私たちはすでに新居となるマンションを買っていた。 大学院を卒業したら、すぐに籍を入れるつもりだった。 今日、夜遅くまで図書館で勉強していて、ようやく家に帰ろうとしたその時、SNSで見知らぬ女の子からDMが届いた。 アイコンの画像を見ると、とてもきれいな子だ。 その子から何枚もの写真が送られてきた。 すべて彼女と佳之のツーショット。しかも撮影場所は、私と佳之の大切な思い出の場所ばかりだ。 彼女はメッセージを送ってきた。 【先輩が院試勉強をしていた時から、私たちは付き合っています】

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1화

第1話

今年の梅雨入りは、例年よりもずっと早かった。

肌にまとわりつく湿気で息が詰まりそうになり、国岡佳之(くにおか よしゆき)はこういう天気が嫌いだと言っていた。落ち着かず、胸がざわつくのだと。

図書館から外に出ると、私・会田亜矢(あいだ あや)の後れ毛にきらきらとした小さな雨のしずくがいくつか止まっている。

こんな天気は佳之のぜんそくを引き起こしやすい。毎年この時期、私はいつも神経を尖らせ、部屋の隅々まで徹底的に除湿している。

彼はいつも、自分の体はそんなに弱くないと言っている。

ある日、小雨の降る中へ飛び出しては、服が濡れるのも構わずに向かいに来た彼に、私は怒りで目が真っ赤になった。

すると、背中から名前も知らない白い小さな花束を不意に差し出してきた。黄色いおしべがちょこんと覗いていた。

「ほら、近くの花屋で新しく仕入れた花。お前みたいにきれいだ。お店の人がよかったらどうぞって、ただでくれたんだ」

あの頃の私たちは二人とも貧乏学生だったので、ただでもらった花束でも私の心は踊るほど満たされていた。

財布はすっからかんだったが、愛だけは溢れていた。

去年、佳之は起業に成功して自分の小さな会社を持ち、先月、私たちは新居を買ったばかりだった。

実家にはすでに話を通してあり、来月卒業したらすぐに婚姻届を出す予定だった。

SNSで突然、見知らぬ人からDMが届いた。

アイコンの画像を見ると、とてもきれいな女の子だと分かった。

写真が、津波のように押し寄せてきた。

どれもこれも、彼女と佳之がぴったりと寄り添っているツーショットばかりだ。

【L公園って、会田先輩が告白された場所ですよね?彼、ここでも私に告白してくれたんです!】

【ここ、見覚えありますか?先輩の大学のグラウンドですよ。彼とここでキスしました!】

私は凍りつき、指先がちくちくと痛んだ。

【それから二人の新居で……あのベッドにもう一緒に寝ちゃいました!】

挑発的な最後の一言。

【先輩が院試勉強をしていた時から、私たちは付き合っています】

その場に立ち尽くし、何度も何度も写真を拡大して見返した。

そして、ようやくその顔を思い出した。

学部を卒業した時のこと。写真部の部員である橘川枝実子(きつかわ えみこ)が、私と佳之の記念写真を撮ってくれたのだ。

「先輩たち、本当にラブラブですね!末永くお幸せにお過ごしください!」

彼女は佳之に向かって、「浮気なんかしたら許しませんよ。一生一途に先輩を愛し続けてくださいね」と諭しさえした。

心臓が太い縄で思いきり締め付けられ、粉々に砕け散りそうだ。

これらの写真は激しい嵐のように、骨の髄の隙間へ容赦なく突き刺さってくる。

乱暴にスマホの画面を消すと、不意に雨が止んだ。

小さな花柄の傘が霧雨を遮り、どこかで嗅いだことのあるフリージアの香りが漂ってきた。

「こんなところで、ぼさっと立ち尽くしてどうしたんだ?」

佳之はショップバッグを提げたまま、手を伸ばして私を抱き寄せた。大きな手のひらで、乱れた私の髪を優しく撫でた。その口調はこれ以上ないほど優しい。

「今日も俺に会いたかった?」

まるで、私たちが本当に愛し合っている恋人同士であるかのように。

「どうして何も言わないのか?今日は付き合って8周年の記念日だぞ。

ほら、何を持ってきたか当ててみてくれ」

鮮やかなオレンジ色のショップバッグが目の前でゆらゆらと揺れている。嫌でも目に入る華やかなロゴマーク。

私がずっと欲しかった、憧れのハイブランドのバッグだ。

佳之は本当に気の利く男だ。毎年の記念日には、いつも趣向を凝らしたサプライズを用意してくれる。

これほど高価な贈り物をくれるのは、特別な日だけだ。

ふと思い出した。

あの送られてきた写真には、数え切れないほどのブランドロゴが入った紙袋が写っていたことを。

――佳之、あの子と過ごした毎日は、そんなに手の込んだサプライズが必要なほど特別な日だったの?

