「ホテルの披露宴はもうキャンセルした。親戚や友人にはお前から伝えておいてくれ」その言葉を聞いた瞬間、琴音は急ブレーキをかけた。「湊斗、本気なの!?まさか自分の実の姉や親友の言葉すら信じられないって言うの!」彼女は振り向き、顔を曇らせた。「一度心療内科で診てもらった方がいいわよ。まともな人の感覚じゃない。自分の実の姉の言葉すら信じられないのに、どうやって私に潔白を証明しろって言うの?私たちの中に最低限の信頼さえないなら、この結婚に何の意味があるの?」言い終わった直後、彼女のスマホが鳴った。着信画面を見た途端、彼女の目は急に優しさを帯びた。「急用ができたから、あなたは先に家に帰って反省してて。今日のことは何もなかったことにしてあげる」黒の高級車は一切の躊躇もなく走り去っていった。俺は諦めきれずタクシーを拾い、その後を追った。30分後、スマホのGPSアプリが示した場所は、海の見えるレストランだった。ガラス張りの窓越しに、中で子供の1歳の誕生日パーティーが盛大に行われているのが見えた。グラスを交わし歓談する人々の群れの中に、見知った顔がずらりと並んでいる。そして、人々に囲まれているあの男の腕には、俺が初めて琴音の車で見つけたあの腕時計が光っていた。その男の手元に置かれているのは、俺が3回目に彼女のポケットから見つけ出した、あのカフスボタンだった……あいつの顔をはっきりと視界に捉えた瞬間、俺が必死に保っていた平静は一瞬にして崩れ去った。まさか、あいつだったとは。1ヶ月前、俺が点滴を交換した際、不注意で患者の血液が逆流してしまった。神崎景介(かんざき けいすけ)の家族は「患者への虐待」を理由に、病院の本部に訴状を叩きつけた。揉み合いの末、あいつのボディーガードに突き飛ばされ、俺は床に倒れ込んだ。そのせいで俺の右手はその場で骨折し、停職処分を受けた。そして今、俺の裁判のためにあちこち奔走してくれていたはずの弁護士の姉、穂乃は景介の代わりに酒をあおり、彼を庇って杯を空けるのに忙しい。俺のために何度も病院の上層部に盾突き、徹夜で申立書を書いてくれた親友の健太は景介のために客の接待に追われている。つい先程まで潔白を主張していた琴音が、一番滑稽だった。「琴音さん、遅かったね。旦那さんの機嫌直し
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