로그인弟の木村蓮(きむら れん)と婚約者の吉田真奈美(よしだ まなみ)が亡くなってから6年目、俺――木村祐一(きむら ゆういち)は、自分を葬るための墓まで決めていた。 二人の墓参りも今回で最後にするつもりで家を出ようとしたそのとき、母――木村美恵子(きむら みえこ)が、ふいに俺を呼び止めた。 「祐一、今年はもう行かなくていいわ。……蓮も真奈美も、生きてるの」 呆然と立ち尽くす俺の前で蓮の部屋のドアが開き、死んだはずの蓮と真奈美が姿を現した。 蓮は口の端を上げ、隣に立つ真奈美をからかうように笑った。 「賭けは俺の勝ちだな。ほら、言っただろ。兄さんは絶対に気づかないって。 約束どおり、これからは俺が上な。そうだろ、真奈美?」 かつては、俺が少しつらい思いをしただけで泣いてくれた真奈美が、今はうんざりしたように俺を見ていた。 「はあ……この人が鈍すぎただけでしょ。私たち、ずっと隣に住んでたのに、全然気づかなかったんだから」 母があの部屋に入るなと言っていたのは、蓮を思い出してつらくなるからではなく、あの部屋が隣とつながっていたからだった。 確かに俺は、どうしようもないほど愚かだった。死ぬ1か月前になっても、まだ二人の墓参りのことばかり考えていたのだから。
더 보기日が経つにつれ、蓮の金遣いはますます荒くなっていった。遊び歩いては金を使い、隆志と美恵子が長年かけて貯めてきた金も、あっという間に底をついた。それでも足りなくなると、蓮は今度は住んでいる家まで金に換えようとした。蓮は隆志と美恵子の実印や権利証を勝手に持ち出し、必要な書類まで偽造して、二人に無断で家を担保に多額の金を借りた。借りた金も、高級な店に出入りし、値段も気にせず使っているうちに、すぐになくなった。ある日、金融機関から返済の督促状が届いた。封を開けた隆志と美恵子は、そこで初めて家が担保に入れられていたことを知った。「蓮!これはどういうことだ!家を担保に入れたって、本当なのか!」隆志は怒りで手を震わせ、蓮を叩こうと腕を振り上げた。だが、蓮はその胸を押し返し、面倒そうに顔をしかめた。「家を担保に入れたくらいで、何をそんなに騒いでんだよ。俺が金を使って何が悪い? 兄さんはもういないんだし、残ってるのは俺だけだろ。どうせ家も金も、最後は全部俺のものになるじゃないか」「この家しかないのよ!ここを取られたら、私たちはどこに住めばいいの?」美恵子は泣きながら蓮に詰め寄った。どうして、こんなふうになるまで甘やかしてしまったのだろう。蓮ばかりを庇い、祐一を傷つけ続けてきたことが、悔やまれてならなかった。「そんなの俺には関係ないよ」蓮は鼻で笑った。「俺は好きに金を使っただけだ。住むところがなくなるなら、自分たちで何とかすればいいだろ。いちいち俺に文句を言うなよ」贅沢に慣れ切った蓮は、自分さえよければそれでいいと思っていた。隆志と美恵子が家を失ったあと、どうなるのかなど考えもしなかった。蓮は督促を無視し、返済もしなかった。その結果、金融機関が競売を申し立て、家は裁判所に差し押さえられた。やがて買い手が決まり、隆志と美恵子は長年暮らした家を明け渡すことになった。行くあてもなく、二人は家の前に座り込み、抱き合うようにして泣き崩れた。住む家まで失い、行き場のない怒りを二人は蓮にぶつけた。「全部お前のせいだ!お前があんなことをしなければ、祐一は死なずに済んだ!俺たちだって、家を失わずに済んだんだ!」隆志は蓮をにらみつけ、声を震わせた。「祐一を信じてやればよかった……お前ばかり庇うんじゃなかった。どうして、
真奈美は集めた証拠を手に、木村家へ戻った。まずは蓮がどう出るのか、確かめるつもりだった。真奈美が姿を見せると、蓮はすぐに近寄り、そのまま抱き締めようとした。だが、真奈美は触れられる前に、その腕を強く払いのけた。「触らないで」聞いたこともないほど冷たい声に、蓮は息をのんだ。美恵子が慌てて二人の間に入った。「真奈美、どうしたの?蓮だってつらいのよ。そんなにきつく当たらなくてもいいでしょう」「つらい?」真奈美は証拠をテーブルに叩きつけた。「一番つらかったのは祐一よ。6年前のことも、その後のことも、全部蓮が仕組んでたの」真奈美は6年前の出来事から順に説明し、集めた証拠を隆志と美恵子の前に広げた。二人は目の前に並べられた証拠を見つめたまま、しばらく声も出なかった。やがて美恵子が、震える声で蓮に問いかけた。「蓮……嘘よね?こんなの、何かの間違いよね?」蓮は顔をこわばらせ、何度も首を振った。「違う、俺じゃない。みんな兄さんに騙されてるんだ。俺は兄さんに陥れられたんだ……」「まだ祐一のせいにするの?」真奈美は蓮の言葉を遮った。「具合が悪いふりをしたのも、祐一を突き落としたのも、あなたでしょう。自分がやったことを全部祐一のせいにして、ずっと私たちを騙してたのね。証拠は全部そろってる。それでもまだ嘘をつくの?」蓮はとうとう開き直った。「そうだよ。全部俺がやった。6年も気づかなかったお前が馬鹿なんだよ。お前だって、偉そうに言える立場かよ。あの夜、相手が俺だって分かってたくせに、結局俺と寝ただろ。兄さんが死んだ途端、今さら兄さんだけを愛してたみたいな顔するなよ。お前がいなければ、俺だって兄さんにここまでしなかった。俺と一緒にいたくせに、心の中ではずっと兄さんのことばかり考えてた。吐いたのも演技だし、兄さんを突き落としたのも俺だ。そうだよ、全部俺がやった……ははっ」その言葉を聞いた瞬間、祐一の絶望した目が真奈美の脳裏に浮かんだ。怒りが一気に込み上げ、真奈美は蓮の頬を力いっぱい叩いた。「……最低。あなたを選んだことが、私の人生で一番の間違いだった」真奈美は蓮をまっすぐ見て、はっきりと告げた。「これで終わりよ。この子は私が産んで、一人で育てる。もう二度と、私にもこの子にも関わらないで」
