Todos los capítulos de 帰国したその日、妻は俺をパトロン扱いした: Capítulo 1 - Capítulo 10

11 Capítulos

第1話

国内の警察は対応が早かった。卒業式の会場を出た途端、俺は警察官に呼び止められた。身分証や結婚を証明する書類を提示し、事情を説明すると、ようやく警察も納得してくれた。警察が立ち去るとほぼ同時に、スマホが震える。送信者は妻の相沢遥だった。【誠、さっきのことにはちゃんと理由があるの。だから変に考えないでね。先に家で待っていて。帰ったら全部説明するから】短いメッセージだった。それを見つめた瞬間、不思議なくらい待つ気持ちがなくなっていた。遥と結婚して間もない頃、彼女は博士課程へ進みたいと言った。妻とその家族に少しでもいい暮らしをさせたくて、俺は大学時代の友人とともに海外へ渡り、働く道を選んだ。あの頃の俺は、自分の生活を切り詰め、稼いだ金のほとんどを遥へ送り続けていた。ただ、彼女に少しでも不自由のない生活を送ってほしかったからだ。そして去年、AIブームの波に乗り、俺が開発した製品が次々とヒットした。そのおかげで会社を立ち上げ、わずか一年で急成長を遂げ、業界でも注目される新興企業へと成長した。今回帰国したのも、本社を国内へ移し、ようやく妻や家族と一緒に暮らそうと思っていたからだった。起こり得る問題はすべて想定していた。そのための対策も、できる限り用意してきた。それでも、唯一予想できなかったことがある。その想定外が、遥自身だった。タクシーを拾おうとしたそのとき、ポケットのスマホが再び鳴る。親友の高瀬礼(たかせ れい)からだった。「もう着いたんだろ? いつもの店で待ってるから、早く来いよ。今日はお前の帰国祝いだ」通話を切ると、俺はタクシーで「路地裏バー」へ向かった。礼たちはすでに店で待っていた。俺の姿を見つけるなり、礼が満面の笑みで立ち上がる。「やっと誠が帰ってきたな。ほら、こっち座れ」席に着くなり、俺は目の前にあった酒を一気にあおった。そんな様子を見た礼が苦笑しながら肩をすくめる。「どうした? せっかく帰国した初日だってのに、そんな暗い顔して。独り身が長すぎて、寂しくなったか?」その言葉に、俺は思わず目を瞬かせた。意味が分からず、礼の顔を見返す。「独り身って、何の話だ? 俺は何年も前に結婚しただろ。お前も知ってるはずだ」礼は驚いたように目を見開いた。「お前
Leer más

第2話

俺は勢いよく顔を上げ、礼を見つめた。頭の中が真っ白になり、耳の奥では嫌な音が鳴り続けている。つまり、俺が遥のために必死で働き、少しでもいい暮らしをさせようとしていたその間に、遥は別の男との間に子どもまで作っていたというのか。「……どういうことだよ」俺の顔色がみるみる青ざめ、目まで真っ赤になっていくのを見て、礼もようやく異変に気づいたようだった。「俺たち、離婚なんてしてない」震える声でそう告げる。気づけば、手にしたグラスが割れそうなほど強く握り締められていた。その言葉に、礼は呆然と口を開けたまま固まる。しばらくして何かを思い出したように、慌ててポケットからスマホを取り出し、画面を忙しく操作すると、そのまま俺へ差し出した。「見てみろ。遥のSNSだ。……お前、これ見られないのか?」俺はスマホを受け取り、一件ずつ投稿を確認して、胸の奥が冷え切っていった。2年前までの投稿には、見知らぬ男との幸せそうな日常が並んでいた。雪の降りしきる中で抱き合い、夜空を埋め尽くす花火の下で口づけを交わしていた二人。旅行先では各地の景色を巡り、街を歩き、子どもたちの無邪気な笑い声に耳を傾けながら、仲睦まじく手をつないで歩いていた。ここ2年の投稿は、すべて子どもの成長記録だった。子どもが生まれたその日から、その成長の足跡を、ひとつひとつ嬉しそうに写真付きで残されている。震える指で画面を何度もスクロールさせたが、どこまで滑らせても一向に終わりが見えなかった。思わず乾いた笑みが漏れた。胸の奥が苦くてたまらない。世界中の苦さを、全部飲み込まされたような気分だった。吐き出したいのに吐き出せない。その苦味だけが喉の奥に張りつき、いつまでも消えてくれなかった。事情を悟った礼は、怒りを隠そうともせず遥を罵った。「ってことは、お前たち、本当に離婚してなかったのか。お前は海外で必死に働いて、遥のために金を送り続けてたんだろ? なのにあいつ、その金で別の男と暮らして、挙げ句の果てには子どもまで産んだってことか」俺は苦笑するしかなかった。この世に、自分ほど愚かな男がいるだろうか。七年間も何ひとつ気づかず、ずっと騙され続けていた。俺は、とんでもない大馬鹿だった。「……これから、どうするつもりなんだ?」俺は強く拳を握
Leer más

