ドゥーエが目を覚ますと、ベッドで眠っていたはずのシュリの姿がなかった。一体何処へ行ったのだろうと、ドゥーエは眉を顰める。以前にオオカミの群れに襲われていたこともあったし探しに行くべきか、とドゥーエが逡巡していると、外でばたん、と物音が響いた。 (何の音だ……?) 何故か嫌な予感がした。ドゥーエは外套に袖を通す間も惜しんで外へと飛び出した。 金木犀の茂みを抜けたところに、小柄な人影が倒れていた。その正体に気づいたドゥーエは顔から血の気が失せていくのを感じた。 茶色のチュニックワンピースの左袖が千切れ、血で染まっていた。何よりも目を引いたのは、その袖の中にあるはずの前腕が失われていることだった。 「シュリ……!」 ドゥーエはシュリに慌てて駆け寄ると、冷たく華奢な体を抱き起こした。「ドゥーエ……?」シュリは力なく笑うと、血を失って真っ青な唇で彼の名を呼んだ。 「シュリ、一体何が……! 誰にやられたんだ! 言え! 言ってくれ!」 違うの、とシュリは弱々しく首を横に振ると、 「誰かにやられたんじゃない、あたしが自分でやったの」 「どうしてそんなことをしたんだ!」 「あたしが、そうしたかったから。ねえ、ドゥーエ……あれを――あたしの腕を、食べて」 シュリは無事な方の右手ですぐ近くに転がっていた細い丸太のようなものを指し示した。それはよく見ると、血染めの布をまとわりつかせたシュリの前腕だった。ドゥーエは絶句した。 「なっ……何故俺なんかのためにそんなことをしたんだ!」 切断されたシュリの左腕に、ドゥーエの喉がごくりと鳴った。昨日の件で、人間の血肉をドゥーエは多少口にしており、体調も多少は改善されていたが、それでもまだ”食事”が足りていなかった。ドゥーエを苛む飢えの渇きは目の前の腕一本などで満たされるものではなかったが、それでも欲しいと本能が訴えていた。しかし、ドゥーエは理性で目の前の誘惑を断固拒絶する。 「何でって……」 ドゥーエの腕の中で、シュリの表情が泣きそうにぐしゃりと歪んだ。 「あたしは、あんたがあたしに黙ってこそこそするのなんて見たくない! だけど、あんたがこの前みたいにこれ以上誰かを殺すのも見たくないし、あんたが飢えで苦しむのだって見たくない! 何よりも……あたしは、あんたに……ドゥーエに死んで欲しくない!」
Última actualización : 2026-08-20 Leer más