All Chapters of 離婚して一ヶ月後、元夫は後悔した: Chapter 1 - Chapter 9

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第1話

結婚3周年の記念日、その夜の11時。私は何度もスマホを確認したが、秋からの返信は一つもなかった。【秋、大丈夫?どうして電話に出ないの、すごく心配だよ】【秋、今日そんなに忙しいの?いつ帰ってこられる?】【秋、今日は早めに帰ってきてね】テーブルの上に置かれた、すっかり冷めきった料理を見つめながら、私は心配とやるせなさに胸を締め付けられていた。せめて彼の秘書の連絡先だけでも控えておけばよかったのに。最近、会社で新しいプロジェクトが始まって多忙を極めているから、私のことにかまっている暇はない、と彼からはそう聞いていた。私も彼を理解しているつもりだが、今日は結婚記念日だというのに……秋のために特別に設定していた着信音が響き渡り、私は慌てて通話ボタンを押した。聞こえてきたのは、耳に心地よい女性の声だ。「奈央さんでしょうか?私、大崎社長の秘書です。社長がかなり飲みすぎてしまって、私と運転手で地下駐車場までお連れしたのですが、お迎えに来ていただけないでしょうか?」私は急いで階下に降り、運転手に手伝ってもらいながら、酒臭い秋を何とか部屋のベッドへと寝かせた。リビングに戻ると、私たちのあとをついてきたあの若い女性が、しゃがみ込んでうちの猫・ムギと遊んでいるところだった。でも、普段は人懐っこい猫なのに、その女にはまったく懐かず、低い唸り声を上げて威嚇している。彼女は立ち上がると、秋のスマホを私に差し出し、ふわりと爽やかなシトラスの香りが漂わせながら薄笑いを浮かべた。「奈央さん、今夜のことは、本当に私のせいなんです。私、お酒が弱くて……社長はずっと私の代わりに飲んでくれてたんです。それで、スマホもずっと私が預かってました。奈央さんからのメッセージも、さっき気づいたところで……どうか社長を責めないであげてくださいね」私の返事も待たずに彼女はさっさと踵を返して部屋を出ていき、ドアを閉める直前、私に向けていかにも挑発的な意地の悪い視線を投げてきた。最近、秋から時折あの微かなシトラスの香りが漂っていた。そのことをふと思い出し、手元の秋のスマホ画面に視線を落とした。ダメ元で、自分の誕生日を入力してみた。画面のロックが解除された。私はほっとした。秋のLINEを開いてみたが、そこに私とのトークはもうピン留めされて
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第2話

秋は話を聞き終えると、すぐに不機嫌そうに眉をひそめた。「普通に名前で呼んでくれない?そういう呼び方、自分でも恥ずかしいと思わないのか?」「でも、私たち付き合ってるんだし、周りのみんなも……」言い終わらないうちに、秋は私の言葉を遮った。「恋人同士だからって、そんな愛称で呼び合わなきゃいけないって言うなら、俺たちの関係を見直したほうがいいかもな」そう捨て台詞を残すと、彼は一人で立ち去ってしまった。その後の数日間、いくらメッセージを送っても、何度電話をかけても、彼から返信が来ることはなかった。私は数日間すっかり落ち込んでいたけれど、どうしても諦めきれず、結局彼の家まで押しかけてしまったのだ。「ごめんなさい。秋が嫌なら、もう二度とあんな呼び方しないから。お願い、もう一度やり直させて」私は彼に頭を下げて謝った。……手にふと温かくザラついた感触が走り、ハッと我に返った。ムギが私の手を舐めてくれていたのだ。暗転したスマホの画面を見つめながら、私は心の中で自分を嘲笑した。なんだ、彼は甘えん坊な女の子が嫌いだったわけじゃないか。ただ、私に甘えられるのが嫌だっただけなのだ。彼のスマホをテーブルに置いた。いつものように、酔っ払った彼のためにしじみの味噌汁も用意せず、汚れた服を片付けることもしなかった。私はただムギを抱きかかえて、ゲストルームへと向かった。翌朝、目を覚ますと、秋が私の隣で横になりながらムギを撫でていた。私が動いた気配に気づくと、彼は冷ややかな視線を向け、淡々と言った。「昨日、俺のスマホ見たろ?」私は黙って頷いた。「勝手にスマホ触られるのが一番嫌いだって、前にも言ったよな?」「じゃあ、原さんは?」「彼女は俺の秘書だ。仕事の付き合いで飲んでたから、預かってもらってただけだろ」「次からは見ないから」「『次』なんてないさ。パスコードはもう変えたから」そう言い捨てると、彼は立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。私の胸の奥に再び不快感がこみ上げ、言葉にできない辛みが喉の奥につかえた。あの時、パスコードを私の誕生日に設定してくれたのも、単に彼がその時たまたま機嫌がよくて、私にちょっとサービスをしてくれただけだったのだろう。婚姻届を出したあの日のことを覚えている。私は胸の高鳴
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第3話

