「詩織、こっちは周防麻沙美。高校時代からの親友だ」銘也は車に乗り込むなり、私に麻沙美を紹介した。口では「親友」と言っているだけなのに、その声音には親しさが滲み出ていた。私は目を伏せ、「親友」という言葉を何度も胸の中で噛みしめる。ただ、口の中に苦い味が広がっていくような気がした。「はじめまして、浅草さん。銘也からあなたの話を聞いてたの。やっと会えたわね」麻沙美は表面上は挨拶をしているものの、その口調には明らかな挑発が含まれていた。銘也が、彼女に私の話を?きっと、ろくな話ではない。そうでなければ、さっき私を上から下まで値踏みするように眺めたあと、私が車のドアを開けてあげたとき、鼻で短く笑ったりするだろうか。彼女が何を言いたいのかは分かっている。要するに、銘也の犬っころにすぎない私なんかに、彼女がわざわざ挨拶する手間をかけるのも馬鹿馬鹿しい、ということだ。「はじめまして、周防さん」私は小さな声で答えた。そして、彼女の顔は見ず、バックミラー越しに銘也を見た。私の声にも表情にも、ほとんど感情を乗せなかった。「どこへ行きますか?」銘也はそんな私を見て、一瞬戸惑ったように固まった。少し迷ったあと、ようやく口を開いた。「まずはうちに戻ろう。麻沙美は海外から帰ってきたばかりで、まだ泊まるところがないんだ」そう言った銘也の顔はわずかに赤らんでいた。そして、横目でこっそり麻沙美を見る。その様子を見ていると、彼の本当の目的を疑わずにはいられなかった。けれど、私は知っている。さっき空港でトイレから戻ってきた私は、搭乗ロビーで傍若無人に熱烈な口づけを交わす二人の姿を目にした。私が今まで見たことのない、銘也の姿だった。その瞬間、全身の血が凍りついたような気がした。私はぼんやりと胸元に手を当て、深く息を吸い込んで痛みを押し殺した。そうだ。考えてみれば、私はこんなにも名ばかりの存在だ。「妹」という肩書き以外、彼のそばにいるためのまともな身分すら持っていない。そんな私に、どうして彼が一途でいてくれることを望めるだろう。「主寝室を片付けましょうか?」家に着くと、私は自分の役目を果たすように麻沙美の荷物を中へ運び入れ、それから小さな声で尋ねた。「その……昨夜……」銘也
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