その場の空気が、一瞬で凍りついた。圭は慌ててブレスレットを握りしめ、外そうとする。「ごめんなさい、雪枝さん。お二人の大切な思い出の品だなんて知らなかった。すぐに兄さんに返すよ」隣にいた娘の染谷絵夢(そめや えむ)は頬を膨らませ、小さな顔をこわばらせながら声を張り上げた。「パパは大事なものだって知ってるのに、わざと叔父さんにあげたんでしょ!叔父さんを困らせたいだけじゃない!最低!」雪枝はじっと俺を見つめる。その眉間には、隠しきれない疲労が滲んでいた。「裕人……あなたは、いつまでこんなことを続けるつもりなの?あなたを連れ戻したのは、もう一度ちゃんと夫婦として暮らしたかったからよ」俺には、ただ滑稽にしか思えなかった。昔から圭が欲しがるものは、少しでも渡すのが遅れれば、そのたびに報復された。だから今は何も逆らわず、言われるまま従っている。それなのに、彼女はまだ満足できないらしい。俺は振り返り、雪枝から誕生日にもらった限定モデルの腕時計を手に取ると、そのまま圭へ差し出した。「ブレスレットだけじゃ足りない?なら、これもお前にあげるよ」その瞬間、雪枝の顔色がみるみる青ざめた。彼女は勢いよく腕を振り上げ、テーブルの上のバースデーケーキを薙ぎ払った。クリームが俺の裾に飛び散り、皿は床で粉々に砕け散った。「裕人、そんなに嫌味を言って私を傷つけたいの?」「そんなつもりはない」雪枝は目を閉じ、込み上げる怒りを必死に押し殺した。「あなたが今でも怒っているのは分かってる。当時、圭くんを先に救急車へ乗せたことを……あのとき、圭くんは大量出血していて、本当に助からないかもしれなかったの。この数年間、私はずっとあなたに適合する心臓のドナーを探し続けてきた。あんな悲劇を二度と繰り返したくなかったから。あなた……もう意地を張るのはやめて。これからは、ちゃんと夫婦としてやり直しましょう。お願い」俺は適当に頷いた。その途端、絵夢が勢いよく立ち上がった。「ママがちゃんと謝ってくれたのに、どうしてそんなに冷たいの?おじいちゃん以外、誰にも好かれないのも当然だよ!」その一言は、不意に胸へ突き刺さる針のようだった。俺は皮肉げに笑う。「ちょうどいい。俺だって、おじいちゃん以外は、お前たち全員のことが嫌い
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