Share

第11話

Author: みっつ
こちらの様子に気づいた翔也が、すぐに駆け寄ってきた。

「真央、大丈夫?」

直樹は、翔也と私を交互に見た。何を疑っているのかは、すぐに分かった。

私は何も言わず、翔也の手を強く握った。

翔也は驚いたように一瞬固まったが、手を離そうとはしなかった。

私は直樹を見て、静かに告げた。

「はっきり言っておくね。この人、私の彼氏だから」

直樹の顔から、さっと血の気が引いた。

「嘘だろ。

俺を嫉妬させたいからって、そんな嘘までつくのかよ」

私は何も説明せず、翔也の手を握る指に力を込めた。

「信じなくてもいい。でも、もう私に関わらないで」

直樹は目を赤くしたまま、翔也をにらんだ。

「俺より、こいつのほうがいいのか?」

「うん。ずっといいよ」

私は直樹を見たまま、続けた。

「母の診察にも、当たり前みたいに付き添ってくれる。

連絡すれば、ちゃんと返してくれる。

何より、私や母の気持ちをちゃんと考えてくれるから」

直樹は何も言い返せなかった。

そのとき、背後から甲高い声が飛んできた。

「真央さん、もう次の人を見つけてたんですか。ずいぶん切り替えが早いんですね」

Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • 母が事故に遭った日、医者の彼と別れた   第13話

    窓際で本を読みながら、私の仕事が終わるのを待ち、そのまま一緒に夕飯を食べる日もあった。翔也が私を急かすことは、一度もなかった。「あと10分」と言えば、本当に10分待ってくれた。「今日はもう疲れた」と言えば、笑ってこう返してくれた。「じゃあ、ゆっくり休んで。また明日来るよ」そんな翔也と過ごすうちに、私も少しずつわかっていった。翔也は、私を待たせてばかりいたり、疲れさせたりはしなかった。私の時間も気持ちも、家族のことも、ちゃんと大事にしてくれた。ある日の夕方、閉店の支度をしていると、店の外に直樹が立っていた。以前よりずっと痩せ、くたびれたコートを着ていた。目も充血していた。ガラス越しにその姿を見ても、もう心は動かなかった。「俺が出ようか?」翔也が立ち上がりかけたので、私は首を横に振った。「大丈夫。私が話す」店の外へ出ると、直樹は目を潤ませて私の名前を呼んだ。「真央。ただ、顔が見たくて来たんだ……」直樹は手にしていた保冷バッグを差し出した。「また笹団子を作ってみた。今度はちゃんと包めたんだ」私は保冷バッグに目を落としただけで、受け取らなかった。「直樹、もうこういうことはやめて」直樹は保冷バッグを差し出したまま、言った。「毎日、あの日のことばかり考えてる。真央から8回も電話が来てたのに、俺は全部切った。目を閉じると、手術室の前に一人でいた真央の姿が浮かぶんだ。本当に後悔してる。仕事もなくなった。亜希もいなくなった。何もかも失って、やっと気づいたんだ。俺のことを本気で大事にしてくれてたのは、真央だけだったって」私は最後まで黙って聞いてから、問い返した。「それで?」直樹は言葉に詰まった。「仕事も失って、亜希にも見放されて、それでようやく私のことを思い出したんでしょ。直樹、それは愛じゃないよ。もう誰も、私みたいに何も言わずに待ってくれないって気づいただけ」直樹の顔から血の気が引いた。「でも、私はもう待たない。直樹のことも、もう好きじゃない」直樹の頬を、涙が次々と伝った。「じゃあ……俺たちの8年は、何だったんだ?」私は振り返り、店の中を見た。母は翔也と楽しそうに話していた。店内の柔らかな明かりが、二人を温かく照らしていた。その姿