「いつまでも本ばかり読んでないでさ。まさか本当に博士課程まで進むつもり?

それよりも、俺を支えてくれる妻になって、のんびりとした生活を送ってほしい」

顎をくいっと持ち上げられ、顔を上に向けられると、唇にそっとキスが落とされた。

佳之は気づいていなかった。自分の手がうっかりスマホの画面に触れてしまったことに。

枝実子とのトーク画面が、まだ閉じられないまま表示されている。

【わかった。明日はお前のところに行くからな。俺が愛してるのはお前だけだ】

これ以上見ていられず、私はきしむ胸を押さえながら視線を逸らした。

――佳之、一体いつからだったの?

愛しているふりさえ、こんなに完璧に演じられるなんて。

昔のあなたは、ほんの小さな嘘をついただけで、耳たぶまで真っ赤にしていたのに。

……
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第1話
今年の梅雨入りは、例年よりもずっと早かった。肌にまとわりつく湿気で息が詰まりそうになり、国岡佳之(くにおか よしゆき)はこういう天気が嫌いだと言っていた。落ち着かず、胸がざわつくのだと。図書館から外に出ると、私・会田亜矢(あいだ あや)の後れ毛にきらきらとした小さな雨のしずくがいくつか止まっている。こんな天気は佳之のぜんそくを引き起こしやすい。毎年この時期、私はいつも神経を尖らせ、部屋の隅々まで徹底的に除湿している。彼はいつも、自分の体はそんなに弱くないと言っている。ある日、小雨の降る中へ飛び出しては、服が濡れるのも構わずに向かいに来た彼に、私は怒りで目が真っ赤になった。すると、背中から名前も知らない白い小さな花束を不意に差し出してきた。黄色いおしべがちょこんと覗いていた。「ほら、近くの花屋で新しく仕入れた花。お前みたいにきれいだ。お店の人がよかったらどうぞって、ただでくれたんだ」あの頃の私たちは二人とも貧乏学生だったので、ただでもらった花束でも私の心は踊るほど満たされていた。財布はすっからかんだったが、愛だけは溢れていた。去年、佳之は起業に成功して自分の小さな会社を持ち、先月、私たちは新居を買ったばかりだった。実家にはすでに話を通してあり、来月卒業したらすぐに婚姻届を出す予定だった。SNSで突然、見知らぬ人からDMが届いた。アイコンの画像を見ると、とてもきれいな女の子だと分かった。写真が、津波のように押し寄せてきた。どれもこれも、彼女と佳之がぴったりと寄り添っているツーショットばかりだ。【L公園って、会田先輩が告白された場所ですよね?彼、ここでも私に告白してくれたんです!】【ここ、見覚えありますか?先輩の大学のグラウンドですよ。彼とここでキスしました!】私は凍りつき、指先がちくちくと痛んだ。【それから二人の新居で……あのベッドにもう一緒に寝ちゃいました!】挑発的な最後の一言。【先輩が院試勉強をしていた時から、私たちは付き合っています】その場に立ち尽くし、何度も何度も写真を拡大して見返した。そして、ようやくその顔を思い出した。学部を卒業した時のこと。写真部の部員である橘川枝実子(きつかわ えみこ)が、私と佳之の記念写真を撮ってくれたのだ。「先輩たち、本当にラブラブです
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第2話
今住んでいる古いアパートに戻ると、佳之は無造作にショップバッグをソファへ放り投げた。私はその時初めて、ショップバッグの表面にほんのわずかにマニキュアがこすれた跡があるのに気づいた。その跡を見つめたまま、立ち尽くした。着信音が鳴り響き、佳之はそこでようやくスマホの画面が点きっぱなしだったことに気づいた。電話に出ながら、私の様子をうかがうように、恐る恐る視線を送ってくる。「わかった、すぐ行く。仕事の話なら次からは仕事用の番号にかけてくれ。今は家で彼女の相手をしてるんだ。俺が恐妻家だって知ってるだろ?」けれど、画面に表示された【橘川実】という登録名が、すべてを裏切った。