All Chapters of 夫へ、290回目の裏切りで離婚届を突きつけます: Chapter 11 - Chapter 13

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第11話

ノートには、一つひとつの出来事が細かく記されていた。彼と夢乃が交わした会話まで、すべて。まるで景翔自身が深雪の視点に立ち、あの日々を最初から最後まで体験しているようだった。息苦しく、胸を締めつける文章。行間のどこを読んでも、抑え込まれた絶望と鬱屈した想いが滲んでいた。室内では煙草の火が明滅を繰り返す。景翔はベッド脇に座り込んだまま、一晩中そのノートを読み続けた。一箱すべて吸い終え、部屋は煙で満たされる。その濃い煙は、今にも彼を窒息させそうだった。夜が明ける頃には、彼の目は真っ赤に充血していた。全身から漂うのは深い悲しみと疲弊、そして果てしない絶望だけ。今になってようやく、彼は深雪の痛みを少しだけ理解できた気がした。だが、もう遅い。深雪はもう見つからない。――自分は人間以下だ。被害者は深雪だった。夢乃はここまで狂ったような悪意を持っていた。それなのに、自分は彼女ばかり庇ってきた。深雪の口を封じ、警察へ届け出るなと迫り、すべてを飲み込ませようとした。どうしてだ。どうして深雪ばかり、こんな目に遭わなければならなかった。黙って耐えていたからか。泣いて縋らなかったからか。全部自分のせいだ。必ず深雪の仇を討つ。そう決めると、景翔はすぐに部下へ命じ、夢乃を連れて来させた。そして地下室へ監禁した。助けを呼んでも誰も来ない。閉じ込められて3日目。ようやく景翔は情けをかけるように彼女の前へ姿を現した。顔は殴られた痕で腫れ上がり、青紫に変色している。夢乃は床を這いながら彼のズボンの裾にしがみつき、みじめに懇願した。「景翔さん......ごめんなさい。本当に反省してるの。お願い殺さないで......全部景翔さんを愛していたからなの......自信がなくて、誰かに奪われるのが怖かった。だから......だから、景翔さんを愛しすぎて、自分でも止められなかったの......」景翔は彼女の顎を乱暴につかみ、自分の方へ顔を向けさせる。「止められなかったからって、深雪を陥れ、殴り、ベッド動画までネット中へばら撒き、皆の前で名誉を踏みにじっていい理由になるのか?俺は言ったはずだ。深雪は俺の妻だから、絶対に手を出すなと。なのに、お前は何をした?深雪が俺のもとを去ったのは、お前のせ
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第12話

「ああ、そうだ。俺は汚れている。だから必ず深雪を見つけ出して償う。だがその前に、彼女の仇を討たなければ」景翔の凍りつくような眼差しに射抜かれ、夢乃は全身が寒気に襲われた。次の瞬間、景翔は彼女を床へ投げ捨て、傍らの護衛へ命じる。「好きなだけ痛めつけろ。命だけは残しておけ」事態が取り返しのつかないところまで来たと悟った夢乃は、瞳を大きく見開き、恐怖のあまり失禁してしまう。泣き叫びながら必死に懇願した。「ごめんなさい、ごめんなさい!白井さんに謝ります!謝りますから......!そうだ、海外へ移住してもいい!二度とあなたたちの前には現れないから!だからお願い、こんなことしないで!お願いよ、景翔さん!」しかし景翔は夢乃を不良たちへ引き渡し、彼女の悲鳴や命乞いを無視したまま、無残な姿を写真や動画に収め、それらをネットへ公開した。瞬く間に世間の非難が集中し、夢乃はネット上で激しい誹謗中傷を浴びる。一夜にして、誰からも見放される存在となった。それでも景翔の怒りは収まらなかった。彼は深雪の夫として夢乃を傷害罪で告訴し、十分な証拠が揃っていたことから、有罪判決が下る。夢乃は警察に逮捕され、懲役7年の実刑判決を受けて刑務所へ送られた。けれど、その頃の私は、もうそんなことはどうでもよかった。心も体も、もうぼろぼろだった。本当は死ぬつもりだった。飛び込む川も決め、静かな気持ちで橋の欄干を越えた、その時――「飛び込むと、冷たいし痛いし、結構つらいですよ。どうせなら、もう少し暖かくなってからにしません?」後ろから、のんびりした男の声が聞こえた。振り返ると、そこには爽やかな顔立ちの青年が立っていた。私が動きを止めると、彼はほっとしたように欄干へ寄りかかる。「実は僕も、生きるのに疲れちゃってて。ここは一年中過ごしやすいとはいえ、この季節に川へ飛び込むのはさすがに冷たすぎます。急ぎじゃないなら、一緒に待ちません?暖かくなったら二人で飛び込めば、道連れがいて寂しくないですし」私は彼を見つめ、その提案も悪くないと思った。そうして私は、運命の人――今井響(いまい きょう)と出会った。彼は小さな書店を営んでいた。店の名前は「待ってる書店」。なんとも不思議な名前だった。彼に連れられて店へ行き、私はその
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第13話

「告白なのに花束も用意しないなんて減点ですけど......今回は特別に、あなたの彼女になってあげましょう。これで満足しましたか?なので川へ飛び込むのはやめましょう、今井さん。私のためだと思って」響ははっと私を見つめ、驚きに目を見開いた。次の瞬間、目を赤くしながら私の手を強く握り締める。実は、あの日の私は飛び降りるつもりなんてなかった。ただ、少し高い場所から遠くを眺めたくなっただけ。そこへ、本当に川へ飛び込もうとしていた響が現れたのだ。あの時の彼の目に宿っていたのは、本物の絶望と、生気を失った静けさだった。だから私は彼について帰ることにした。一人の命を救うことほど尊いことはないと思ったから。彼が何を経験してきたのかは知らない。でも、私に想いを伝えてくれた以上、私はもう彼の大切な存在になれたはずだ。だったら、もう死のうとはしないだろう。彼の恋人になってからの日々は、ごく平凡だった。毎日、本を整理し、飲み物を作り、傷だらけの大きな子犬みたいな彼を甘やかす。そんな穏やかな毎日が続いていた。ある日、一人のみすぼらしく憔悴しきった男が、突然私の前に現れた。彼は私に許しを請い、自分が間違っていたと認めた。私の仇は討ったこと。夢乃を刑務所へ送ったこと。私は彼の妻だってこと。一生かけて罪を償うから、離婚だけはしないでほしい――そう何度も繰り返した。その時になって私は改めて気づいた。その男は、私の元夫――景翔だった。思えば最初から、私たちに幸せな結末はないだろうと思っていた。彼は大企業の社長。私は彼に囲われた籠の鳥。そんな関係で、愛し合いながら傷つけ合わずに済むはずがなかった。それでも私は、一度くらい全力で愛してみたかった。たとえ最後が壮絶で、惨めな結末になったとしても。一緒にいた時間は長くなかった。それでも、一生忘れられない時間だった。彼を引き留めることも。彼を許すことも。彼を手放すことも。私には、どれもできなかった。湖のほとりに座りながら、そこを海辺だと思い込んでいたようなものだ。湖の風を浴びながら、それを潮風だと信じていた。でも、湖はどこまで行っても湖。海は海。交えることはない。あの時間にどんな意味があったのかと聞かれても、うまく答えられない。
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