体が落ちていく感覚は、本当に不思議なものだった。まるで、糸の切れた凧が、それを強く握りしめていた手から、ようやく解き放たれたかのようだった。耳元を切り裂くような風の音が響いていたのに、私の中は驚くほど静かだった。胃がんと診断されてから半年、痛みを感じずにいられたのは、これが初めてだった。本当に、長かったなあ……この半年間、私の世界を満たしていたのは、血の味と消毒液の匂いだけだった。吐くたびに感じたのは、身体の奥までひっくり返されるような苦しみだった。何かを飲み込むたび、刃物でも飲み込んでいるような痛みが走った。涼に同情を買おうとしていると思われたくなくて、私は血のついたティッシュをトイレに流すことを覚えた。激痛に襲われたときは、声を漏らさないよう、手の甲に歯を食い込ませて耐えてきた。痛み止めを飲むときでさえ、薬はビタミン剤の瓶に移し替えていた。だって、涼はそう言ったから。「お前みたいな、俺の気を引くためなら何でもする女は、目の前で死んだって、俺の足元が汚れるだけだ」そして今、私は本当に、涼の目の前で死ぬのだ。体が落ちていく。次の瞬間、階下に鈍い音が響いた。激痛は、一瞬だった。その直後、果てのない暗闇と冷たさが、私を包み込んだ。体から流れ出した血が、真っ白な雪の上に広がっていく。まるであの部屋の中に敷かれていた高価な手織りの絨毯の模様のようだった。私は目を開けたまま、真っ暗な夜空を見上げている。雪がまつ毛に落ちて、ひんやりと冷たい。これが、死ぬってことなんだ。想像していたような恐怖はない。ただ、解放感だけを覚えている。歪んだ手足。雪の上に広がる血。目を背けたくなるほど生々しい。私は、かすかに笑みを浮かべた。 涼。今夜あなたは水野清香(みずの きよか)と婚約した。私には、もうあなたに贈れるものなんて何もない。だから、この命を、私からの最後のお祝いだと思って。もう、私にスマホを勝手に見られるんじゃないかって、心配しなくていい。 私があなたの大切な清香に何かするんじゃないかって、心配しなくていい。 そして、私がいつまでもあなたの妻でいようとするんじゃないかって、心配しなくていいわ。 ――もう、全部終わったから。あなたの凪は、もう死んだ。三年間、あなたに嫌
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