聞き覚えのある、申し訳なさそうな女性の声が、電話の向こうから聞こえてきた。「秋さん……やっぱり奈央さんには隠さないほうがいいです。奈央さん、ごめんなさい。あの日ムギを見かけて、すごく可愛かったから……それで今日、社長にお願いして連れてきてもらったんです」そう言ってから由香の声は詰まり、すすり泣きに変わった。「でも、さっき車の中が少し息苦しくて、窓を開けて空気を入れようとしたら、ムギがパニックを起こしちゃったみたいで、窓から飛び出していっちゃって……そこにちょうど車が通りかかって……昔犬を飼っていた時は、窓を開けてもおとなしくしていたのに……そんなことになるなんて知らなくて……全部私のせいです、ごめんなさい、うっ、ううっ……今すぐ探しに行きますから」「由香、泣くなよ。大丈夫だから、君のせいじゃない。ムギが臆病だっただけだ」その瞬間、私の胸の奥がすっと冷えていくのを感じた。鼻をすすり、私は一言ずつ噛みしめるように言った。「秋……お願いだから。ムギを連れて帰ってきて」電話の向こうで秋は由香をなだめているようだった。私の声を聞くと、素っ気なく「わかった」とだけ返事をして、そそくさと電話を切った。溢れて止まらない涙を拭いながら、私は苛立ちと不信感が募った。まさか秋は私を怒らせるために、わざと彼女とこんな茶番を演じているのだろうか?そこまで彼女が好きなら、私だって身を引いてやる。普段から私を傷つけるのはもういい、でもどうしてムギまで巻き込むの?ムギは、母が亡くなる前に残してくれた「家族」だった。自分の命が長くないと分かった母が、私に寄り添える心の支えとして贈ってくれた子猫だったのだ。生後3ヶ月の時に母と一緒に引き取りに行き、「毛の色が小麦色だから」と母が「ムギ」と名付けた。一緒に予防接種へ連れて行き、好みに合うキャットフードを選び、居心地のいいベッドを整えた。小さい頃から私の感情を敏感に感じ取り、嬉しい時も悲しい時も、ただ静かに寄り添ってくれた。言葉を喋らないだけで、私にとっては我が子も同然の存在なのだ。やがてムギが1歳になった頃、母はがんとの闘病の末に息を引き取った。あれからムギは6年間も私を支え続けてくれた。秋だって、その一部始終を知っていたはずなのに。……秋は荒い息を吐き続けるムギを抱えて
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第4話

私は薬指の指輪を外し、自嘲した。「ムギがあんな目に遭ったのは、秋のせいよ。そんな人を一緒に連れてこられないでしょう」「昔からそうだったよな。君って、何かあるとすぐ俺まで巻き込んでたくせに。でも今はどうした?こんなふうに、好き放題傷つけられるようになって。困ってるなら、俺が力になってやろうか?」私は首を振った。「大丈夫。自分で何とかするから。ただムギのこと、よろしくね」修はまだ納得していないような顔をしていたが、しぶしぶ頷いた。それから私とLINEを交換した。ムギの容体に変化があれば、すぐ連絡できるからだって。……家に戻ると、秋は電話の真っ最中だ。「由香、もう泣くなって。本当に君のせいじゃないから。ちゃんと家に帰って、いい子にしてろよ?明日、何か美味しいもの買っていってやるから」私に気づくと、秋はさらに電話の向こうへ優しく声をかけた。「奈央が帰ってきた。俺からちゃんと説明するから。ほら、もう泣くなって。じゃあ、一旦切るぞ」私は秋の向かいに腰を下ろした。泣きもしないし、責めもしない。ただ、黙って彼の顔を見つめていた。この人は、こんなふうに誰かを慰めることもできるんだ。4年前のことを思い出した。私は秋が大好きなアーティストのライブチケットを必死になって、やっと手に入れた。秋も珍しく喜んでくれて、一緒に行くと約束してくれた。けれど当日、私は会場の前で、日が暮れてもずっと彼を待っていた。夜になっても、ライブが終わっても秋は来なかった。何度メッセージを送っても、返事はなかった。私はたまらず秋の家まで押しかけた。すると彼は、寝ぼけた顔で起きてきて、悪びれる様子もなく言った。「寝坊したんだ。スマホも、いつも通りマナーモードだったし」私は泣きながら、どうしてこんなことをするのかと尋ねた。すると秋は、面倒くさそうに眉をひそめた。「そんなことで泣くなよ。自分で勝手に期待したんだろ。人に期待しすぎるなって。そういうの、本当に面倒なんだよ。もう帰ってくれない?せっかく気分よく過ごしてたのに、台無しだ」それだけ言うと、秋はまた部屋へ戻っていった。私は泣きながら家に帰った。どうせ、もう彼のほうから連絡してくることなんてないって思っていた。結局はその通りだった
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第5話

