車内に、重い沈黙が落ちた。しばらくして、俺はかすれた声で尋ねた。「どうしてだよ……どうして、そんなことができるんだ」胸の奥がきつく締めつけられ、息の仕方さえわからなくなった。視界もぼやけ、気づけば涙が頬を伝っていた。俺の様子を見た香織は、半ば強引に車を路肩へ停めさせ、頬を伝う涙を拭った。「姉さんは子どもを残せなかったでしょう。雅人さんには、もう頼れる家族もいない。だから私が、あの人の子どもを産んであげたいと思ったの。さっきも言ったけど、先生には、この子を堕ろしたら、もう妊娠できないかもしれないって言われてるの。そうなったら、あなたとの子どもだって、もう望めないわ。この子を産むなら、あなたに父親になってもらってもいいと思ってる。どうするかは、あなたが決めて」何も言い返せないまま、全身から力が抜けていった。ほんの数時間前まで、香織は俺に抱きつき、三人で暮らす未来を嬉しそうに語っていた。研究所の所長を務める香織は、あのとき、喜びのあまり涙まで流していた。「やっと私たちにも赤ちゃんができたんだね。これからはもっと頑張って働くから。二人で、この子を大切に育てていこうね」それなのに、わずか数時間後、香織は、お腹の子が俺の子ではないと平然と告げた。怒りに任せて拳を振り上げた。だが、どうしても振り下ろせなかった。「そんなのってないだろ!」香織は身じろぎひとつせず、言い返そうともしなかった。「帰ろう。夕飯、私が作るから」まるで今までの話などなかったかのようにそう言うと、香織は俺のシートベルトをそっと締めた。その手が触れた途端、俺はぞっとして身を引いた。涙で視界が滲み、香織の顔がぼやけていった。以前、香織が流産したとき、俺は自分を責め続け、重いうつ病を患った。地元の病院では十分な治療が受けられず、香織は知人のつてを頼って、海外の専門医に診てもらえるよう手を尽くしてくれた。それからも、何度も取り乱す俺に根気強く寄り添い、研究所の仕事まで家に持ち帰って、ずっとそばにいてくれた。あの頃の香織を思い出すと、どうしても聞かずにはいられなかった。「俺たちの子どもが欲しいって言ってたじゃないか。あれも嘘だったのか?」俺がそう言うと、香織はとうとう苛立ちをあらわにした。「この子を受け入れろなんて、無
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