All Chapters of 復讐は赤色の夢のように〜幽霊として現れた恋人と復讐する恋物語〜: Chapter 1 - Chapter 4

4 Chapters

第1話 赤い夢

「黒羽、お前それは……」「そうだよ。さすがにちょっとやりすぎだって……」 夕焼け空が広がる放課後の学校の屋上で、黄金色に染められた男子二人が一人の女子に対して口にした。隠し切れない戸惑いと、そして、これから目にするであろう悍ましい光景を想像しながら。「は? 何それ。やりすぎ? 別にどうってことないじゃない。それに、私は何もしてないし」「何もって、お前……さすがに」「さすがに、何? コイツが勝手に死ぬって言ってるだけじゃない。自分の意思で勝手にね」「勝手にって……」 ニヤケ顔の女子――黒羽霧は長い黒髪をさらりと手で流しながら飄々と言い放った。 僕――因果崎神と糸賀律は、そんな黒羽を見て背筋をゾッとさせた。コイツが今から律にさせようとしていることが本気であると確信したから。 僕達だけではない。小林と三井も同様だ。いつもは黒羽のマリオネットような二人だが、しかし、今はまるで違って見えた。 徐々に体温を失っていき、そのまま氷のように冷たくなるのではと錯覚してしまいそうになる程に怯えて見える。l「ねえ、どう? 因果崎? 大切な恋人がこれから目の前で死ぬところを見られる気分は」 まるで用意された台本をただただ読み上げるかのようにして、黒羽は言葉にたった一ミリも、塵程度も、黒か白かも判別できない燻み切った色を含んだ声音で訊いてきた。 何を言っているんだと思った。どうだって? ふざけるな。律は僕にとって大切な恋人だ。それをお前はこれから殺そうとしているんだ。答える気になれるはずもないだろうが。「大丈夫だよ、神くん。ねえ黒羽。私が死ねば二度と神くんのことをイジメないんだよね? 苦しい思いをさせたりしないんだよね?」 黒羽に再度確認した律の足元には、つい先程、無理やり書かされた遺書と脱いだ革靴が丁寧に揃えられて置かれていた。「バカ言うな律! コイツの言うことを本気にするな! 頼むから……頼むからそれだけはやめてくれ!!」 ゆっくりと、律は頭を振った。 僕の瞳の奥にある『何か』を確かめるようにして見つめながら。「いいの。神くんのためなら何だってできるから。だって私、神くんの彼女だもん」「だったら僕の言うことを聞いてくれよ! 何だってできるんだろ! それに、お前が死んだ
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第2話 始まりの再会

 お昼頃。僕は律の墓前にいた。「律、お前暑いの苦手だったよな」 焦げさせるかのように射してくる真夏の日差しを浴びながら、小さく呟いた。蝉の鳴き声がやたらと煩く感じながら。そして思い出す。律と過ごした夏のできごとを。つまりは思い出を。失いたくない、たくさんの大切な宝物を。「――また、一緒に海に行きたいな」 持ってきた菊の花束をそっと添え、墓前で両手を合わせた。そして、ゆっくりと目を瞑る。『あの日』の出来事を甦らせながら。 嫌な予感はしていた。 僕がイジメのターゲットにされてから、呼び出されるのはいつも体育倉庫だった。そこで小林と三井の二人からサンドバッグよろしく殴り続けられてきた。 その間、黒羽はというと、苦痛で顔を歪ませる僕を見てはニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら悦に入る。 それが、日常だった。 が、しかし。あの日に限っては僕だけではなく、律も一緒に連れて行かれたのだ。『ギャラリー』と称して。  二人に殴られている僕を見て、律は嗚咽を漏らしながら涙を流し、何度も何度も大声で叫んでいた。『もうやめて!!』、と。  律も驚いたことだろう。心配をかけないよう、イジメの件は詳しく言わないでおいていたから。だからこその涙だったのだろう。目の前で、日々恋人が殴られ続けていたことを知ってしまったのだから。そりゃ泣きたくもなるはずだ。 僕はあの日の律と黒羽が交わした会話を思い出す。『お願い!! イジメなんてくだらないことはもうやめてあげて!! 神くん死んじゃうよ!!』『イジメる? 何言ってんのよ、このクズが。ちょっと可愛いからって調子に乗ってんじゃないわよ。私はわざわざアンタに見せてあげてるのよ? このショーを。目の前で。特等席で。嬉しく思いなさいよ』『何がショーよ! 黒羽、アンタ人間じゃないわ! 自分は一切手を出さないで苦しむ神くんを見て楽しそうにして。何が面白いって言うのよ! 父親が誰だとかどんな人なのか、そんなこと知ったこっちゃないわよ! 神くんを殴るなら、代わりに私を殴りなさいよ!』 律のその言葉を聞いて、黒羽は表情を一変させた。 もしかしたら、最初は律のことを本当の意味で『ギャリー』としか見ていなかったのかもしれない。 だが、恐らく黒羽はこの時に予定を変えたのだろう。律を殺して僕が苦しむ顔を見ようと。そして、自分をバカにした律
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第3話 作戦会議

