僕は、言われるまま体を丸め、狭いスーツケースの中へ入った。もう何年も、ここは僕の秘密基地だった。ここ数年、母が取り乱してテーブルの物を投げ始めると、父が僕へ目配せした。すると僕は、慣れたようにスーツケースの中へ逃げ込んだ。外からファスナーが閉められると、僕は何も聞こえないふりをした。そして、かくれんぼをするときのように、静かに数を数え始めた。1から1万まで。それを何度も繰り返すつもりだった。けれど、この日はいつものように最後まで数えられなかった。長いあいだ無理な姿勢でいたせいで、手足はしびれ、動かなくなっていた。折り曲げた膝が胸を押し、息をするのも苦しかった。指先でファスナーのわずかな隙間を探ったが、どれだけ押しても開かなかった。「優奈の遺品は、全部このスーツケースに入ってるんだな。車に積むぞ」父の声が聞こえた。その声に、はっとした。今なら、ここから出してもらえるかもしれない。すぐに謝ろう。ここから出してほしいと、父に頼もう。次の瞬間、体が大きく揺れた。スーツケースが持ち上げられ、そのまま逆さにされたのだ。中で僕の頭は下になり、折り曲げた体の重みが胸へかかった。息が一気に詰まった。僕は必死に手を動かし、内側から何度もたたいた。けれど、分厚い内張りに音を吸われた。もう大声を出す力もなく、喉から漏れたうめき声も、両親の会話にかき消された。「霊能者は、優奈が使っていた物は全部燃やせと言っていた。優奈はまだ、死んだ場所に取り残されている。きちんと見送らないと、先へ進めないそうだ」「違う!全部、湊のせいでしょう!」母の鋭い声が、父の言葉を遮った。「あの子が優奈をかくれんぼに誘ったりしなければ、こんなことにはならなかった!どこに隠れたのかも分からない。遺骨さえ、まだ見つかってないのよ……」最後には声もかすれ、その一言一言に、母が抱えてきた苦しみがにじんでいた。僕は喉を締めつけられたように、声が出なくなった。地震で亡くなった妹の死は、抜けない矢のように僕の胸へ深く刺さり、いつしか体の一部になっていた。狭いスーツケースの中で、息苦しさが増していく。頭がぼんやりして、何も考えられなくなってきた。遠くに、小さな女の子が立っているのが見えた。「お兄ちゃん、かくれんぼしよう!優奈が先に隠れるね!
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