第3話

「電話しても出ないし、メッセージも既読すらつかないし。家の暗証番号だって、一言聞けば済む話なのに、それすらしてくれないんだね。誠ってさ、もしかして、気持ちが冷めたの? それとも、ほかに好きな人でもできた?」目の前で今にも泣き出しそうな顔をする遥を見て、俺はようやく気づいた。この女は、ここまで厚かましい人間だったのか。以前の俺なら、きっと言い争いになっていただろう。そしてスマホに保存してあるSNSのスクリーンショットを突きつけ、あれは何なんだと問い詰めていたはずだ。だが、今はもうそんな気力すら湧かなかった。何もかも、どうでもよかった。俺は遥のあとについて部屋へ戻った。玄関で上着を脱ぐと、遥は親しげに俺の袖をつかみ、そのまま体を寄せて来た。鼻先をかすめたのは、昔と変わらない香水の香りだった。かつては好きだったその匂いが、今は吐き気しか呼び起こさない。俺は反射的に遥を突き放し、そのままトイレへ駆け込んだ。胃の中のものをすべて吐き出した。遥はドアにもたれかかり、露骨に嫌そうな顔で俺を見下ろした。「ねぇ、今日どうしたの? あんなに飲むなんて、あなたらしくないわ。前にも言ったよね? 私、お酒臭い人って本当に苦手なの。何年も離れてたから、私の言うことなんて忘れちゃった? 本当に私のこと、大事に思ってるの?」口元を拭い、俺は静かに遥を見た。「じゃあ、君はどうなんだ。この何年間、俺との約束を守って、ほかの男と距離を置いていたのか」その瞬間、遥の表情がわずかに強張った。視線をそらすと、少し苛立ったように息をついた。「やっぱりね。誠なら絶対そう聞いてくると思ってた。要するに、今日一緒にいた人たちが誰なのか知りたいんでしょ?」遥は呆れたように肩をすくめ、小さくため息をついた。「分かった。ちゃんと全部話すから。あの人は博士課程の同期なの。研究でも本当にたくさん助けてもらったし、いろいろアドバイスもしてくれた。あの人がいなかったら、私は博士号なんて取れなかった。誠だって知ってるでしょ? 博士号を取るのは、ずっと私の夢だったの。そんな恩人のお父さんが重い病気でね。最後の願いが、息子の結婚した姿を見ることだったの。だから、夫婦のふりをしてほしいって頼まれたの。そんなお願い……断れるわけないじ
Leer más