先月、佳之が何気なく「新しい秘書を雇ったんだ」と言い、その名前を見せてくれたことがあった。「実(みのる)」という名前は男性に多い印象があるため、私は深く考えもしなかった。けれど、それが本当は「枝実子」の略だった。そして、秘書なんて最初から存在しなかったのだ。「会社の連中からだ。勤務時間外は連絡してくるなって言ってるのに、まったく融通が利かないんだから。明日会社に行ったら、たっぷり絞ってやるからさ」佳之は平然と言い放った。あまりにもあっさりとしたその口ぶりに、信じざるを得なかった。私はかろうじて口元を引きつらせた。胸の奥がひっくり返るように激しく波立ち、酸っぱいものがこみ上げてきて、吐き気に襲われている。佳之は私のそんな変化に気づかず、まだべらべらと喋り続けている。「佳之」私はたまらず言葉を遮った。彼が振り返った。「どうしたの、亜矢?」「明日、新居に引っ越そう。住むところを変えたいの」濡れた髪を拭き取りながら呟いた私の声は、ほとんど喉の奥に消えかかっている。佳之の手がピタリと止まった。「亜矢、前に話し合っただろ?新居には結婚式を挙げてから入るって。それでもっと結婚の実感ができるって言ったのは、お前じゃないか」彼には、いつも私を諦めさせるための完璧な理由があった。けれど、私がまだ足を踏み入れてさえいないあの場所は、とうの昔に他の女に踏み荒らされていたのだ。佳之は手慣れた様子で私の手からタオルを奪い取り、優しい手つきで髪のしずくを拭いてくれた。口を開けば甘い言葉で呼びかけ、誰に会っても私の自慢をし、
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第3話
朝、目を覚ました時には、佳之はすでに会社へ向かった後だ。テーブルの上には、私のために買ってきてくれた朝食が、何種類もきれいに並べられている。洋食の朝ごはんは嫌いだと何度もはっきり伝えたのに、彼は相変わらず和食も洋食も取り混ぜて、欠かさず用意してくれる。「いつか好みが変わるかもしれないだろ?先に用意しておくに越したことはないさ。それに、このくらいの小銭はどうってことないし」そんな風に語る姿にはあまりにも真心がこもっており、まるで今すぐにでも私の手を取ってバージンロードを歩き出しそうなほどだった。まだお金がなかった頃も、彼は同じだった。ただ、貧乏なら貧乏なりのやり方があった。月に一度のフルーツ盛り合わせや、よく買ってくれた100円ショップのヘアピン。それで十分だと思っていた。お金のことで言い争いをしたこともあった。全財産を賭けて起業なんてするべきじゃない、私たちの家柄じゃ、負けたらおしまいなんだからと私は責めた。佳之は黙り込んだ。部屋の隅にしゃがみ込んだ姿は、まるで迷子の子供のようだった。あまりにも寂しげな後ろ姿。そんな姿を見せられて、どうして心を鬼にできただろう。けれど彼が慌てて忘れていったリュックの中に、黒いストッキングと胸元が深く開いたロングドレスを見つけてしまった。佳之は、私がそういう服を着るのを嫌がっていた。もうそれなりの年齢なんだから落ち着いた格好をするべきだし、そもそも自分の好みじゃないから、と。つまり、今はそういうのがお好みになったというわけだ。私は何も言わずにそれらを引っ込め、ジッパーを閉めた。【亜矢、俺、リュックを忘れていかなかった?触っちゃダメだぞ!中には会社の書類ばかり入ってるから】佳之からメッセージが届いた。【うん、触らないよ。会社まで届けようか?】いつも通りに返信を打ちながらも、私の手はガタガタとひどく震えている。本当は、問い詰めたくてたまらない。一体どうして、と。浮気をしているくせに、どうして私を一途に愛しているような振る舞いができるのか。けれど、彼の言葉を聞くのが怖い。「あの子のことも愛してるけれど、お前のことも愛してる」なんて。さらに昔のように下手に出て、必死に許しを請うのだろう。そうなれば、私はまた絆されてしまうかもしれない。…
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第4話