 塵埃まみれの小さな空間――体育倉庫の中に、僕と律はそこにいた。黴臭さと埃っぽさを混ぜ合わしたような不快極まる匂いを鼻腔で感じながら。「じゃあ神くん。そろそろ始めようか?」「……そうだね」 一体、これから何を始めるのかというと、会議だ。議題は言わずもがな。三人に対する復讐について。 だけど――「神くんどうしたの? なんかボーッとしてるけど」 体操部が使用するマットの上に腰かけながら、律は声を発した。「……いや、ちょっとね。なんか現実感がなくてさ」 嘘ではなかった。 一生、僕は二度と、柔らかで優しい声音を聞くことも、言葉を交わすことも、姿を見ることも、触れることも。それら全てを失ってしまった。絶望していた。 だけど、どういう形であれ、死んでしまった恋人と再会できたのだから。現実感が湧かないのは至極当然だ。 が、しかし。実際は少し違った。僕が今、一番深く考えていたのは『復讐』についてだ。『人を呪わば穴二つ』と言われているように、復讐をすることで、それらは必ず返ってくる。降りかかってくる。そういうものだ。だからこそ、こればかりは深く考えざるを得なかった。 でも、復讐はする。いや、しなければならない。逃げてはいけない。でなければ、律の恋人として失格だ。 それだけは、確かだった。 復讐であり、これは仇討ちでもあるのだから。「――なあ、律。復讐ってどうやってするんだ? さっき『やりようがある』って言ってたじゃん?」「うーん、それについては案はあるんだけど、順番をどうしたらいいのかなって。黒羽を最後にすることまでは決めてるんだけど」「最後に!? ちょ、ちょっと待って律!? それだとまた黒羽が、全てを揉み消すに決まってるだろ!? だから順番的には
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第4話 シジュウカラ

 階段を上り、屋上までやってくると、黄金に染まった夜と夕刻の中間の空が視界いっぱいに広がった。 真夏は日が暮れるのが遅いけれど、しかし、すでに太陽は沈みかけていた。それだけ長い間、僕と律は体育倉庫で話し込んでいたということだ。 時間を忘れる程に。「なんだか懐かしいね」「――そうだね」 律にそう言葉をかけられたが、上手い返しが見つからなかった。 複雑な気分だ。 自分が死んだ場所を見た人間は、一体どのような感情を覚えるのだろうか。 そして、律は今、何を覚え、何を思い、何を考えているのだろう。どのような『色』を見ているのだろう。 僕は、それが知りたかった。「――ねえ、神くん覚えてる? 私がここから飛び降りた時のこと」 少しの静寂を破るかのようにして、律は訊く。忘れるわけがない。あの時のことの全てを、僕は頭の脳裏に焼き付けている。心に刻み込んでいる。胸の中に仕舞い込んでいる。 哀切。悲しみ。孤独感。この一年間、様々な感情が僕の思考の全てを支配してきた。だからこそ、上手く言語化できないのだ。「よいしょっと」 そんなことを考えている内に、律は以前よりも高い、屋上に取り付けられたまだ新しいフェンスをよじ登った。 何故にフェンスを高くしたのか。理由は言わずもがな。「――あの時ね、私、鳥になろうと思ったの」「鳥に……?」 背を向けているのでどんな表情をしてあるのかは分からない。だが、そんなことお構いなしという感じで、律は言葉を紡ぎ続けた。「私がここから飛び降りる時にさ、両手を広げてたの覚えてるかな? あの時にね、私強く思ったの。願ったの。鳥になりたいって。空を自由に飛んでみたかったんだ。それで、せっかく死ぬんだから神様も最後くらい願いを叶えてくれるんじゃないかなって」 ――それに、と。律は紡ぎ続ける。「それにさ。もし鳥になれたら、神くんのことを見守ることができるんじゃないかなって思って。ずっと、近くで。そしたらね、気が付いたらなってたんだ。鳥に。神くん気付いてくれてたかな?」 合点がいった。あの時、確かに律は飛び降りる直前まで両手を広げていた。その時はただポーズを取っているだけだと、そう思っていた。 しかし、その次の日からやけに視線を感じていた。最初は黒羽の一味だと思ったが、違った。それに、ぐるりを見渡しても誰もいなかったことを覚えてい
last updateLast Updated : 2026-07-14
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