崩れ落ちる音は、思ったより静かだった。城壁が割れ、火の粉が舞い、悲鳴と剣戟がまだ遠くで続いているというのに、私の腕の中にいる彼女の周りだけ、世界から音が抜け落ちているようだった。焔獄の魔王ヴェルギア。大陸の三分の一を灰に変え、勇者一行を退け、そして今、私と刺し違えて倒れている女。その胸に、私の剣が深く沈んでいる。彼女の剣も、同じだけ深く、私の身体を貫いていた。相打ちだった。最初から、そのつもりだった。彼女を殺すつもりで剣を抜いたのではない。彼女が生きて、私が生きて、この先も魔王同士として殺し合い続けることに、意味を見出せなかっただけだ。だから、最後の一撃を、互いに躱さなかった。彼女もまた、同じことを望んでいたのだと思う。傷だらけの身体で、それでも一歩も引かなかった彼女の目に、迷いはなかった。私と同じ目を、していた。だが。崩れ落ちる彼女を抱き止めた瞬間、私は初めて、自分の見誤りに気づいた。殺し合ってなお、私は彼女から目を離せずにいた。血にまみれ、傷だらけで、それでも凛と剣を振るい続けたその姿に、私は――心を、奪われていた。いつからかは、分からない。最初の激突のときか。三度目の膠着のときか。あるいは、もっと前、彼女の名だけを噂に聞いていた頃からか。気づいたときには、もう遅かった。私たちは、殺し合わなければならない立場にいた。彼女の瞼が、閉じかけていた。魔力の残滓が、赤い瞳の奥でまだ揺れていた。私は、彼女の頬に触れた。血で汚れた頬だった。それでも、これほど美しいものを、私は他に知らなかった。「――お前を」声が、掠れた。彼女には、もう聞こえていないかもしれない。それでも、言わずにはいられなかった。このまま彼女を死なせて、終わりにすることもできた。魔王同士の宿命として、それが正しい終わり方だったのかもしれない。けれど、私は。諦めたくなかった。腕の中で、私は術式を組み始めた。禁術と呼ばれる、不完全な転生の術。範囲も、行き先も、時代さえ制御できない。同じ世界に生まれる保証すら、ない。それでも。一縷でも望みがあるなら、賭ける価値があった。「――次は」崩れ落ちてゆく彼女を見つめながら、私は術を発動させた。光が、二人を包んでいく。「必ず」彼女の意識は、もうほとんど残っていないだ
Última actualización : 2026-08-29 Leer más