Todos os capítulos de 私の男運、この人に全振りしてたらしいよ。〜クズばっかり寄る原因、ここにあり!〜: Capítulo 1 - Capítulo 10

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呪いが解ける、音がする

行きたかったけど、行きたくなかった、大学のサークル、同期会。毎年恒例の、忘年会を兼ねたものだ。行きたかったのは、友達に会いたかった。久しぶりの子が沢山いる。行きたくなかったその原因。──彼、翔麿《しょうま》だ。私のハートを木っ端微塵にした男。認めたくなかったけど、私は翔麿をしばらく引きずっていた。服もメイクも髪も整えた。今の私の、最上級変換。美容院に行ったのなんて、昨日よ、昨日!担当美容師の加護さんには「明日同窓会で。マウント合戦になるの見え見えだから、ツヤッツヤで!お願いします!」なんて言ったら、いつもよりめっちゃ気合い入れて最後のセットをしてくれた。加護さん、過去最高に楽しそうだったな。「朝比奈《あさひな》さん、ツヤッツヤのサラッサラ。でもね、向こうは大したイケメンになってないからただ朝比奈さんが無双するだけですよ」って悪い顔で言ってくれた。お茶吹くかと思った。店に到着。集合時間の10分前から近くをうろついて、店のドアを開けたのは5分前。──いた。こちらを見ている。本当はずっと、会いたかった人。ぼろ切れみたいに捨てられて、それでも忘れられなかった人。もうそれは恋愛の情ではなかったのかもしれない。もはや依存や執着だった。
last updateÚltima atualização : 2026-08-30
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女子だけのテーブルに座る。しばらくは安全。予想通りのマウント大会。誰が一番幸せか選手権。この世でいちばんどうでもいい。でも彼の近くにいるよりは心拍数はきっとマシ。大学生当時、攻撃的だった子が、ちょっと丸くなっていた。そうだよね。長くいたから嫌な面も見せられただけで。短い時間ならいい人ムーブぐらいできるよね。男子テーブルから席替えの提案。跳ね除けるのも空気が悪くなる。私と、近くにいた女子数人は男子テーブルへ。──なんでよりによって、この席なのよ……!女子数人について座った最後のひとつ。それが私の席。目の前、例の彼、翔麿。嬉しくない。顔なんて、直視できない。気まず過ぎる。しばらく横を向いて会話していた。でもそろそろ感じ悪さが限界。笑顔の筋肉だけ動かして、顔を上げた。──へ?この人、こんな顔してたっけ?私、顔面偏差値、平均ちょい下の男に対して、あんなに未練たらたらだったの……?待ってこいつ。まあまあ薄汚いおっさんじゃん。ああ、こんなやつに未練たらたらだったなんて。これを黒歴史と言わずして何と言う。遠くに、乾いた音がした。錆びた鎖が床に落ちるみたいな、そんな音。呪いが解ける音。それが聴けた私、優勝。でも問題は。──次の呪いが、すぐ隣にいることだった。
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目が覚めた、その日から

「へええ。青春フィルターって恐ろしいね」「ほんっとね。あの人、なんであの当時はかっこよく見えたんだろう?」みんなのリーダー、みさきは目を見開いたその直後にピザを口にした。私、朝比奈りおは当時みんなを相当心配させていた。勿論、翔麿が原因だ。胸の奥がぎゅっと縮むのが当たり前で、息が喉に引っかかるのにも慣れてしまっていた。息を吸うのにも理由が必要だった。例の同期会から少し経った、年末。中学からの友達で集まってサルヴァトーレ・クオモでランチ忘年会をしていた。いつもみたいに居酒屋で飲んでも良かったんだけど、集まったメンバーのうち、新婚さんのまどかが妊娠中だったからランチにした。今は8ヶ月だそうで、結構お腹が大きい。「でもさ、解放されてよかったじゃん?りおちゃん、かなり引きずってたじゃん」「うぐっ……ひよりさん、それは忘れて頂けると……」「りおの男の見る目の無さにみんな心配してたんだよ?」里香が、髪の先からつま先まで完璧なトーンで笑った。陽キャのひよりも、キラキラ女子代表の里香も、刺しに来るなあ。キラキラのエフェクトは里香の為に存在してるんじゃなかろうか。「でもりお、すっきりした顔してる。引きずったけど、解放されたから良かったじゃん」「まどか……聖母に見えるよ」妊婦さんの微笑み、最強説。ほんわか空気のまどかは更に癒しパワーが増強されていた。今宗教開いたら最強だな。まどかの微笑みに癒されて、私は一瞬だけ油断した。次の一言で、しほがその油断を粉々にするまでは。