第4話

【辰也との三周年記念】【辰也の誕生日】【辰也との五周年記念】【辰也とのファーストキスの記念】冷蔵庫一面に貼られたマグネットを見つめながら、俺は思わず笑ってしまったが、心の底で感じたのはどうしようもない悲しみだった。遥と付き合って、7年。俺の誕生日を、遥がちゃんと覚えていてくれたことは一度もなかった。何度か待ちきれず、誕生日が終わる頃になると、それとなくSNSへ投稿して匂わせたこともあった。すると遥は、その投稿を見てようやく思い出したように、1122円だけ送金してきた。それでも当時の俺は、そのほんのわずかなことだけで、自分は世界一幸せな男なんだと思い込んでいた。ましてや、二人の記念日となればなおさらだった。俺はいつも何日も前からプレゼントを用意し、遥のもとへ送っていた。今になって思えば、俺と遥の恋は、最初から対等なんかじゃなかった。いつも追いかけていたのは俺だけだった。そして遥は、俺からの贈り物を当然のように受け取りながら、その一方で別の男と一緒にいたのだった。着替えを終えた遥は部屋から出てくると、俺の笑い声を耳にした。怪訝そうに眉をひそめ、そのまま俺のそばまで歩いて来た。「何がおかしいの? そんなに酔っぱらってるくせに、よく笑ってられるね」俺が何も答えないままでいると、遥は俺の視線を追って、その先へ目をやった。冷蔵庫のマグネットを目にした瞬間、遥は弾かれたように口を開いた。「誠、違うの。変なふうに考えないで。あれはみんなで罰ゲームをしたときに貼っただけなの。ほんとに、それ以上の意味なんてないから」俺は何も答えず、冷蔵庫から水を一本取り出した。喉へ一気に流し込むと、そのまま遥を見ようともせず書斎へ向かった。遥は慌てたように俺を追って書斎へ入ってきた。不思議そうに俺の顔を見つめ、何か言いたげに唇を開いた。「今回帰ってきてから、なんだか――」言い終わる前に、リビングに置いてあったスマホが鳴り響いた。遥ははっとしたように振り返り、急いで電話へ駆け寄った。「もしもし? どうしたの?」しばらく耳を傾けていた遥の顔色がみるみる変わった。「えっ? 熱が下がらないの? 帰るときは元気だったじゃない。どうして? 今は病院?……分かった、すぐ行くから。落ち着いて待ってて
Leer más

第5話

写真の男を見つめながら、俺は妙な既視感を覚えた。やはりどこかで見たことがある。だが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。頭を振って余計な考えを追い払い、自分の荷物をまとめ始めた。必要なものだけを段ボールへ詰め終えると、不動産会社にも連絡を入れ、このマンションの売却を依頼した。すべてを終えたあと、少しでも休もうと寝室へ向かった。だが、遥との寝室の扉を開けた瞬間、思わず足が止まった。床には男物と女物の服が無造作に散らばり、足の踏み場すらなかった。ゲストルームも同じだった。この数年、俺がいない間、この家で二人がどれほど好き放題していたのか。考えるまでもなかった。俺は冷ややかに笑うと、部屋中の様子を一枚残らず写真に収めた。不貞の証拠になりそうなものはすべて撮影し、そのまま中里先生へ送信した。遥に慰謝料を請求するための証拠として。すべてを終えた俺は、荷物を持って静かに玄関の扉を開けた。そのとき、遥からメッセージが届いた。【あの子、熱がなかなか下がらなくて。今日は帰れそうにないから、先に休んでて】続けてもう一件。【そうだ、病人食でも作って病院まで持ってきて。ネギは入れないでね】時刻を見ると、午前3時半を回っていた。遥は、自分と不倫相手との娘のために、何のためらいもなく俺に料理を作れと言ってきたのだ。俺は返信しなかった。代わりに、礼へ電話をかけた。「こんな時間まで起きてたのか?」「今、家にいるか? しばらくそっちに泊まらせてほしいんだ」「いや、今日は当直でまだ病院。よかったら先にこっち来いよ。仕事が終わったら、そのまま一緒に帰ろう」「……分かった」短く返事をすると、俺は荷物を持って病院へ向かった。本当ならホテルへ行くつもりだった。だが、若い頃のある出来事がきっかけで、俺はホテルに泊まることだけはどうしても苦手になっていた。それ以来、一人でホテルに泊まることは一度もなかった。……病院へ向かうタクシーの後部座席に身を預けながら、俺は夜の街をぼんやりと眺めていた。頭の中では、さまざまな思いが渦を巻いていた。もう、7年目になったのか。この街もすっかり様変わりしていた。変わってしまったのは街並みだけじゃない。人もまた、変わってしまった。遥と過ごした日々が、次々
Leer más