真奈美はまず、祐一が安置されている葬儀社へ向かった。静かに横たわる祐一は、もう二度と真奈美に笑いかけてはくれない。棺のそばに膝をつき、子どものように泣きながら何度も謝った。けれど、どれだけ名前を呼んでも、祐一が答えることはなかった。その後、真奈美は青葉ヶ丘霊園へ向かった。担当者から祐一の遺品として、1冊の画集と1冊の日記を渡されると、祐一が選んでいた墓所の前に座り、その場で画集を開いた。そこには、この数年に祐一が描いた絵が収められていた。幼い頃に暮らしていた家や、まだ学生だった頃の真奈美の姿もあった。どの絵にも、ひとりきりの人物が描かれていた。暗い色合いの中に、祐一の寂しさがにじんでいるようだった。最後の一枚には、荒れた墓地にひとりで立つ少年が描かれていた。少年の後ろには、誰も描かれていなかった。題名は「帰路」だった。祐一はずっと前から、ここを自分が最後に帰る場所だと決めていたのだ。日記には、6年前の婚約パーティーの日から、亡くなる前日までのことが綴られていた。そこに書かれていたのは、真奈美の知らなかった祐一の苦しみばかりだった。6年前、真奈美と蓮が亡くなったと知らされた日、祐一の日常は一変した。自分のせいで二人を死なせたと思い込み、毎日のように泣きながら、自分を責め続けていた。この6年間、命日になるたび、欠かさず二人の墓を訪れていた。墓の前で二人の名を呼び、何度も謝っていた。夜中に一人で泣き崩れることもあった。それでも、どうにか生き続けていた。……最後のページには、亡くなる前に書いた言葉が残されていた。【俺は、最初からいらない存在だったんだと思う。みんな、俺なんていなければよかったんだろう。なら、もう望みどおりにする。真奈美。もう恨んでない。ただ、来世では会わないようにしよう。父さん、母さん。育ててもらった分は、これで返した。もう、お互いに何の借りもない。蓮。お前の勝ちだ。これからも幸せに】読み終えた真奈美は、胸が苦しくなり、手の震えが止まらなかった。日記を胸に抱いたまま、真奈美はその場に崩れ落ちた。祐一の名を呼びながら、何度も謝った。「祐一、ごめん……私のせいで、こんなことになって……お願い、戻ってきて。もう一度、会いたいよ……」何度呼んでも、その声は風に消えていった。
昨夜、蓮を病院へ連れて行って戻った時、祐一の姿はすでになかった。祐一は自分で家を出たのではなかった。終活サポートの手配で、遺体はすでに葬儀社に引き取られていたのだ。美恵子は崩れるように床へ座り込み、何度も祐一の名を呼んだ。「どうして……本当に死んじゃったの……祐一……」祐一を可愛がってきたとは、とても言えなかった。それでも、死んでほしいと思ったことなど一度もなかった。祐一は我慢強く、どんなにつらいことがあっても黙って耐える子だと、美恵子はずっと思っていた。何も言わない祐一より、泣いたり甘えたりする蓮のほうが放っておけなかった。気づけば、いつも蓮ばかりを優先していた。隆志も呆然と立ち尽くし、手にしていた新聞が床に落ちた。祐一はわがままで、蓮のものばかり欲しがる。隆志はそう決めつけ、何かあるたび、決まって蓮の肩を持った。だが、写真に写る祐一の姿を見て、ようやく気づいた。祐一は子どもの頃から、自分から何かを欲しがったことなどほとんどなかった。いつも後回しにしていたのは、父親である自分のほうだった。食べ物も、おもちゃも、新しい服も、先に選ぶのはいつも蓮で、祐一には残ったものを与えていた。祐一が学年トップの成績を取っても、隆志は「次も頑張れ」と言うだけだった。それなのに、蓮が赤点を免れただけでも、家族みんなで褒めた。幼い祐一が高熱を出した時でさえ、誰にも言わず、一人で耐えていたことがあった。家族に迷惑をかけたくない。蓮の習い事を休ませたくない。祐一はそう思って、黙っていたのだろう。父親として、何一つしてやれなかった。そう気づいた時には、祐一はもういなかった。謝りたくても、すべてが遅すぎた。美恵子も隆志も、急に老け込んだように見えた。真奈美はその場から動けず、胸が苦しくてたまらなかった。スマホの写真を見つめているうちに、祐一との思い出が次々と浮かんできた。幼い頃、祐一はいつも真奈美のあとをついて回っては、何度も名前を呼んでいた。学生の頃、丈の足りないズボンを同級生に笑われる祐一を見るたび、真奈美は胸を痛め、何度も涙ぐんだ。真奈美はスマホの画面から目を離せないまま、かすれた声で呟いた。「祐一……」蓮の顔からも血の気が引いていた。祐一が本当に死ぬとは思っていなかった。家族みんなに