秋は、一瞬きょとんとした。「今度は、そんな手まで使うようになったのか?付き合うって決めた時、俺言ったよな。君から別れを切り出したら、もう二度とやり直すつもりはないって」「うん。家も車も、株もいらない。その分、現金で清算してくれればいいから」秋は信じられないものでも見るように私を見つめた。私がここまであっさり決断したことが、よほど意外だったのだろう。しばらくして、彼は鼻で笑った。「へえ。やるな、奈央。後悔するなよ」……役所を出たあと、私は小さく息を吐いた。すると隣にいた秋が、相変わらず冷たい声で言った。「あとから俺にまとわりつくなよ。自分で決めたことなんだから」私はあきれて吐き捨てた。「もういいから、ちょっとため息ついただけでしょ。離婚に伴う財産関係の手続きや確定に一か月もかかるから、ただその期間が長すぎると思っただけ」それだけ言うと、私はタクシーを拾って動物病院へ向かった。病室に入ると、ムギが私の姿を見つけて、か細く「ニャア」と鳴いた。私は慌ててそばへ駆け寄り、そっとその体を撫でた。その時、私が持っているスーツケースに気づいた修が笑った。「ムギの荷物、全部持ってきたのか?ここには必要なもの、何でもあるぞ」「これ、ムギの荷物じゃないから」「いや、どう考えても君はムギのベッドには入らないだろ」私は思わず、吹き出してしまった。「修って、本当に昔から思考回路が変わらないね」「やっぱり、君が笑ってるほうがいい。眉間にしわ寄せてると、ばあさんみたいだぞ」「はいはい、そうですね」私と修は、昔からこんな調子だった。不思議なことに、役所で離婚の手続きを終えた時は、まだ胸の奥が重かった。なのに、さっき笑った瞬間、そのつかえていたものが、ふっとほどけた気がした。ようやく少しだけ、肩の力が抜けた。私が何も話すつもりがないと分かったのか、修のほうが先に口を開いた。「家出でもしたのか?」「違う違う。離婚したの」修は驚いた顔をしたあと、すぐに親指を立てた。「やるじゃん。昨日ケンカして、今日離婚?やっぱり君って、昔から我慢して自分を押し殺すタイプじゃなかったよな。今夜は俺のおごりだ。めでたい門出を祝おうぜ」……レストランに入り、料理を注文し終えると、私
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第6話

