「どうして、こんなことをしたんだ?」震えを必死にこらえて問いかけたが、滲む視界まではどうにもならなかった。目の前の真奈美には、かつての優しさも愛らしさも残っていなかった。俺を見る目は、ひどく冷めていた。「だって、あなたはいつまでたっても蓮に張り合ってばかりだったじゃない」俺のどこが、蓮に張り合っているように見えたのだろう。母まで、責めるような目を向けてきた。「この6年で、少しは分かってくれると思ったのよ。蓮のものを何でも欲しがるのは、もうやめてほしかったの。それに、二人にはもう子どももいるの。いい加減、諦めなさい。あなたにも、きっと別の幸せが見つかるわ」そんな未来は、もう俺には残されていない。唇を噛みしめても、胸の痛みは少しも引かなかった。「俺は一度だって、蓮のものを奪ったことなんかない」喉が詰まり、声を絞り出すのがやっとだった。子どもの頃、父も母も、蓮の好きなものだけはいつも覚えていた。だから俺も、蓮と同じものが好きだと言うしかなかった。そうすれば、ほんの少しは俺のことも見てもらえると思っていたからだ。それなのに、俺が同じものを欲しがっただけで、あの人たちには蓮のものを奪おうとしているように見えたらしい。学生の頃、俺は蓮より10センチも背が高かった。それでも母が買ってくる服は、いつも蓮に合わせたサイズだった。小さすぎると何度言っても、次に服を買うときには、また蓮のサイズを選んだ。そのせいで、服の袖もズボンの裾もいつも少し短く、俺は何年も周りに笑われ続けた。もっと早く認めればよかった。あの人たちは、最初から俺を愛していなかったのだ。そんな俺を見て、真奈美はほんの少し表情を和らげ、ティッシュを1枚差し出してきた。「祐一、もう前を向いたほうがいいよ」俺が受け取らずにいると、蓮がわざとらしく申し訳なさそうに口を開いた。「兄さん、ごめん。俺が悪かったよ。でも、俺たちはまだ籍を入れてない。真奈美は兄さんに返すよ」不意に、母の手が俺の頬を打った。頬がかっと熱くなり、じんじんと痛んだ。呆然と母を見返した。俺を叩いた手はかすかに震えているのに、その声には少しの迷いもなかった。「いい加減にして!真奈美は妊娠してるのよ。生まれてくる子まで、あなたと同じように家の恥にするつもり?」
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