佳之はリュックを届けるのを断り、家でゆっくり休んでいてくれ、昼休みに自分で取りに帰るからと言った。それなのに、私は学校のキャンパスで、彼の車を見つけてしまった。銀色のマセラティ。周囲の学生たちが物珍しそうに足を止めている。道を挟んだ向こう側で、仕立ての良いスーツに身を包んだ佳之が車から降りてきた。そこへ、講義棟から一人の女の子が走り出てきて、彼の胸に飛び込んだ。枝実子だ。思い出した。学部の卒業式の後にも、彼女に会ったことがある。昨年の新入生歓迎の親睦会で、指導教授の山本泰士(やまもと やすし)が私を彼女に紹介したのだ。彼女は羨ましそうな眼差しを向けてきた。「先輩って本当にすごいです!山本先生が、これまでの教え子の中で唯一見込んだ天才だって仰っていました。このまま研究を続ければ、博士課程なんて余裕だし、将来はこの分野のトップになれますよ!」私のような優秀な人間になりたい、と彼女は言っていた。そして確かに、彼女は言った通りにした。私と同じ男を、自分の恋人にしたのだから。DNAまで、まったく同じ男を。不意に佳之が口元を押さえ、苦しそうに身をかがめた。私の心臓が跳ね上がり、思わずカバンの中でぜんそくの薬を探そうとした。けれど、枝実子の方が一歩早かった。大慌てで講義棟へ駆け込み、薬を取ってきたのだ。佳之は薬を受け取り、吸入するとすぐに落ち着きを取り戻した。そして顔を上げ、枝実子を愛おしそうに見つめた。心配のあまり涙ぐんだ枝実子が、怒ったように、けれど嬉しそうに佳之の胸をポカポカと叩いた。佳之はそんな彼女の頭を、優しく撫で回している。私の心は、すっと冷めていった。彼が着ているすべての服の内ポケットには、私が前もって忍ばせておいたぜんそくの薬が入っているというのに。男の体の弱さは、女の守りたいという気持ちを掻き立て、心を縛り付けるための最高の武器だ。彼はかつて、同じ手口で私をハラハラさせた。心の底から同情を寄せさせるために。私は本当に薬を忘れたのだと無邪気に信じ込み、正気を失うほど取り乱してしまった。踵を返し、研究室へと向かった。そして、博士課程への進学を申請したいと申し出た。博士課程の応募期限はすでに2ヶ月過ぎていたが、教授の泰士は喜んで力になると言ってくれた。彼は喜びを噛み
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第5話
今、私は無表情のままそのカフスボタンを外し、別のものを花束の中に差し込んだ。佳之は息を切らせながらやって来ると、上着のスーツを隣の席に放り出し、テーブルの上で両手を組んで、いかにも私を労わるような目を向けた。「誕生日なんて気にしなくていいって言っただろ? 次からは無理しなくていいからさ。ほら、卒業前の準備でこんなに痩せちゃって」服を着替える暇さえなかったのだろう。彼のネクタイには、うっすらと口紅の跡が残っていた。私は顔を上げ、至って冷静に告げた。「博士課程への進学を決めたわ」佳之の瞳が一瞬だけ陰り、その後まつ毛がかすかに震え始めた。「どうして?修士を卒業したら、すぐに結婚するって約束したじゃないか」彼の目が赤くなり、掠れた声で震えながら私の手を強く握りしめた。「亜矢、俺の何がいけなかった?今や会社の経営も軌道に乗って、これからはもっと不自由させないし、俺は……」私は冷たく手を引き抜いた。まるでそれが合図だったかのように、彼の言葉が途切れた瞬間、傍らに置かれていた花束がバタリと倒れた。中から、彼と枝実子の写真がテーブルいっぱいに散らばっている。佳之の体が硬直していった。何度もその写真に視線を落としたが、ついに一言も発することができなかった。「佳之、私たち、もう8年も一緒にいるのね」私は眉をひそめた。胸が張り裂けるほどの痛みに襲われるかと思った。けれど、そんなことはなかった。ただ、底知れぬ失望だけを感じている。「亜矢……」佳之は必死に口を動かしたが、どんな言葉を紡げばいいのか分からないようだ。私は視線を落とし、写真を一枚ずつ拾い集め、彼の目の前に丁寧に並べた。「佳之、別れよう」彼は呆然と私を見つめている。何度も言葉を詰まらせ、結局、まともな弁明すら一つも口にできなかった。けれど、もうそんな言い訳を聞くつもりは毛頭ない。だから、私は問いかけた。「佳之は今でも私を愛してるの?」
