生い茂る森の木々の葉や家の屋根を叩く雨の音がやけに大きく聞こえていた。 背中に暖かなぬくもりと命の拍動を感じながら、ドゥーエはため息をついた。暖炉の火が消えた寒い室内に、彼の呼気がふわりと白く広がる。 自分の息が闇の中に消えていくのを見届けると、ドゥーエは何度目になるかわからない寝返りを打った。手足を折り、小さく丸まるようにして眠る華奢な背中が目に入る。 ドゥーエは明日、この家を出て行くことをシュリへ告げた。彼女は少し寂しそうな表情を覗かせはしたものの、拍子抜けするほどにあっさりとそのことを受け容れ、了承の意を示した。 傷が癒えきったわけではない。今もノルスの自警団につけられた傷は治りきらないまま、ドゥーエの身体に残り続けている。 (これ以上、シュリと一緒にい続けるのはよくない……俺にとっても、シュリにとっても) 空腹による渇きが、時折顔を覗かせるようになっていた。ちりちりと体内を灼くような痛みと”喰いたい”という本能を理性でねじ伏せてやり過ごしていたが、それだっていつまで保つかわかったものではない。 情が移りすぎた、とドゥーエは思う。遠からず、”人喰い”としての衝動を抑えきれなくなるときが来る。そうなったときにシュリを捕食対象として割り切るには、ドゥーエは彼女のことを知りすぎていた。自分がいつか彼女を喰ってしまうようなことになるのは嫌だと、”人喰い”の本能と相反する感情をいつの間にか抱くようにすらなってしまっていた。 (……潮時だろう。俺のような化け物には過ぎた夢を見ていたんだ) 思えば、シュリと出会ってから今までが異常だったのだ。”人喰い”は決して人間とは相容れることはできず、共存など出来はしない。それはドゥーエが今まで、何度も何度も自分自身に言い聞かせてきたことだった。 それなのに、シュリの様々な表情を知るほどに、何でもない他愛のない会話を交わし合う度に、彼女のそばから離れがたくなっていった。それほどにシュリのそばはドゥーエにとって居心地が良く、追い出されないのをいいことに長々と居座り続けてしまった。 緩やかに、穏やかに過ぎていく束の間の日常は、いつの間にかドゥーエの中で大きなものとなってしまっていた。 (俺はシュリを傷つけたくない。せめて、シュリにだけは化け物である俺の姿を知られないままでいたい) 二人で過ご
Última actualización : 2026-08-18 Leer más