結婚式まであと二か月。新居の引き渡し確認に訪れた私・温井咲那(ぬくい さな)は、間取りが変わっていることに気づいた。いつの間にか、一部屋増えていたのだ。しかもその部屋は私の寝室の二倍以上の広さがあり、スペースを確保するために、私のウォークインクローゼットまで取り壊されていた。理由が分からず、中島湊斗(なかしま みなと)が帰宅するのを待ち、彼の顔を見つめながら眉をひそめて尋ねた。「どうして部屋を一つ増やしたの?しかも私には何も相談しなかったの?」彼は一瞬だけ動きを止めたが、すぐに笑みを浮かべた。その様子は、まるで大したことではないと言わんばかりだ。「君の親友、俺たちが新居を買ったって聞いて、すごく羨ましがってただろ?彼女、この海崎市で頼れる人もいないし、毎日あんなボロい賃貸に住んでる。これから俺たちが暮らす家に一部屋くらい用意してあげても、別にいいじゃないか」――また、その「別にいいじゃないか」だ。私が車を買うと、湊斗はすぐ後に木村南月(きむら なつき)にもっと高級な車をプレゼントした。しかも彼は、もっともらしい理由まで並べた。「彼女、毎日残業続きだろ。終電に間に合わないこともあるし、不便じゃないか。君の親友なんだから、半分は身内みたいなものだ。車を買ってあげても、別にいいじゃないか」私が海外から取り寄せて、ようやく手に入れた希少な結婚指輪でさえ――翌日には、南月のSNSに同じデザインの指輪を見せびらかす投稿が上がっていた。私が怒っても、湊斗はただ薄く笑うだけだった。「君はもう結婚する。でも彼女はまだ一人で、いつも寂しそうにしてる。君の親友にいい印象を持ってもらうために、指輪を一つ贈るくらい、別にいいじゃないか」そして今、また同じ言葉を聞いた私は、もう迷わなかった。すぐに不動産会社へ連絡し、この家の売却を依頼した。そんなに南月が大事なら、この結婚だって、やめたって別にいいじゃない。……【温井様、本当にこのマンションを売却されるんですか?しかも相場の半額で?】仲介担当のメッセージには、信じられないという気持ちがにじんでいた。このエリアの物件は引く手あまたで、こんな安値で手放す人などいない。ましてや内装も家具もすべて揃っていて、あとは荷物を持って入居するだけなのだから。
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