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「てかさ。よくのうのうと来たよね、その翔麿も。りおと二股かけた相手とデキ婚したくせにさ」「うん、しほさん……私、古傷が」「呪いから解放されたんでしょ?もう大して痛くないでしょ」「ゔっ……確かに」しほの毒は今日も健在だ。「いやあ、青春フィルター、こわいっすね」「こわいっすね、じゃないのよ。りお、ほんと心配したんだからね?」みさきに額を小突かれて、私たちは笑った。マルゲリータ、まだ食べてない。ベジファーストのつもりが、野菜で腹が満ちてきた。たんぱく質……お肉も食べなきゃ。ドルチェまで辿り着けるかな。ダイエットするならビュッフェ来ちゃダメだよね。──大丈夫。私はもう、翔麿に縛られてない。そう思って、ようやく息を深く吸えた気がした、そのとき。スマホが震える。画面の名前を見た瞬間、吸った息が喉の奥で止まった。会社の空気が、ここまで来た。見なきゃ良かった。せっかく楽しかったのに。呪いが解けたって、信じられていたのに。私は解放を楽しんじゃいけないの?どうしてよ?仕事の連絡。ただそれだけなのに、身体が先に逃げようとする。危険を察知してる。……やっぱり。呪いは解けても、次の呪いは、すぐ隣にいる。──職場で。私は泣き方を忘れた。だから、言葉にして片づける。片づけないと、呼吸が散らかるから。
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月曜の朝。席に着いた私は自分の手を見た。乾燥で、指先が少し白い。デスクの上のポンプ式のビタミンCハンドクリームを指先に出して、手のひらで温める。そこに、いつもの癖でDIORの「lucky」のボディローションをワンプッシュ──じゃなくて、米粒ふたつ。同じく指先にそっと出してから、さっきのハンドクリームを温めていた手のひらに移す。混ぜる。擦る。手の甲。手首の内側。香りが、肌の温度で立ち上がる前に、もう一つ。左手首のアップルウォッチを少しずらす。ミスディオールの練り香水。小さなケースを開けて、スティックのまま直接、スッとひと撫で。つけたのは、手首じゃない。鎖骨に直接つける。きっと私だけが楽しめる、ふわっと飴のように甘く香る場所。──私の匂いがあるところ。そこが、私の境界線だ。呼吸を整えるためのルーティン。私を“仕事の私”に戻すスイッチ。誰のためでもない。今日を、無事に終えるための手順。そのとき、椅子の軋む音がした。すぐ隣。視界に入れないようにしていたのに、気配だけで分かる。彼の肘が机に乗る音、タブレットの画面を触る指のリズム。距離は、たぶん一メートル。守れてる。守れてるのに──香りは空気で越境する。彼が、わずかに息を吸うのが分かった。ほんの一瞬、顔の向きが変わる。こちらを見たわけじゃない。見ないまま、“気づいた”だけ。……気づかなくていいのに。
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私はキーボードに指を置いて、画面だけを見る。香りは仕事のふりをして、私を守るふりをして、いちばん無防備なところをさらす。彼の声が、いつもより低く落ちた。「……今日、早いですね」たったそれだけ。なのに、胸の奥がきゅっと縮む。私は笑顔の筋肉だけ動かして、返す。「うん。月曜だし」──距離は守って。匂いは、私が守る。だからお願い。呼吸は乱れないで。コピー機の前はいつも混む。書類を抱えた人が、誰かの背中を避けながら流れるみたいに通る。私は端末に用紙をセットして、印刷ボタンを押した。機械が唸る。紙が吐き出される音。──そのリズムに合わせて呼吸を整える。「朝比奈さん」背後から声が落ちた。丁寧で、低くて、近い。振り返らなくても分かる。すぐ隣。気配で空気が一段狭くなる。来たんだ。私はコピーの排出口を見るふりをして、身体だけ半歩、横にずらした。ほんの半歩。でも、その半歩が私の肺を守る。本当はもっと横にずれたい。だけどそれは、きっと目立つ。彼の腕が伸びる気配がして、止まる。紙を取る手が、宙で迷った。私の呼吸は音も無く、吸ったまま止まる。「……それ、先に取ります?」“親切”の顔をした侵入。私の作業に入り込む口実。私は笑顔の筋肉だけ動かして、彼の方を向いた。
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「大丈夫。自分でやるから」声を柔らかくした。硬くすると、面倒が増える。だから柔らかく、でも線は引く。彼は一瞬だけ黙った。たぶん、傷ついた顔をしている。見なくても分かる。そういう空気を出すのが上手い。「……すみません。急かしたわけじゃ」“俺は悪くない”の予防線。私は印刷物を揃えながら、淡々と返す。いい人ムーブと境界線の侵攻の両立は、この人の得意技だ。「ん、大丈夫。ありがとう」ありがとう、は魔法の言葉。相手の言い訳を封じて、こちらの罪悪感も消す。私はそれを知っている。紙を抱えて一歩離れる。視線を落として、酸素が戻る。後ろで、彼が小さく息を吐いた。まるで私がひどいことをしたみたいに。……違うよ。私は心の中でだけ言った。近づかないで。優しくしないで。“いい人”の顔で、境界線を踏まないで。コピー機のガラスに映った自分の顔は、笑っていなかった。呼吸はまだ、落ち着かない。私の隣の席の、榊《さかき》恒一《こういち》。物腰柔らかい、ぱっと見好青年。営業職。誠実な人と感じさせて、相手の警戒心を解くというのが、彼の武器。私も最初、その技のおかげで、彼への警戒心は無いも同然だった。違和感が出てきたのは最近。榊くん、SNSで匂わせるの、多いなと思っていた。でも現実世界でも、彼は匂わせることが多くて、近づくことで安心を得ているのではないかという節が出てきた。目を合わせないのに、距離だけ詰めてくる。
