両家が勧める結婚にも、和弘は、応じるつもりはなかった。けれど、葉月がお茶を運んできたとき、和弘は顔を上げて彼女を見た。断るつもりで用意していた言葉が、なぜか出てこなかった。葉月がうつむいてお茶を注ぐ横顔が、梨央に似ていたからだ。当時は、和弘はそう自分に言い聞かせていた。実際には、少しも似ていなかった。梨央は華やかで、人の視線を集めることを好んだ。葉月は物静かで、相手の目をまっすぐ見ながら、最後まで話を聞く人だった。やがて、ふたりは結婚した。結婚した日の夜、和弘は葉月に触れず、ベランダでひと晩中たばこを吸っていた。周囲は皆、和弘が梨央を忘れられず、葉月を受け入れられないのだと思っていた。葉月自身も、そう信じていた。翌朝、葉月は和弘のために食事を用意し、不安そうに尋ねた。「まだ、あの人を忘れられないの?」和弘が冷たく「うん」と答えると、葉月は一瞬、表情をこわばらせた。それでも、笑おうとしていた。「大丈夫。待ってるから」和弘は目を閉じた。あのとき、梨央を忘れられなかったわけではない。怖かったのだ。ベッドの端に腰掛け、不安そうに自分を見上げる葉月を見た瞬間、本当に心を動かされた。そう認めるのが怖かった。認めたくなかった。認める勇気もなかった。和弘は幼い頃から、何事も思いどおりにしてきた。両家に勧められて結婚した相手に心を動かされていることを、受け入れられなかった。だから、葉月に冷たくした。葉月を思いやる気持ちが生まれても、夫としての責任を果たしているだけだと思い込んだ。やがて、花音が生まれた。生まれたばかりの小さな体を抱いたとき、和弘は力を入れることさえ怖かった。花音が目を開けた瞬間、和弘は、腕の中の娘をたまらなく愛おしいと思った。それなのに、葉月から笑顔で尋ねられると、素直に答えられなかった。「和弘、花音のこと、かわいい?」「まあ、かわいいんじゃないか」葉月は目を伏せ、花音の額へ口づけた。「大丈夫。ママは花音のこと、大好きだからね」あのとき、和弘は何か言おうとした。けれど、結局は黙ったままだった。そんなことを、何度も繰り返した。大切なのに、関心がないふりをした。本当は近づきたいのに、自分から距離を置いた。そして、梨
Read more