  • 母が事故に遭った日、医者の彼と別れた   第12話

    提出された資料には、亜希のけがを手当てしたり、検査に付き添ったりするために、直樹が勤務中に持ち場を離れた記録も含まれていた。さらに、母が救急搬送された夜、私が直樹に8回も電話をかけていたことが分かる通話履歴の画像まで添えられていた。院内では大きな問題になり、直樹はすぐに診療から外され、自宅待機を命じられた。その後、院内調査を経て懲戒解雇となり、医業停止の行政処分も受けた。友人から聞いた話では、処分の通知が届いた日、直樹は私が残した「待たされた記録」を握りしめたまま、病院の前のベンチに一晩中座っていたらしい。周りにいた人に、何度も同じことを聞いていた。「あの日の真央、怖がってた?一人で同意書にサインしたとき、泣いてた?」けれど、誰も答えなかった。もう、答えを知ったところで意味はなかった。今さら胸を痛めたところで、もうどうにもならない。亜希も、その後は思いどおりにはいかなかった。直樹が職を失うと、亜希はあっさり彼のもとを離れた。その後、羽振りのよさそうな男と付き合い始めたらしい。今度こそいい相手を見つけたつもりだったのだろうが、その男には妻がいた。ある日、その妻が数人を連れて亜希の会社まで押しかけ、大勢が見ている前で亜希の髪をつかんで引きむしった。その騒ぎが広まると、亜希のSNSまで掘り返され、過去の投稿や写真が次々と拡散された。【足首をひねっただけで、人の彼氏を一晩中付き合わせた】【相手のお母さんが救急搬送されたと知りながら、その彼氏を旅行に連れ出した】【相手のお母さんが作った笹団子を、ゴミ箱に捨てた】こうした書き込みも相次ぎ、亜希の評判はすっかり地に落ちた。その話を聞いたとき、私は店でトルコキキョウの茎を切りそろえていた。隣では、翔也が届いたばかりの花をフラワーキーパーにしまっていた。「そうなんだ」私はそれだけ言って、作業を続けた。うれしくも、悲しくもなかった。もう、私には関係のない昔の話だった。母はその後も順調に回復し、やがて退院の日を迎えた。よく晴れた日だった。退院した母を新しく開いた花屋へ連れていくと、母は店先に立ち、うれしそうに目を細めた。「真央、いいお店ね」店の名前は「花ひらく」にした。入口脇に掛けた小さな木のプレートには、こう書いた

  • 母が事故に遭った日、医者の彼と別れた   第11話

    こちらの様子に気づいた翔也が、すぐに駆け寄ってきた。「真央、大丈夫?」直樹は、翔也と私を交互に見た。何を疑っているのかは、すぐに分かった。私は何も言わず、翔也の手を強く握った。翔也は驚いたように一瞬固まったが、手を離そうとはしなかった。私は直樹を見て、静かに告げた。「はっきり言っておくね。この人、私の彼氏だから」直樹の顔から、さっと血の気が引いた。「嘘だろ。俺を嫉妬させたいからって、そんな嘘までつくのかよ」私は何も説明せず、翔也の手を握る指に力を込めた。「信じなくてもいい。でも、もう私に関わらないで」直樹は目を赤くしたまま、翔也をにらんだ。「俺より、こいつのほうがいいのか?」「うん。ずっといいよ」私は直樹を見たまま、続けた。「母の診察にも、当たり前みたいに付き添ってくれる。連絡すれば、ちゃんと返してくれる。何より、私や母の気持ちをちゃんと考えてくれるから」直樹は何も言い返せなかった。そのとき、背後から甲高い声が飛んできた。「真央さん、もう次の人を見つけてたんですか。ずいぶん切り替えが早いんですね」ヒールの音を響かせながら、亜希がこちらへ駆けてきた。直樹を追ってきたらしく、きれいに化粧した顔が怒りで引きつっていた。亜希はそのまま直樹の腕にすがりついた。「直樹、見たでしょ?真央さん、もう別の人と付き合ってるんだよ。直樹のことなんて、本当はどうでもよかったんじゃない?被害者みたいな顔をして、直樹だけを悪者にしてただけでしょ。もう帰ろうよ。私なら、直樹のことをちゃんと大事にするから。直樹がいいなら、私が彼女になるよ。ずっとそばにいるから」直樹がゆっくり振り向くと、亜希はその表情を見て一瞬黙り込んだ。それでも、涙を浮かべながら言葉を続けた。「私だって、ずっと直樹のそばにいたじゃない。私のどこが真央さんより劣ってるの?おばさんの事故だって、私のせいじゃないのに。どうして私ばかり責められなきゃいけないの?」亜希が言い終えた直後、直樹がその頬を平手で打った。乾いた音が響き、廊下はしんと静まり返った。亜希は頬を押さえ、信じられないように直樹を見た。「……直樹、私をぶったの?」直樹は亜希を見ようともせず、低く吐き捨てた。「消えろ」