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アオバ賃貸パートナーズ。社内では“アオパ”って呼ばれてる。うちは賃貸仲介がメインで、管理がサブ。法人社宅は少しだけ。繁忙期の賃貸仲介は、戦場だ。来店予約が重なり、内見の鍵が足りず、保証会社の審査は返事が遅い。「今日中に契約できますか?」の圧と、「家賃下がりませんか?」の交渉と、「親が反対してて…」って泣きそうな声まで同時に飛んでくる。七年目の私は、宅建も賃管もFPも持ってる。だから重要事項説明も、初期費用の組み立ても、更新と解約の落とし穴も分かる。……分かるけど、これだけ忙しいとさすがに息が浅い。だから、最初は助かった。内見の段取りが噛み合わなくて、電話が鳴り止まなくて、私の頭も回らなくて。そんなとき、五年目の榊くんは、さらっと鍵の手配を代わってくれた。管理会社に一発で繋がる言い方を知っていて、担当者の機嫌の取り方も上手かった。「朝比奈さん、ここ、先に僕が押さえときます。内見、詰まると崩れるんで」崩れる、という言葉が優しかった。“あなたが崩れる前に”と言われた気がした。私はそこに、勝手に救いを見た。勝手に、心を置いた。後輩という気軽さもあったのかもしれない。だから──スマホの画面を見た瞬間、息が止まった。
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彼の画面に映っていたのは、物件じゃなくて──彼の私生活だった。休憩中、ふと開いたSNS。ストーリー。夜景。ワイングラス。指先だけ写ったツーショット。タグも名前もないのに、“恋人がいる人”の空気だけは、あまりにも明確だった。(……いたんだ)冷水を浴びた心臓が、きゅっと締まった。反射的にスクショを撮って画面を閉じた。スクショは消さなかった。消す理由が、私にはまだ見つからなかった。気づいた瞬間、頭の中で何かが静かに閉まった。扉というより引き戸。音も立てずに、すっと。私は何も言わない。言えないんじゃない。言う必要がない。だってここは職場で、私は社会人で、彼の私生活は彼のもので。そうやって、今まで何度も自分を守ってきた。だから私は、その後、いつもどおりに振る舞った。いつもどおりに微笑んで、いつもどおりに「助かりました」と言って、いつもどおりに仕事を回した。──“いつもどおり”は、距離を取るための仮面だ。“いつもどおり”を完遂した私、偉い。全人類、今の私を、ベッタベタに褒めて。なのに。次の日から、榊くんが近くなった。前はこんなこと無かった。多少近くても、本当に身体と身体があと1ミリで触れそうなところになんて、榊くんは来なかった。榊くんは、私を混乱させる天才だ。そして混乱した人間から、境界線は剥がれる。
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コピー機じゃない。オフィスでもない。物件資料のファイルを覗き込む角度。PC画面の横に立つ時間。その全部が、“距離”になっていく。「この条件、いけます?」と聞く声が、背後から落ちる距離。一歩、半歩、気づけば私のテリトリーの内側に、当たり前みたいに入ってくる。「朝比奈さん、ここ、僕が入力しときますよ」手伝いの言葉の形をした、侵入。私は笑顔の筋肉だけ動かした。「うん、大丈夫。自分でやるから」柔らかく、でも線を引く。すると榊くんは、ほんの一瞬だけ黙る。傷ついた顔をする。──そういう顔が、上手い。「あの……嫌だったわけじゃ、ないの。私ね、勢いでやっちゃいたいの」嫌だったわけじゃない、じゃない。近いのが嫌だ。境界線を踏まれるのが怖い。私は言えない代わりに、魔法の言葉を使う。「でもありがとう。助かります」言った瞬間、自分の喉が苦くなった。助かるのは私じゃない。彼が“良い人”のままでいられるだけだ。榊くんが、小さく息を吸う気配がした。見ないまま、“気づいた”だけ。(気づかなくていいのに)私の胸の奥が、きゅっと縮む。平常運転の仮面の下で、肺だけが先に逃げようとする。──そして私は、まだ知らない。この人が欲しいのは「私の笑顔」じゃない。私の“境界線を越えた先”にある安心だ。
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