第6話

俺は自分の世界に浸って、結局は運転手さんに声をかけられて我に返った。「お客さん、病院に着きましたよ」俺は目元をそっと拭い、車を降りた。ドアを閉めようとしたそのとき、運転手が俺を呼び止めた。「お客さん。人生、越えられない壁なんてないですよ。起きたことは全部、ちゃんと意味があるんですから」見ず知らずの人から向けられた優しさに、俺は思わず足を止めた。胸の奥が、少しだけ温かくなった。「……ありがとうございます」自然と笑みがこぼれた。そうだ。起きた出来事には、きっと意味がある。これは神様が俺に与えた試練なのかもしれない。俺は病院へ入り、そのまま礼の医局へ向かった。エレベーターの前まで来たところで、不意に見覚えのある背中が目に入った。……本当に、世間は狭い。A市には病院がいくつもあるというのに、また遥と鉢合わせるなんて。でも、もうこれ以上、彼女に関わる気はなかった。俺は踵を返し、別のエレベーターへ向かおうとした。だが、その瞬間だった。遥が振り返り、俺と目が合った。「え? 誠? こんな時間にどうしたの? なんで病院なんかに来てるの?」俺が答える前に、遥は困ったようにため息をついた。「だから言ったじゃない。子役の子の付き添いで来てるだけだって。誠、なんで信じてくれないの?帰ってきてから、なんだか疑ってばっかり。こんな夜中に病院まで追いかけてくるなんて、さすがに考えすぎだよ」俺が黙ったままでいると、遥は何かを思い出したように表情を変えた。「あっ、そうだった。病人食持ってきてって頼んでたよね」期待するように俺の手元を見回した。「弁当箱とかは? 早くちょうだい。渡したらもう帰って寝ていいから」だが、弁当箱などはどこにも見当たらない。遥はあからさまに顔をしかめた。「えっ、持ってきてないの? たったこれだけの頼み事すらできないわけ?病人食も作ってこないで、何しに来たのよ……やっぱり私を尾行しに来たってこと? もう、本当に意味分かんない!」そのとき、一人の男が子どもを抱いてこちらへ歩いてきた。子どもは遥の姿を見つけるなり、両手を広げて甘えるように叫んだ。「ママー、だっこ!」その声を聞いた瞬間、遥の表情がふっと和らいだ。男の腕から子どもを優しく抱き上げ、その頬に何度も口づけを落とし
Leer más

第7話

胸の奥に押し込めていた感情が、ついに堰を切った。俺は遥の手を強く振り払い、その目をまっすぐ見据えた。「遥。本気で、俺が何も知らないとでも思ってるのか。ここは病院だ。だったら、その『子役』と親子鑑定でもしてみるか?」言葉を重ねるたびに、遥の顔から血の気が引いていた。俺はさらに口を開こうとした。その瞬間、乾いた音が廊下に響き、遥の平手が俺の頬を打った。「誠! だから違うって言ってるじゃない! 私と辰也の間には本当に何もないの!帰ってきたばかりなのに、どうしてそんなに私を責めるの? 帰ったらちゃんと説明するって言ったでしょう!?」俺はただ呆然と遥を見つめていた。気がつけば、礼に腕をつかまれ、その場を離れていた。礼は俺を医局まで連れて行くと、救急箱を取り出し、黙って頬の手当てを始めた。しばらくして呆れたようにため息をついた。「おい、まさかとは思うけど……今の遥の泣き芝居で、まだ信じようとしてるんじゃないだろうな?」俺は何も答えられなかった。そんな俺を見て何か思い出したように、礼はポケットからスマホを取り出すと、画面を何度か操作して俺へ差し出した。「これを見ろ。前に遥が入院したとき、入院書類を旦那に送りたいって言ってたんだ。でもスマホの充電が切れててさ。代わりに俺が写真を撮って送ってやったんだ」俺はスマホを受け取り、画面へ目を落とした。そこに映っていた診療記録には、母親の欄に遥の名前がはっきり記されていた。あの子は、間違いなく遥の娘だ。さっき、涙を浮かべて必死に弁解する遥を見たとき、俺の心がほんの一瞬だけ揺らいだのは事実だった。もしかしたら何か事情があるのかもしれない。そんな言い訳ばかりが、頭の中を巡っていた。礼は俺の様子を見つめ、小さく息を吐く。「お前と遥が子どもの頃からずっと一緒だったことくらい、俺だって知ってる。あいつがお前にとって大きな支えだったこともな。でも、それは昔のお前の知ってる遥だ。今の遥じゃない。7年だぞ。人は変わる」そうだ。結局、一番冷静に見えていたのは礼だった。7年という歳月は、一人の人間を別人のように変えてしまうには十分すぎる時間だった。そのとき、ポケットの中のスマホが震えた。画面には、弁護士の中里からのメッセージが表示されている。離婚協議書の作
Leer más

