俺の名前がネットで燃えた日、世界は思ったより普通に回っていた。 電車は時間通りに来た。駅前の牛丼屋はいつも通り湯気を立てていたし、コンビニの棚には新作スイーツが並んでいた。隣の部屋の大学生は、夜中の二時に友達を呼んで馬鹿みたいに笑っていた。 俺だけが終わっていた。 スマホの通知欄は、血が出るほど殴られたみたいに赤くなっていた。 死ね。 消えろ。 謝れ。 二度と喋るな。 声が不快。 お前の動画で笑ってた昔の自分を殴りたい。 登録してたのが恥ずかしい。 人間として終わってる。 こいつを許すな。 スポンサーに通報しました。 学校にいるこういう奴が一番嫌いだった。 家族も同類なんだろうな。 最後の一文で、俺はスマホをベッドに投げた。 家族は関係ないだろ、と言いたかった。 けれど、言えなかった。 言えばまた燃える。 黙っていても燃える。 謝っても燃える。 反論すれば油。 説明すれば言い訳。 無言なら逃亡。 その時点で、俺はもう詰んでいた。 黒瀬悠斗。二十八歳。 かつては「クロユウ」という名前でゲーム実況をやっていた。登録者は八十万人ちょっと。大手と呼ばれるにはまだ足りないが、街を歩いていて声をかけられることもあったし、案件も来た。ゲーム会社の人間と名刺交換をして、妙に高い弁当が出る収録にも呼ばれた。 自分では、わりとうまくやっているつもりだった。 ゲームが好きで、喋るのが好きで、リスナーが笑ってくれるのが好きだった。 コメント欄に「今日も笑った」「嫌なことあったけど元気出た」と流れるたび、俺は画面の向こうに居場所を見つけた気になっていた。 その居場所が、ある日、燃えた。 きっかけは一本の切り抜きだった。 企業案件の収録後、スタッフと雑談していた時の音声。 俺の発言は前後を切られ、字幕を盛られ、いかにも視聴者を馬鹿にしているように編集されていた。 もちろん、全部が嘘だったとは言わない。 俺は聖人じゃない。 忙しさにかまけて態度が雑になった日もある。 数字を見て焦ったこともある。 同接が落ちた夜に、配信後の部屋で一人、机を殴ったこともある。 それでも、あの切り抜きに出ていた俺は、俺ではなかった。 そう言いたかった。 でも、言えなかった。 炎上というのは、事実確認が終わる前に判決が出る。 判
Huling Na-update : 2026-08-19 Magbasa pa