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第6話
佳之の目は泳いでいる。否定もせず、かといって肯定もしない。私のことを愛してはいるのだろう。けれど、その愛はもう、それほど深くはないのだ。「でも、俺たちもう8年だろ?亜矢、今回だけは許してくれないか?」捨てられた子犬のような哀れな瞳が私を射抜いた。これまで、その目に何度も騙されてきた。けれど今回は、首を横に振った。「この先また何年も経つたびに、何度許せばいいの?じゅりと同じ結末を迎えたくないのよ」……小田島じゅり(こだじま じゅり)は大学時代の親友で、佳之とも面識があった。大学2年の頃、彼女はある資産家の男と知り合った。「一生面倒を見る」という男の甘い言葉を真に受け、彼女は未練なく大学を中退して結婚した。しかしその後、その男は何度も浮気を繰り返した。そのたびにじゅりの前で膝をつき、二度としないと誓った。じゅりは情に流され、何度も何度も許してしまった。そしてついに相手の女が家に乗り込んできた時、二人の間にはすでに2歳になる子供がいることを知らされた。じゅりは臨月の重いお腹を抱え、たった一人で出産のために病院へ向かった。その一方で、男は浮気相手と隠し子を連れて海外のリゾートを楽しんでいた。子供の養育費を稼ぎ、産後の体がまだ回復しないうちから彼女が必死にバイトをしている間、あの不倫男女は一泊何十万円もする5つ星ホテルに泊まっていた。じゅりはかつて、私の手を握りしめて何度も何度も忠告してくれた。「男に人生のすべてを捧げちゃダメだよ」と。当時の私は、逐一スケジュールを報告してくる佳之のメッセージを眺めながら、「彼はそんな男じゃない」と静かに微笑んでいた。けれど、男というのは。結局のところ、どいつもこいつも同じ穴の狢だったのだ。不思議なことに、胸のつかえがすっと軽くなっていくのを感じた。「じゅりの言う通りだったわ。男の言葉を鵜呑みにするなんて、おめでたすぎる」佳之の顔に焦りの色が走り、慌てて写真を掴むと、猛スピードでゴミ箱へと払いのけた。けれど、額からだらだらと流れ落ちる汗が、その動揺をはっきりと物語っている。「亜矢、信じてくれ。俺はあのクズ男とは違うんだ。絶対に心を入れ替える。約束しただろ?いつだってお前を愛してるんだ」「愛してる」なんて言葉は重すぎて、今の私
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第7話
荷物をまとめることさえせず、そのまま同級生の家に泊まりに来た。真夜中までその子と一緒に部屋の片付けをしていたが、少し一人になりたくなり、今はバルコニーへ出て夜風に当たっている。じゅりは誰にも言わず、ひっそりと入院したらしい。頼れるのは私しかいない、と連絡が来た。そういえば以前、じゅりのために用意したまま、まだ渡せていなかった誕生日プレゼントがあったことを思い出した。私は佳之と一緒に暮らしていたあの家へ、一度戻ることにした。ドアを開けると、無数の空き瓶が足元へと転がってきた。佳之はソファに突っ伏しており、その顔は異様に赤くなっている。顔を上げて私を視界に捉えた瞬間、その目は見開かれ、やがて歪むように細められた。自嘲の笑みを浮かべながら背を向けた。「帰ってきたのか?」私が答える前に、彼はぶつぶつと独り言を始めた。「飲みすぎて幻覚まで見てるな。亜矢が戻ってくるわけないだろ。俺のせいだ。亜矢は俺のことを死ぬほど憎んでる。俺、まじで最低だ」酒瓶がガシャリとテーブルの角に当たり、砕け散った。佳之はふらふらと立ち上がり、割れた酒瓶の破片を自分の顔へと突きつけた。「亜矢、俺、今すぐ自分に罰を下してやるからな」その言葉を口にした時の彼の目は、ゾッとするほど鋭く据わっている。私の喉の奥がキュッと痛んだ。その時、キッチンから人影が勢いよく飛び出してきた。枝実子が悲鳴を上げながらすがりつき、佳之の手からガラスの破片を奪い取った。