第8話

「誠! やっと出てくれた……!ねぇ、家に帰ったら知らない人がいたの。しかも、この家はもう自分たちのものだって言うのよ。誠、これってどういうこと?」「家は売った」俺は眉間を押さえながら、淡々と答えた。「それと遥。これが最後だ。離婚してくれ」その瞬間、電話の向こうで遥が声を荒らげた。「嫌よ! 私は離婚なんてしない! 離婚協議書なら破って捨てたから! 絶対に離婚しないわ!誠、今どこにいるの? お願い、会って話そう。ちゃんと話し合おうよ」込み上げる感情を押し殺し、俺は短く答えた。「……分かった」通話を切ると、俺はすぐに中里弁護士へ電話をかけ、離婚協議書をもう一部用意してもらうよう頼んだ。書類を受け取ると、一人で待ち合わせのカフェへ向かった。店に入ると、遥は俺を見つけるなり、大きく手を振った。俺は何も言わずに向かいの席に腰を下ろし、持ってきた封筒から離婚協議書を取り出してテーブルへ差し出した。「サインしてくれ」遥は書類をひったくると、その場で勢いよく破り捨てた。「私は絶対に離婚しない!……そうよ。嘘をついてたのは認める。あの子は辰也との娘だわ。でも、それは五年前、辰也に命を助けてもらったからなの。その恩返しがしたくて……子どもを産んだだけ。あんただって言ってたでしょう? 人は恩を返さなきゃいけないって」遥は必死に首を振った。「お願い、信じて。それ以外は、本当に何もないの。私と辰也は、何も――」俺の視線は、遥の首筋から胸元へと落ちた。露わになった肌には、隠しきれない赤い痕がいくつも残っていた。あの二人の間に何があったのかなど、今さら説明されるまでもない。俺は乾いた笑みを浮かべた。「そうだな。ただの『セフレ』だったってことだろ」俺の視線に気づいた遥は一瞬動きを止めた。何を見られたのか察したのだろう。慌てて服の襟元を引き上げ、赤い痕を隠そうとした。俺はそんな仕草には目もくれず、封筒からもう一部の離婚協議書を取り出してテーブルへ置いた。「好きなだけ破ればいい。まだ予備はある。何枚破ろうが、俺の気持ちは変わらない」そう言って立ち上がると、遥は慌てて俺の前へ回り込み、行く手を塞いだ。「誠、お願い。せっかくあなたも戻ってきたのに! これからは毎日一緒にいられるじゃ
Leer más