「こうやって別れるだの、引き止めるだの……そんなこと、あと何回繰り返すつもりだ?言っておくけど、俺はもう君にチャンスをやるつもりはない。奈央、そんなみっともない真似して、本当に見苦しいな」この人今日はいったい、あとどれだけ余計なことを言えば気が済むんだろうと思っていたら、背後から修の声が聞こえた。「ハニー、遅いよ。迷子にでもなったのかと思った」その変な呼び方に、私は一瞬、頭が真っ白になった。いったい、どの男の言葉に驚けばいいのか分からない。修は秋の目の前まで来ると、何のためらいもなく私の手を取った。そのまま、指を絡めるようにぎゅっと握った。「ん?この人、どこかで見たことあるな。ああ……もしかして、奈央の元旦那?」せっかくのチャンスだ、少しくらい秋に嫌がらせをしても罰は当たらないだろう。すると私は作り笑いを浮かべながら、修に合わせた。「そうだよ。でも修、変な誤解しないでね?このレストランを選んだの、修だから」すると修は一瞬だけ目を丸くした。そしてすぐに、口元をゆるめる。「俺が奈央のことを疑うわけないだろ」それから、秋に向かってにっこり笑った。「どうも。じゃあ、元旦那さん。うちの彼女、連れていきますね」そう言うと、修は私の手を引いた。私はそのまま彼に連れられて歩き出したが、つい一度だけ振り返った。秋は今にも噛みつきそうなほど険しい顔で、拳を強く握りしめていた。その視線の先にいるのは、修だった。……駐車場まで来ると、ようやく修が私の手を離した。そして、彼は満足そうに笑う。「見たか?あの元旦那の顔、相当ムカついてたぞ。今まで君が散々甘やかしてきたから、あいつもああいうことを平気で言うようになったんだ。今日は俺が、ちょっと仕返ししてやったってわけ」私もなんだか妙にすっきりしていた。「まあ、それはそうだけど……別に修が来なくても大丈夫だったよ。私、もうちゃんと自分の言いたいこと言えるようになったし」「どこがだよ。言い返しもせずに、突っ立ってただけじゃん」「あの人が、次にどんなくだらないこと言い出すのか、ちょっと聞いてみたかっただけ」修は吹き出した。「なら、もう完全に吹っ切れたな。さっき君と彼の話を聞いた時は、またあいつのところに戻るんじゃないかって、本
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第7話

思わずスクショを撮って、修に送りつけた。【受けるわ】すると修から、ものの数秒で返信が来た。【君って、とうとう自虐まで覚えたのかよ。まあ、確かに笑えるけどな。あそこまで大崎に尽くしてる姿、すっかり板についてるし。いっそ相手、変えたら?】【うるさい!明日、離婚届を出しに行く予定よ。やっと独身に戻るんだから!私はもうすぐ晴れて独身の美人金持ちになるんだから!そしたらホスト10人くらい侍らせてやる!】送信した直後、修から着信が入った。「奈央!君、今なんて言った?」「明日、ホスト10人侍らせるって言ったの!」修が歯ぎしりするような声で言った。「じゃあ俺も混ぜろ。どんなもんか、この目で確かめてやるよ」「え?まさか修も、そういうのが好みだったの……?」「奈央!!」スマホ越しに修の怒鳴り声が響き、私は慌ててスマホを耳から離した。「ごめん、ごめん。冗談だって。今のは全部、冗談だから」「それならいい」しばらく黙ってから、私はぽつりと言った。「ねえ、修。私たちって、ちょっと妙な関係になってない?」「じゃあ明日、俺が一緒に離婚届を出しに行ってやるよ」「は?」……まさか、本当に修が来るとは思わなかった。役所の前、私と修、そして秋と由香四人で顔を合わせ、しばらく無言のまま見つめ合った。秋は修を睨みつけ、顔を強張らせている。やがて私に視線を向けると、低い声で言った。「そうか。奈央、君本当にやるんだな」修に「口を動かすくらいしろ」と言われそうな気がして、私は慌てて返事した。「そうだよ。私はとっくにこうしたかったんだから。さっさとして。私も修も急いでるんだから」秋の表情が変わった。「なんだと?」すかさず修が、わざとらしい口調で割って入る。「ああ。俺だって、入籍するための必要な書類は全部持ってきたからな」その瞬間、秋の顔がこわばった。まるで張り詰めていた糸が、ぷつりと切れたようだった。「奈央……二人で話せないか?」私が答えずにいると、秋は続けた。「これで最後にしたいんだ。俺たちが過ごしてきた時間にも、ちゃんと区切りをつけたい」その言葉を聞いて、私は小さく頷いた。「……分かった」役所から少し離れた場所に榕樹がある、私たちがそこへ行った。秋と二
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第8話