彼女はかなり露出多めの格好をしている。白いレースのキャミソールワンピース。豊かな胸元がはっきりと剥き出しになっている。それは、私が買ったものの着る勇気がなくて、ずっとクローゼットに眠らせていた服だ。心は再び奈落の底へと沈んでいく。カバンを掴み、振り返って立ち去ろうとしたその時。佳之の手が、凄まじい音を立てて枝実子の頬を張り飛ばした。くっきりと5本の指の跡が浮かび、若々しい頬がみるみるうちに赤く腫れ上がっていく。「どうして俺をたぶらかしたんだ!なんであの時、俺が酔っ払ってるのをいいことに、亜矢の服なんか着て挑発してきたんだ!お前みたいな泥棒猫のせいで、俺はすべてを失ったんだ!亜矢が俺を捨てたんだ……もう、取り返しがつかねえ……俺が汚いって、嫌われたんだ…
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第8話
佳之は慌てて私の後を追ってきたが、私は相手にせず、あらかじめ呼んでおいたタクシーに飛び乗って病院へ向かった。じゅりの体はボロボロだ。産後の静養が必要な時期に、十分に休むことができなかったせいだ。私が差し入れたサプリメントが、ついに役に立った。彼女は病室のベッドにもたれかかり、一口ずつそれを口に運びながら、堰を切ったように涙を流し続けた。過去の記憶が鮮明によみがえってくる。「なんであんな男を信じちゃったんだろう。あの時、ママにあんなに止められたのに、意地になって聞かなかった」私の手をぎゅっと握りしめた。「亜矢、私と同じ道だけは絶対に歩まないで。本当にお願いだから」じゅりは夫に電話をかけ、何度も費用をねだった。しかし、にべもなく断られ続けると、ついに理性を失ったように叫び声を上げた。「あなたを愛してたから、子供を産んであげたんでしょうが!この無責任なクズ野郎!私が病気になったのだってあなたのせいなのに!少しぐらいお金を出すのがそんなに嫌なわけ?この子が足かせになってなきゃ、とっくに自分で稼ぎに行ってるわよ!少しは人の心ってものがないの?ねえ、話を聞いてよ」彼女は最後、絶望に打ちひしがれてベッドへ倒れ込んだ。生きる気力も、かつてのプライドも、すべて吸い尽くされてしまったかのようだ。私は彼女の手からスマホをひったくり、病室の外へ出た。スピーカーから漏れる男の声は、底冷えがするほど冷酷だ。「あいつは都合のいい女だった。子供を産んでくれて、金のこともうるさく言わなかった。まあ俺も若かったからさ。妊娠したって聞いて、お人好しにも籍を入れてやったわけ。愛してた時期もあったけど、男が一生一人の女だけを愛し続けるなんて無理だろ?それに、出産後のあいつの姿を見てみろ。お前も女なら分かるだろ、どれだけ見るに堪えないか。これだけ仕事で成功してるんだから、見栄えのいいきれいな秘書を一人や二人囲ったっていいはずなのに、あいつがガミガミうるさいから切り捨てただけだ。強欲なのが悪いんだ。俺のせいじゃない」あまりにも平然とクズ発言をしている。この男の愛など、昨日まで夢中だった人間を明日には平気で手放す程度のものなのだ。私は深く息を吸い込んだ。胸が詰まって苦しい。「すみません、1342号室の小田島さんの治療費をお支払いしたい
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第9話
じゅりが順調に退院した。彼女に、離婚裁判を起こすよう勧めた。子供のためだけじゃない。これからの彼女自身の人生を取り戻すために。彼女は私の手を握り、何度も頷きながら、男を見る目だけはしっかり養うんだよ、と戒めるように言った。「今ならよく分かる。結婚なんてしなくたってどうってことない。男にぶら下がるくらいなら、自分の力で食べていくほうがよっぽどマシだよ……」妊娠してからの過酷な体験を語る時、彼女はいつも涙をボロボロとこぼしている。彼女は私の大学の近くへ引っ越してきたので、私は講義のない時間を見計らって彼女の様子を見に行った。子供は実家の両親に預け、彼女は社会復帰に向けて全力を注いでいる。