第9話

俺はその得意げな顔を見つめ、思わず笑ってしまった。「俺だって離婚したいさ。でも遥が泣いて縋って、『愛してる』『離れたくない』って、どうしても応じようとしないんだ。どうしろって言うんだ?」そう言い残して立ち去ると、案の定、辰也の顔色は見る見るうちに悪くなっていた。彼の反応など気にも留めず、俺はその場を後にした。――これで済むはずがない。あいつが近いうちに次の行動に出てくる。俺はそんな予感はしていた。案の定、その翌日、遥から電話がかかってきた。「誠……あのね」どこか言いづらそうな声だった。「辰也のお父さんが、また入院したの。今度はかなり容体が悪いみたいで……。それでね、お父さんが私たちの結婚を見届けたいと言っているらしいよ。それを見たら安心できるから、きっと回復にもいいんじゃないかって……」俺は何も言わず、黙って聞いていた。「だから、離婚協議書にはちゃんとサインする。その代わり、辰也のお父さんの前で夫婦のふりをするのが終わったら、また復縁しよう?誠も知ってるでしょう? 辰也は私の命の恩人なの。これは、その恩返しだから」少し甘えるような口調になり、遥は続けた。「住所を教えて? サインした離婚協議書、私が届けに行くから」あまりにも稚拙な言い訳に、思わず笑いそうになった。もう反論する気にもならない。どうせ、俺が望んでいた結末は、もうすぐ手に入るのだから。電話を切ると、隣で一部始終を聞いていた礼が呆れたように立ち上がった。「はぁ!? 何だよ、それ!結婚を見るだけで病気が治る? そんなもんで治るなら、俺たち医者はいらねぇよ。手術も薬も全部やめて、患者全員に結婚させたら?」俺は思わず苦笑した。そのとき、スマホに一件のメッセージが届いた。送り主は見覚えのない番号だった。【ほらな。俺が何を言っても、遥は全部信じるんだ】俺は礼と一緒に、再び病院へ向かった。今度の目的は、離婚協議書を受け取ることだった。離婚が決まったと思ったのか、俺を見つけた辰也は、得意げに遥を引き寄せ、そのまま俺の目の前で唇を重ねた。目の前で熱く唇を重ねる二人を見ながら、俺はスマホを取り出し、その様子を一枚写真に収めた。シャッター音に気づいた遥が振り返り、俺と目が合った。遥は慌てて辰也を突き放すと、乱れた髪や服
Leer más

第10話

「俺はただ、俺のものをこの手で奪い返すだけだ」そう言い放つと、俺は遥と辰也の顔色を気にすることなく、背を向けてその場を後にした。礼の家へ戻る道すがら、遥からひっきりなしに電話がかかってきた。俺が出ないと分かると、彼女はまた狂ったようにメッセージを送りつけてきた。【あなた、これって冗談よね?分かってる、あなたが怒ってるのは分かってるから。でも私だって、恩を返したかっただけなの。ねえ、許してくれない?お願いだから電話に出て。もう辰也の芝居には付き合わないから。ね、一緒に帰って、ちゃんとやり直そうよ】次々と届くメッセージを眺めながら、俺は苛立ちを抑えきれず、そのまま遥をブロックした。それから航空券の予約サイトを開き、明日の午後の便を取った。礼の家に戻ると、俺は一部始終を親友に話した。それを聞いた礼は、痛快だとばかりに大笑いしていた。引き継いだ遥の会社は礼に任せることにし、今後の段取りを伝え終えると、俺は寝室に入ってベッドに横たわった。帰国してからたった一週間で、俺の生活は天地がひっくり返るほど一変してしまった。俺はもう、本当に疲れ果てていた。とろとろと眠りに落ちていったその時、俺はどういうわけか両親の夢を見た。夢の中で、父と母は目を赤くしながら俺を抱きしめ、「よく頑張ったね」と言ってくれた。それから、いつかまた光が俺の上に降り注ぐ日が来るはずだと、そう言ってくれた。目が覚めると、窓の外はちょうど朝日が昇るところだった。木々の茂った葉の間から差し込む朝の光が、カーテンの上で無数の光の粒となって揺れ、影と光が入り混じっていた。その瞬間、俺は確かに光の存在を感じ取っていた。もう一度二度寝しようかと思っていたところ、突然、礼の家のドアが叩かれた。礼はすでに仕事に出ていた。ドアを叩く音が鳴り止まないので、仕方なく寝ぼけたまま階下に降りて応対に出た。ドアを開けた瞬間、目に入ったのは遥だった。俺を見るなり、遥は感情を抑えられないように駆け寄ってきて、いきなり抱きついてきた。「誠……会いたかった」思わず笑いそうになった。7年も一緒にいて、俺が海外にいた何年間、彼女は一度も「会いたい」なんて言葉を口にしたことがなかった。それなのに、離婚した今、たった一日会わなかっただけで「会いたかった」と言うのか。
Leer más
ANTERIOR
12
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status