雅人は目を赤くしたまま私を見ていた。また何か言おうとしたが、私は先に口を開いた。「まだ仕事があるの。ここは危ないから、あなたも早く帰って」それだけ言って、私は拠点へ向かった。背後から雅人の声が聞こえた。「真琴、お前が帰らないなら、俺も帰らない。ここに残って、お前のそばにいる。やりたいことを全部やり終えたら、そのときは一緒に帰ろう」私は振り返らず、その言葉を聞き流した。すると、背後で雅人のスマホが鳴った。沙耶の入院先からだったのか、電話に出た雅人が声を上げた。「何だって?沙耶が……死んだ?分かった。今すぐ戻る!」そのとき、聞き慣れた轟音が響き、2機の爆撃機が頭上に現れた。私はとっさに雅人を突き飛ばし、自分も地面に伏せた。「何するんだ!」次の瞬間、すぐ近くで爆発が起き、雅人の声は轟音にかき消された。地面が大きく揺れ、爆風で巻き上がった土が私たちの上に降りかかってきた。揺れが収まると、私は顔を上げて周囲を見回し、すぐに立ち上がった。雅人は地面に座り込んだまま目を見開き、身動きひとつしなかった。私は雅人の腕をつかみ、無理やり立たせた。「とにかく、早く中へ入って」雅人はすっかり怯え、唇まで震わせていた。「今の……一歩間違えたら、俺たち死んでたのか?」私はこうした爆撃をすでに何度も経験していたが、雅人にとっては初めてだった。私は唇を引き結び、少し間を置いてから答えた。「あとで責任者に頼んで、空港まで送ってもらうから。もう二度と、ここには来ないで」雅人は顔についた土を払うこともなく、スマホを握りしめていた。しばらくすると、現地チームの責任者が呼んだ運転手が、古びたピックアップトラックでやってきた。車を止めた運転手は、雅人に早く乗れと手招きした。私は料金とは別に紙幣を2枚渡し、雅人を無事に空港まで送り届けてほしいと頼んだ。雅人への気持ちは、もう残っていなかった。それでも、危険だと分かっていて置き去りにはできなかった。雅人はまだ顔をこわばらせたまま、何も言わなかった。ふと振り返ると、雅人は慌てて車へ乗り込んでいった。ついさっきまで、ここに残ると言っていたのが嘘のようだった。その背中を見送りながら、私は小さく苦笑した。初めから、こうなるような気はしていた。
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