内見を終えて外に出ると、送迎車にはあと2席しか空いていなかった。景吾は当然のように柚希の手を取り、そのまま乗り込んだ。「詩織は歩いてきてくれ。俺たちは先に引き渡しの手続きしてくるから。柚希はヒールだし、歩くの大変だろ」柚希が履いているヒールは、3センチもない。それでも柚希の足元は気遣うくせに、私が景吾の仕事を手伝って腰を痛め、長く立っているだけでもつらいことは、もう忘れているらしい。もう何も期待せず、私はそのまま踵を返した。「行かない」景吾は引き止めることもなく、私の背中に向かって言った。「じゃあ、ついでに不動産屋に寄って、今の部屋の更新手続きしてきたら?今日までだったろ」もう更新するつもりはなかった。ちょうど管理会社から解約の書類も届いていたので、そのまま迷わず署名した。家に戻ってSNSを開くと、柚希の投稿が目に入った。写真には、リビングの大きな窓の前で指ハートを作る柚希が写っていた。【やっとこの街で、自分の家を持てた】あの部屋の間取り図は、半年以上、何度も何度も見返してきた。内装のプランだって、何度も徹夜しながら時間をかけて仕上げた。つい先週も、母に電話してこの家のことを話したばかりだった。「お母さん、来月には新しい家を見せられるよ」母は少し声を詰まらせた。「そう……よかった。お父さんも楽しみにしてるわ。景吾くん、ちゃんと約束を守ってくれたのね」なのに今、契約書の署名欄に書かれていたのは、私ではなく柚希の名前だった。私は投稿に「いいね」を押し、コメントを残した。【羨ましい。こんな部屋まで用意してくれるなんて、福利厚生が手厚い会社だね】それから、荷造りを始めた。30平米ほどの部屋を見回しても、持っていくものは驚くほど少なかった。全部詰めても、スーツケース1つすらいっぱいにならなかった。服はセールで買ったものばかりで、化粧品も手頃なものばかり。そうやって少しずつ切り詰めて、浮いたお金は全部、家を買うための口座に貯めてきた。5年かけて貯めたお金で手に入れた、川沿いの高級マンションを、景吾はそのまま柚希に渡した。景吾が帰ってきた時、見るからに機嫌が悪かった。「なんであんなこと書いたんだよ。会社の人間も、お前の親も見るんだぞ。あれ見たらみんなどう思うか、少し
อ่านเพิ่มเติม