役所を出ると、修がどこからともなく花束を取り出し、私の前に差し出した。「奈央の泣き虫。離婚おめでとう。今日から新しい人生の始まりだぞ」私は思わず笑って、その花束を受け取った。「ありがとう」その様子を見ていた秋の周囲だけ、急に空気が重くなった気がした。あの日を境に、私は青山近くのマンションを買った。すると、修は当然のようにその隣の部屋を購入して私の隣人になった。それから毎朝6時になると、私は運動のために外へ出る。そして、その後ろを修が当たり前のようについてくるようになった。そんな生活が一か月続いた。私の体重はほとんど変わらなかったのに、修だけは妙に体つきが引き締まり、腕にも筋肉がついてきている。さすがに納得できなくなった私は、ある朝、修を睨んだ。「ねえ、修。私に黙って、別で筋トレとかしてない?」すると修は、ひどく心外そうな顔をした。「してるわけないだろ。最近ずっと君の周りにいるじゃん。俺がどこ行ってるか、君が知らないはずないだろ?」「だから余計に腹が立つのよ。修、いったい何がしたいの?毎日こんなふうに私についてきて……病院の仕事はどうしたの?そのうちクビになるんじゃない?」「ならないって」修はいっそう被害者ぶった顔をした。「俺、そこの経営者だから、俺が自分をクビにすることはないって。でも、君が俺の奥さんになるなら、話は別だけど」私は思わず足を止めた。「ちょっと待って。あなたは経営者であることって、今まで一言も言わなかったじゃない」「そこじゃないだろ!問題は、俺の奥さんになる気があるのかってこと!」「修、頭でも打った?」すると修は急に表情を改め、真剣な顔になった。「奈央。俺は本気だ。君がもし――」「嫌!私はこれから、自由で気楽な独身生活を満喫するの!ていうか、あなたが毎日ついてきてたら何か変じゃない?それに私、まだホスト10人と遊ぶっていう夢も叶えてないんだから!」「こっちまだ言い終わってないのに、即答かよ」修は何かを思いついたように私の袖をくいっと引いた。「お姫様」「は!?ちょっと、何してるのよ!?」「だって、ホストってこういう感じで呼ぶんじゃないのか?」「どこでそんな知識仕入れてきたのよ!まさか本気で真似するとは思わなかったわ!」
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第9話

何よりも、修と一緒にいると楽しかった。だから私は、迷わず頷いた。「修、あなたは合格よ。試しに、付き合ってみてもいい」修は数秒、ぽかんと固まっていた。次の瞬間、私を勢いよく抱き上げ、その場でぐるぐる回り始める。「やったぁぁ!奈央、ついに俺にも彼氏としての立場ができた!」「ちょ、待って!修、待ってってば!」私の言葉も聞かず、修は急に何かを思い出したように私を下ろすと、そのまま勢いよく外へ飛び出していった。そしてしばらくして戻ってきた時には、両手いっぱいの赤いバラと、小さなジュエリーボックスを抱えていた。「奈央。さっきのはノーカン。もう一回、ちゃんと言わせて貰うわ。だから、何も言わないで。まず最後まで聞いて、いい?俺、君のことが好きだ。いつからって聞かれたら……たぶん、中学生の頃からだと思う。初めて会った頃から、なんとなく君のことが気になってた。ガキの頃って、好きになる理由なんて分からないだろ?ただ、君が口げんかしてる時も可愛かった。何か食べてる時も可愛かった。授業中に居眠りしてる時も可愛かった。泣いてる顔まで可愛く見えてた。でも、自分の気持ちに気づいた頃には、君はもう引っ越してた。何年も探したんだ。でも、君とお母さんは本当にきっぱりいなくなっちゃって……連絡先ひとつ残してなかった。だから、また君に会えた時は、本当に嬉しかった。君がどんな思いをしてきたのか知って、すごく心が痛かった。君が離婚するって聞いてからは、ずっとその日を待ってた。やっと、君にちゃんと気持ちを伝えられる。せっかくだから、始まりはちゃんとしたかったんだ。奈央、俺と付き合ってくれないか?」私の知らないところで、修はずっと長い間、私のことを想ってくれていたなんて初めて知った。私は一歩近づき、そのまま修に抱きついた。「修、私も嬉しいよ。修と一緒にいたい理由は、他に何もないよ。ただ、修が好きだから。修といると、楽しいから」付き合い始めてからの修は、まるで別人だった。以前のように私をからかうことは減り、代わりに、やたらとくっついてくるようになった。大型犬みたいだ。「奈央!早く俺たちのことをSNSに投稿してよ!それに、なんで俺とのツーショットをヘッダーに載せてくれない!?このままだと俺、本当に泣く
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