  • 母が事故に遭った日、医者の彼と別れた   第10話

    「328回目はもうないよ」それでも直樹がこちらへ近づこうとすると、翔也はすぐに警備員を呼んだ。駆けつけた警備員に止められても、直樹は私から目を離さなかった。「真央、俺は諦めないから」私は母の車椅子を押し、そのまま背を向けた。「好きにすれば。私はもう、待たないから」……それから数日、直樹は毎日のように病院へ来た。花や果物など、母への見舞いの品を持ってきた。しまいには、婚約指輪まで持ってきた。看護師が病室の前まで持ってきて、困ったように尋ねた。「こちら、どうしますか?」「受け取れません。すみませんが、全部返してください」廊下の端で待っていた直樹は、その返事を聞くとうつむいた。それでも、直樹からは何通もメッセージが届いた。【真央、あの記録を全部読み返した。俺がどれだけ真央を待たせてきたのか、やっとわかった。真央を待たせた日のことも、一つずつ書き出した。もう忘れない。これからは、絶対に待たせない。もう一度やり直してくれないか。今度こそ、真央と結婚したい】私は【もう遅い】とだけ返した。その後、直樹は病院の入口で待つようになった。母と散歩に出れば、少し離れて後ろをついてきた。食事を買いに売店へ行けば、売店の前で待っていた。母の診察中も廊下の椅子に座り、私が出てくるまでそこにいた。今度は直樹が、昔の私のように待ち続けていた。けれど、もう遅かった。ある日、母が眠ったあと、薬を買いに下の階へ降りると、直樹が笹団子の箱を抱えて待っていた。「真央。笹団子、作ってみたんだ。お母さんのには全然かなわないけど……あのときのことを、少しでも償いたくて」直樹が箱を開けると、笹団子はどれも不格好で、中には笹の葉の結び目がほどけかけているものもあった。前の私なら、これを見ただけで、やっと気づいてくれたんだと思っただろう。けれど今は、何をしてももう遅いとしか思えなかった。「直樹、母があの笹団子を作るのに、どれだけ時間をかけたか知ってる?」直樹は黙り込んだ。私はそのまま続けた。「母は前の日から笹の葉の下ごしらえをして、小豆を炊いて餡を作ってた。朝早くから、よもぎを練り込んだ生地で餡を包んで、一つずつ笹の葉でくるんで蒸したの。蒸し上がった団子を冷まして、保冷剤と一緒に箱に詰めて

