和弘が戻ってきたのは、深夜2時を回ったころだった。花音は手術を終え、術後の経過を見るため集中治療室へ移されていた。私もちょうど、父との電話を終えたところだった。近づいてきた和弘からは、女性ものの香水がまだかすかに香っていた。「花音はどう?先生はなんて?」以前の私なら、和弘が花音のことを少しでも気にかけてくれるだけで、うれしかった。せめて娘の前では、いい父親でいてほしかった。花音まで私と同じように、彼にとっていてもいなくてもいい存在にはなってほしくなかった。けれど、その日は違った。私は振り向きもせず、淡々と答えた。「特になにもないよ。大丈夫」和弘が眉をひそめた。「何だ、その言い方は。花音は俺の娘でもあるんだぞ」「そうなの?」私はかすかに笑ったが、それでも、彼のほうは見なかった。1週間前、花音に先天性心疾患が見つかった。同じ日、和弘が若い頃から忘れられずにいた梨央が、海外から帰国した。私は病院で花音を抱きしめ、不安でたまらないまま検査結果を待っていた。何度電話しても、和弘は出なかった。空港へ梨央を迎えに行っていたのだ。その日の夜、花音は入院した。そして梨央は、帰国後初めてのインスタを更新した。【遠回りの末に、もう一度出会えた。ここからが、本当の始まり】投稿には、和弘と陽介がじゃれ合う動画も添えられていた。動画の中で、和弘は陽介に自分を「和弘パパ」と呼ばせていた。和弘と結婚して7年。花音は5歳になっていた。その花音が心臓病で入院しても、和弘から電話一本かかってこなかった。なのに、かつて想いを寄せていた梨央が離婚して帰国すると、再会したその日から、彼女の子どもには自分を「和弘パパ」と呼ばせていた。私はその動画を何十回も再生した。それで、ようやく思い知った。私も花音も、和弘にとっては、本当にどうでもいい存在だったのだと。それから数日、私は医師と娘の手術について何度も話し合い、病院と自宅を往復した。和弘は、その間一度も家へ帰ってこなかった。帰国したばかりの梨央が困らないようにと、部屋探しに付き添い、料理のできない梨央と陽介の食事まで毎日作っていた。結婚して7年になるのに、和弘が料理できることを私は初めて知った。やがて手術前夜を迎えた。花音は怖がって一晩中泣
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