両親が工面してくれた資金を元手に、小さなパン屋を開いたのだ。「両親がいてくれたおかげで、なんとか踏みとどまれたよ」けれど、私にはもう支えてくれる人がいない。生まれたばかりの頃、父は不慮の事故で亡くなり、母が女手一つで私を育ててくれた。その母も、大学3年の時に不慮の交通事故に遭った。私と佳之が病院へ駆けつけた時に、母はもういまわのきわだった。私を一人残していくのが心残りでならなかった母は、佳之の手をしっかりと握りしめ、何度も何度も私のことを託していた。……それからの日常は、研究室にこもって実験を繰り返し、教授の泰士と最近の進捗について議論を交わすことだけになった。同じ研究室の後輩の女の子は、毎日恋人から花束を受け取り、幸せいっぱいの顔で実験台の前に立ち、のろけ話を披露していた。ある日、後輩たちが興味津々で私に尋ねてきた。「そういえば、山本先生から聞いたんですけど、先輩って彼氏さんがいるんですよね?なんで一度も連れてきてくれないんですか?」「そうですよ!山本先生はいつもベタ褒めしていました。ものすごくイケメンで、先輩のことをとても大切にしているって」私は、ふっと小さく笑った。「どんなに深く愛されていても、見捨てられる時はいつか来るんだもの。他人を愛する前に、まずは自分自身を愛さなくちゃね」それは、私が佳之から身をもって学んだことだ。後輩たちは、分かったような分からないような表情をしている。私は手を休め、彼女たちをじっと見つめて意味深に付け加えた。「誰かを愛することに疲れ果ててしまった時。それはね、
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第10話
教授の泰士に呼び出され、海外への短期留学プログラムに参加してみないかと打診された。おそらく最近の私の身の上を察してくれたのだろう。彼は丸一日の午後を費やし、親身になって話をしてくれた。「ずっと会田に一番期待してるんだ。私も君と同じように若かりし頃を過ごしてきたから、色々な葛藤があるのはよく分かる」ここ最近、佳之はしつこいほど大学へ足を運んでいる。講義棟の前で待ち伏せし、学食の入り口で出待ちをする。それどころか、研究室の後輩たちのために差し入れたドリンクが、毎日のように届く始末だ。そんなことが続けば、嫌でも泰士の耳に入った。「指導教授としてのエゴを言わせてもらえば、君には学問の世界でさらなる高みを目指してほしい。だが、君自身が選ぶ人生の道を邪魔する権利は、私にはない」夜風が吹き抜けるキャンパスの遊歩道は、どこか蒸し暑い。泰士は私の少し前を歩いている。「若い頃、私にも忘れられない人がいた。当時は本当にバカで、好きな人のためならすべてを投げ打ってもいいとさえ思ってた。けれど、いざ結婚してみると後悔が頭をもたげた。私の人生はこれから始まるはずだったのに、どうしてこんな狭い場所に閉じ込められてるんだろう、と」彼は私の詳しい事情を知る由もなかったが、ただ静かに自身の過去の足跡を語ってくれた。「結婚したことを後悔する人はいる。子供が生まれたことを後悔する人もいる。けれど、学問を修めたことや多くの本を読んだことを後悔した人には、私は一人も会ったことがない。もちろん、君が最終的にどの道を選ぼうとも全力で応援する。自慢の教え子だから、何をやらせてもトップに立てるだろう。だけど本音を言えば……君という本物の天才を、この手で育て上げてみたいんだ」泰士はふと足を止め、深い眼差しで私を見つめた。伝えたい言葉が山ほどあるのに、どこから話せばいいのかためらっているようだ。私は彼に向かって、いたずらっぽく微笑んでみせた。「私も、世界をあっと言わせるような成果を残してみたいです」その瞬間、胸にかかっていた霧が一気に晴れ渡り、目の前が明るくなった。泰士は満面の笑みを浮かべ、私も同じように笑った。自分が進むべき真の道を見出したのだ。……海外へ発つことが決まり、一度故郷に戻って母の墓参りをした。佳之も私の
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