「みなさん、少し手を止めてください。保管期限を過ぎた遺骨はすべてここへ出しました。骨壺ごとに資料が添えてありますから。マニュアル通りにデータを登録して、早めにご遺族へ引き取りの連絡を入れてください」遺骨が納められた棚の扉が開く。聞き慣れた声が、俺の耳元に届いた。強い光が差し込み、目の奥が焼けるように痛む。長いあいだ暗闇にいたせいで、明るさに慣れるまで時間がかかった。ようやく目を開けると、そこにはずっと忘れられずにいた顔があった。婚約者の明音だ。「明音……」反射的に名前を呼んだが、声は出なかった。そこでようやく思い出す。俺はもう死んでいるのだと。忙しく立ち働く明音の姿を見つめながら、俺はふと寂しさに襲われた。彼女はこの斎場のトップなのに、どうして今頃になってようやく、俺の遺骨を引き取ろうとしたのだろう。狭い保管棚に閉じ込められていた俺の魂は、年月の感覚さえ失うほど長く、この場所に縛られていた。明音は骨壺の横の資料に目を留め、何気なく手に取った。眉をひそめ、そこに書かれた内容を読み上げる。「死亡原因、末期の癌。治療を拒否し、婚約者に腎臓を提供……」資料を読めば、これが自分のために命を差し出した俺の骨壺だとすぐに気づくはずだ。俺はそう期待した。だが、明音は俺の骨壺を引き取ろうとはしなかった。資料を握りしめ、憤ったような声を上げる。「この故人の婚約者、あまりにもひどすぎません?自分のために命まで捧げてくれたのに、3年も遺骨を放置して誰も引き取りに来ないなんて。どれだけ薄情な女なんでしょう」その言葉を聞いた瞬間、俺は頭が真っ白になった。これは俺の遺骨で、そこに書かれているのは俺が生前、明音のためにしたことだ。それなのに、なぜ彼女は気づかないんだ。なぜ、自分自身をそんなふうに罵るんだ。明音の声を聞いて、スタッフたちも手を止め、周りに集まってくる。「そんなひどい話、本当にあるんですね」「なんだか、瀬野さんの境遇と少し似ていますね。でも瀬野さんは優しくて綺麗だから、命の恩人と無事に結ばれたんですよね」「そうですよ。瀬野さんは、この恩知らずな女とは大違いです」明音は耳まで赤くして、照れ隠しのようにスタッフたちをたしなめた。「もう、からかわないでください。ほら、仕事に戻ってください」俺はますます
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