桐生慧(きりゅう けい)の幼なじみ、相沢莉子(あいざわ りこ)が、結婚式の途中で花嫁が逃げ出す「駆け落ちごっこ」をしてみたいと言い出した。式が半ばまで進んだところで、慧は花嫁姿の私――一条美咲(いちじょう みさき)を振り返った。「莉子の駆け落ちごっこに付き合ってくる。五分で戻るよ。あいつが遊び好きなのは、美咲も知ってるだろ。そんなに目くじらを立てるなよ」「美咲さん、私、ただ結婚式から逃げ出す花嫁の気分を味わってみたかっただけなんです。本当に慧くんを奪うわけじゃないのに、どうしてそんなに怒るんですか?」莉子は、挑発するような目で私を見た。私は慧の腕を強くつかんだ。「慧、招待客はもう全員そろっているのよ。それでも莉子のわがままに付き合うつもり?」慧は私の手を振り払い、甘やかすような眼差しを莉子へ向けた。「莉子は独身主義なんだ。ただ、式の途中で逃げ出す花嫁の気分を味わってみたいだけだ。俺は少し付き合ってやるだけなんだから、そんな心の狭いことを言うなよ」胸の奥から吐き気が込み上げ、心臓を鈍く締めつけられるような痛みが走った。私は出口を指さし、莉子に言い放った。「これは私の結婚式よ。あなたにいてほしくない。今すぐ出ていって!」莉子はびくりと肩を震わせ、たちまち目に涙を浮かべた。慧はすぐに手を伸ばし、莉子をかばうように抱き寄せた。「美咲、お嬢様育ちのわがままもいい加減にしろ。莉子は俺たちの結婚式に出るために、わざわざ留学先から帰国してくれたんだ。もうすぐ向こうへ戻るんだから、少しくらい一緒にいて何が悪い」まるで自分のほうが正しいとでも言いたげな慧の顔を、私は黙って見つめた。下ろした手は、いつの間にか固く握りしめられていた。莉子のためなら、慧は何でもした。莉子が生理痛でつらいと聞けば、その日のうちに飛行機で駆けつけて世話をし、高熱を出していた私を一人きりで家に残した。莉子が落ち込んでいると言えば、一晩中ビデオ通話に付き合い、長年不眠に苦しんでいる私には見向きもしなかった。莉子が「旅行に行きたい」と口にすれば、すぐに彼女を連れて世界中を巡り、私は一人で家に残され、帰りを待ち続けた。莉子には惜しみなく時間を注ぐくせに、私にはほんのわずかな時間さえ与えようとしなかった。慧も、私が傷ついていることには
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