  • 母が事故に遭った日、医者の彼と別れた   第9話

    母が検査に行くときは、翔也が車椅子を押してくれた。私が食事を買いに出て戻りが遅くなったときも、母のそばについていてくれた。けれど、それを恩に着せることも、必要以上に踏み込んでくることもなかった。「これくらい、なんでもないよ」いつも、そう言うだけだった。母はそんな翔也をすっかり気に入り、ある日、私にこっそり言った。「翔也くんって、まっすぐな目をしてるわね」私は思わず笑った。「まだ知り合ったばかりでしょう?」「お母さんは、人を見る目があるのよ」そのときは、母の言葉を軽く聞き流していた。その日の午後、母の経過を診てもらうため、翔也に車椅子を押してもらって外来へ向かうと、入口の近くに直樹が立っていた。以前よりずいぶん痩せ、目の下には濃い隈ができていた。無精ひげを生やし、しわだらけのシャツを着たその姿は、いつも身なりを整えていた頃の直樹とは別人のようだった。私を見つけた直樹は、目を赤くして私の名前を呼んだ。「真央」私は足を止めた。けれど、心は少しも動かなかった。まるで、長いこと会っていなかった昔の知り合いを見ているようだった。直樹は足早にこちらへ近づいてきたが、翔也が母の車椅子を押しているのを見ると、表情を険しくした。「そいつは誰だ?」私は答えなかった。翔也は車椅子のハンドルから手を離し、一歩下がった。母も直樹に気づくと、笑顔が消えた。けれど直樹は、そんな母の様子にも気づかず、私だけを見て声を低くした。「真央、こいつがいるから俺をブロックしたのか?」あまりにも見当違いで、思わず笑ってしまった。「直樹、まだ私が離れたのは、ほかに好きな人ができたからだと思ってるの?」直樹は何も言えずに立ち尽くした。私はまっすぐ彼を見た。「翔也は関係ない。私が別れたのは、あなたのせいよ。8年間、何度も私を待たせて、母が命の危険にさらされていたときでさえ、あなたは亜希のそばにいることを選んだ。そんな人とは、もう一緒にいられない。それだけ」直樹の顔から血の気が引いた。さっきまでの怒りも消え、すがるような声で言った。「真央、本当に悪かった。今さら何を言っても遅いかもしれない。でも、やっと自分がどれだけひどいことをしてきたのかわかったんだ。犬がいなくなったって話も、嘘だったっ

  • 母が事故に遭った日、医者の彼と別れた   第8話

    直樹はそこで、亜希をまっすぐ見た。「あの日、俺が真央のお母さんを迎えに行かなかった理由、覚えてるよな?」亜希は一瞬、返事に詰まった。「……ココがいなくなったからでしょ?」「本当にいなくなったのか?」亜希は目をそらした。「もちろん……」直樹はスマホを取り出し、亜希があの日に投稿した写真を開いた。午前10時に投稿された写真には、こんな言葉が添えられていた。【今日のココ、朝からずっとべったり。全然離れてくれない】写真の隅には、いなくなったはずの犬が、カーペットの上でくつろいでいた。直樹は画面を見つめたまま、しばらく動かなかった。亜希が嘘をついていたことに、ようやく気づいた。けれど、それで亜希だけを責めることはできなかった。駅へ迎えに行かなかったのも、私からの電話を切ったのも、母には待ってもらえばいいと言ったのも、すべて直樹自身が選んだことだった。直樹は視線を落とし、低い声で言った。「亜希。あの日、俺に嘘をついたんだな」亜希は慌てて否定した。「違うの。私はただ、直樹にそばにいてほしくて……まさか、あんな事故が起きるなんて思わなかったの」直樹はしばらく黙ったあと、短く言った。「もういい」その場を離れようとした直樹の腕を、亜希が慌ててつかんだ。「どこ行くの?」「真央を捜しに行く」「今さら行ってどうするの?真央さんはもう、直樹と別れるって決めたんだよ!」直樹は足を止めた。亜希は涙声で続けた。「もう終わったんでしょ?会いに行ったって、どうにもならないよ!」直樹はしばらく黙っていたが、やがて振り返らずに答えた。「それでも、会って謝る。俺が真央にしたことは、一度謝ったくらいで済むことじゃない」……私は母を連れて、地元へ戻った。地元の病院は浜城市の病院ほど大きくなく、廊下も前の病院ほど冷たくは感じなかった。毎朝、窓から差し込む日差しが、母の布団を明るく照らした。私は母の顔を拭き、食事を手伝い、リハビリにも付き添った。そんな私に、母はいつも言った。「真央、毎日ずっとここにいなくてもいいのよ。たまには自分のこともしてきなさい」私はりんごの皮をむきながら笑った。「私が好きでやってるんだから、気にしないで」直樹と別れてから、私は自分で

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status