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第3話

作者: みっつ
「それに、お前がついてたんだろ」

和弘は眉を寄せ、不満を隠そうともしなかった。

まるで、悪いのは私のほうだと言いたげだった。

もう言い争う気にもなれない。

「話は終わった?」

私は静かに和弘を見た。

「終わったなら帰って。梨央が待ってるでしょう」

和弘は言葉に詰まった。

「葉月、お前……」

そのとき、集中治療室の扉が開き、看護師が廊下にいた私たちへ声をかけた。

「花音ちゃんが目を覚ましました。お母さんは面会できます」

「はい」

私はすぐに看護師のもとへ向かい、指示に従ってガウンとマスクを身につけた。和弘には目も向けなかった。

和弘は戸惑ったように指を握り込んだが、何も言わず、看護師へ手を伸ばした。

「俺の分はないですか?」

看護師は意外そうに和弘を見たあと、淡々と答えた。

「申し訳ありません。花音ちゃんが、お母さんにだけ会いたいと言ってるんです」

それから私へ向き直り、やさしい声で促した。

「準備はできましたか?花音ちゃんが待っています」

私が集中治療室へ入ると、背後で扉が閉まった。

花音は私を見ると、つらそうにしながらも、かすかに笑った。

「ママ」

私はすぐにベッドのそばへ行き、その小さな手を握った。目の奥が熱くなった。

「うん。ママ、ここにいるよ」

花音はかすかに笑うと、小さな手を伸ばして私の涙をぬぐった。

「ママ、泣かないで。もう痛くないよ。先生が、すぐ元気になるって言ってた。だから、大丈夫だよ」

花音が一生懸命に私を慰めるほど、涙は止まらなくなった。

「パパも来てるよ。会いたい?」

花音の笑顔が消えた。

ガラス窓の向こうへ目を向ける。そこに立っていた和弘は、花音が自分を見たことに気づくと、一瞬動きを止め、すぐに笑って手を振った。

けれど花音は、すぐに私へ視線を戻した。

「ママ。もう、和弘さんのこと、パパって呼ばない」

……

その晩、私は集中治療室の前から離れなかった。

和弘も少し離れたところに座り、朝まで帰ろうとはしなかった。

翌朝、必要なものを取りに家へ戻ると、和弘があとからついてきた。

「昨日のことは……」

和弘は言いにくそうに口ごもった。

「花音には、わざと置いていったんじゃないって説明してくれ」

私は足を止めなかった。

和弘は私の顔色をうかがいながら続けた。

「先生に聞いた。花音は、このあとも数週間は入院するんだろ。お前も当分、病院につきっきりになるだろうし。

それなら、その間だけ梨央と陽介をうちに泊めてもいいか。

帰国したばかりで、まだ住むところが決まってないんだ」

「分かった」

私があまりにもあっさり答えたため、和弘はかえって言葉に詰まった。

ところが、和弘はなぜか眉をひそめた。

「それだけか?怒らないのか?」

「どうして怒るの?梨央があなたにとってどれだけ大切か、私も花音も、もうよく分かったから。

あの家はあなたが買った家でしょう。誰を住まわせるかは、あなたが好きにすればいい」

しばらく黙っていた和弘が、ふいに言った。

「葉月。お前、前と変わったな」

私は一瞬、体をこわばらせたが、そのまま足を速めた。

「人は変わるものよ」

和弘と結婚したとき、私はこの人の気持ちは変わらないものだと信じていた。

あの頃、梨央への思いを捨てきれずにいた和弘は、それでも私にはっきり約束した。

「結婚すると決めた以上、きちんと責任は果たす。

これからは葉月のことも、いつか生まれる子どものことも大切にする。悲しい思いはさせない。

約束する。この気持ちは変わらない」

その後、花音が生まれた。

和弘は口にこそ出さなかったが、うれしさを隠しきれていなかった。

夜中にミルクを作ろうと起きると、和弘がベビーベッドの前にしゃがみ込み、眠る花音をじっと見つめていたことが何度もあった。

花音を見る目は、本人も気づいていないほどやさしかった。

あの頃の私は、いつかきっと、私たちは幸せな家族になれると信じていた。

必要なものをまとめ、タクシーで病院へ戻る途中、父から電話がかかってきた。

「花音の今後の治療を任せられる先生が見つかった。小児心臓病の分野で世界的に知られている相馬智紀(そうま ともき)先生だ。今はスイスの病院にいる。

母さんと俺は、もうこちらへ来て、受け入れの手続きを進めているところだ」

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