こちらの様子に気づいた翔也が、すぐに駆け寄ってきた。「真央、大丈夫?」直樹は、翔也と私を交互に見た。何を疑っているのかは、すぐに分かった。私は何も言わず、翔也の手を強く握った。翔也は驚いたように一瞬固まったが、手を離そうとはしなかった。私は直樹を見て、静かに告げた。「はっきり言っておくね。この人、私の彼氏だから」直樹の顔から、さっと血の気が引いた。「嘘だろ。俺を嫉妬させたいからって、そんな嘘までつくのかよ」私は何も説明せず、翔也の手を握る指に力を込めた。「信じなくてもいい。でも、もう私に関わらないで」直樹は目を赤くしたまま、翔也をにらんだ。「俺より、こいつのほうがいいのか?」「うん。ずっといいよ」私は直樹を見たまま、続けた。「母の診察にも、当たり前みたいに付き添ってくれる。連絡すれば、ちゃんと返してくれる。何より、私や母の気持ちをちゃんと考えてくれるから」直樹は何も言い返せなかった。そのとき、背後から甲高い声が飛んできた。「真央さん、もう次の人を見つけてたんですか。ずいぶん切り替えが早いんですね」ヒールの音を響かせながら、亜希がこちらへ駆けてきた。直樹を追ってきたらしく、きれいに化粧した顔が怒りで引きつっていた。亜希はそのまま直樹の腕にすがりついた。「直樹、見たでしょ?真央さん、もう別の人と付き合ってるんだよ。直樹のことなんて、本当はどうでもよかったんじゃない?被害者みたいな顔をして、直樹だけを悪者にしてただけでしょ。もう帰ろうよ。私なら、直樹のことをちゃんと大事にするから。直樹がいいなら、私が彼女になるよ。ずっとそばにいるから」直樹がゆっくり振り向くと、亜希はその表情を見て一瞬黙り込んだ。それでも、涙を浮かべながら言葉を続けた。「私だって、ずっと直樹のそばにいたじゃない。私のどこが真央さんより劣ってるの?おばさんの事故だって、私のせいじゃないのに。どうして私ばかり責められなきゃいけないの?」亜希が言い終えた直後、直樹がその頬を平手で打った。乾いた音が響き、廊下はしんと静まり返った。亜希は頬を押さえ、信じられないように直樹を見た。「……直樹、私をぶったの?」直樹は亜希を見ようともせず、低く吐き捨てた。「消えろ」
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