俺が怒っていることに気づいた涼音は、顔色を変えた。「司は10年来の親友でしょ。彼にグルームズマンを頼むくらい、いいじゃない」「ごめん、陽色。僕の何がお前を怒らせたのかわからないけど。お前が怒ってるなら……」司は大げさに手を振り、いかにも譲歩してやるといった態度で言った。「この衣装は譲るよ」そう言うと、彼は高級オーダースーツを放り出し、ソファの隅でひとりいじけ始めた。涼音は眉をひそめ、俺を冷たい目で一瞥した。そして迷うことなく小走りで司のもとへ向かい、慰め始めた。「司、この衣装はあんたの体に合わせて作ったのよ。襟のダイヤだって、私が一つずつ3か月かけて付けたんだから。着ないなんて言わないで」「そうですよ」見かねた新人の店員が、2人のそばへ歩み寄った。「そのスーツは柊社長がご自身でデザインされたんです。型紙を引いてから裁断するまで、半年近くかかっているんですよ。瀬名様、柊社長がどれほどあなたを大切になさっているか、おわかりでしょう。どうかご機嫌を直してください」俺は呆気に取られた。店員は、どうやら俺と司を勘違いしているらしい。それでも彼女は、涼音の険しい視線に気づかないふりをして、なおも言葉を続けた。「あちらのお連れ様の衣装をご覧ください。シワだらけの中古品です。タダでも欲しがる人はいないでしょう。それに比べれば、社長が瀬名様に向けるお気持ちこそ本物ですよ」店員が言い終えた瞬間、店内は水を打ったように静まり返った。不穏な空気を察した店員は、諭すように俺の肩を軽く叩いた。「怒らないでくださいね。私、ご友人を慰めるために本当のことを言っただけですから。新郎が不機嫌だと場が重くなりますし、グルームズマンとして少し我慢していただけますよね?」俺は苦笑した。「でも、新郎は俺なんですけど」店員の顔がこわばった。大変な失言をしてしまったと悟った彼女は、恐る恐る涼音の顔を窺った。涼音は苛立たしげに手を振り、店員を下がらせた。「新人の言うことなんて気にしないで。あなたのスーツも私が選んだの。シワじゃなくて、そういうデザインなのよ」俺は答えず、スマホに目を落とし、先生へ追ってメッセージを送った。【先生、最短なら明日の夜の便に乗れます。そちらへ行ってもいいですか?】「私が話してるの、聞
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