Semua Bab ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side: Bab 1 - Bab 10

39 Bab

1話

夜11時のココア温泉旅館の夜11時。私は、完全に目が冴えていた。せっかく1人で温泉に来たのに。露天風呂には2回入った。夕食では、普段なら頼まない地酒まで飲んだ。ふかふかの布団も敷いてある。あとは気持ちよく眠るだけ。――なのに、眠れない。「こういうところだけ、期待を裏切らないんだよね……」天井に向かって呟いた。旅行先では、だいたい眠れない。枕が違う。時計の音が気になる。廊下を誰かが歩くだけで目を開ける。そのくせ帰りの電車では爆睡する。我ながら面倒くさい。もう一度温泉に行こうかと思ったけれど、3回目はさすがに茹で上がりそうだった。私は浴衣の上に羽織を着て、部屋を出た。1階に小さなラウンジがあったはずだ。水でも飲もう。廊下は静かだった。古い旅館だから、歩くたび床が小さく鳴る。窓の向こうは真っ暗な山。ちょっと怖い。私は自然と早足になった。ラウンジまで来ると、明かりがついていた。そして、「……あ」男の人がいた。チェックインのとき、フロントで見かけた人だ。たぶん従業員。30代くらい。昼間はきちんとジャケットを着ていたのに、今は白いシャツの袖を肘までまくっている。ネクタイもない。シャツの一番上のボタンも外れている。昼間よりずっと無防備に見えた。その人が、ものすごく真剣な顔でコーヒーマシンを見つめていた。私に気づくと、少し気まずそうに笑う。「眠れません?」いきなり当てられた。「なんで分かったんですか」「夜11時に浴衣でラウンジへ来る人は、だいたい眠れない人です」「温泉マニアかもしれません」「それなら大浴場へ行きます」正論だった。「……眠れません」「ですよね」彼はまたコーヒーマシンへ目を戻した。「そちらは?」「戦ってます」「何と?」「これと」マシンの横には、ココアの粉と牛乳。「ココア?」「飲みたくなったんですけど、牛乳の温め方が分からなくて」私は思わず彼を見る。「旅館の人ですよね?」「夜番なんですけど、今日が3日目で」「新人さん」「34歳の新人です」ちょっと笑ってしまった。「笑いましたね」「ごめんなさい」「いいです。自分でも若干面白いので」彼も笑った。「飲みます?」「何を?」「成功するか分からないココア」怪しい。でも、飲みたい。「成功したら」
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-13
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2話

そのネックレス、外れそうですホテルのバーで、1人でケーキを食べる。32歳になって初めてやってみたけれど、かなりいい。午後10時半。窓の向こうには、雨に濡れた街の灯りが広がっている。私はカウンターの端で、チョコレートケーキをひと口食べた。濃い。甘い。最高。誰にも一口あげなくていい。これだけでも、1人でホテルに泊まった価値がある。今夜は、自分のためだけに取った部屋だった。大きなベッド。夜景。バスタブ。そして、ちょっと高いケーキ。完璧。――だったのだけれど。「それ、かなりおいしいですか?」隣から声がした。見ると、ひとつ席を空けたところに男性が座っていた。30代半ばくらい。黒いシャツ。ジャケットは椅子の背に掛けてある。グラスにはウイスキーらしき琥珀色。「……なんで分かるんですか」「さっきから、食べるたびに目を閉じてるので」恥ずかしい。全然気づいていなかった。「そんなに?」「3回確認しました」「見すぎじゃないですか?」「すみません」彼は笑った。謝る気は、あまりなさそうだった。私はフォークを置く。「そんなに気になるなら頼めばいいじゃないですか」「甘いもの、そんなに得意じゃなくて」「じゃあ見ないでください」「でも、おいしそうに食べる人を見るのは好きです」さらっと言われた。これは、あれだ。ちょっと調子のいい人だ。私は知っている。こういう男性の言葉を真面目に受け取ってはいけない。「普段からそういうこと言ってるんですか?」「何を?」「女性をちょっと喜ばせるようなこと」彼は少し考えた。「今日は初めてです」「今日は?」「普段はもっと感じ悪いです」思わず笑ってしまった。「そこ、普通は否定するところですよ」「嘘つくよりいいかなと思って」そのあと、なぜか少しだけ話した。彼もこのホテルに1人で泊まっているらしい。理由は聞かなかった。私の理由も聞かれなかった。それがよかった。名前も仕事も知らない。好きなケーキと、お酒の好みだけ。こういう会話は楽だ。明日の自分に何も持ち越さなくていい。「もう1個食べようかな」私がケーキのメニューを開くと、「それは止めたほうがいいです」「どうして」「さっき、これで最後って言ってました」「聞いてたんですか」「3回目のひと口のあとに」
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-13
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自分の部屋番号

少しだけ、ここにいてホテルの大浴場を出たところで、私は自分の部屋番号を忘れた。正確には、忘れたわけじゃない。たしか12階。そこまでは分かる。でも、1206だったか。1208だったか。1210だったか。そこから先が、完全に消えていた。「……嘘でしょ」浴衣姿のまま、エレベーター前で立ち尽くす。スマホは部屋。カードキーも部屋。財布も部屋。手元にあるのは、小さなタオルだけ。完璧に詰んでいる。大浴場へ戻ってフロントに電話するしかない。そう思ったとき、「あれ」後ろから声がした。振り返る。大浴場で少し前に見かけた男性だった。もちろん男湯で、ではない。入口の自動販売機の前で。私が牛乳を買おうとして、100円玉を落としたときに拾ってくれた人。30代半ばくらい。黒髪。浴衣の上に濃紺の羽織。片手には瓶の炭酸水。「さっきの」彼も覚えていたらしい。「100円の人」「その呼び方やめてもらえます?」「じゃあ牛乳の人」「もっと嫌です」彼が笑う。「どうしました?」「部屋番号が分からなくなりました」「酔ってます?」「飲んでません」「じゃあ結構深刻ですね」「自分でもそう思ってます」事情を話すと、彼は少し考えた。「フロント行きます?」「そうします」「僕も下に行くので、一緒に行きますよ」ありがたい。1人で浴衣姿のまま事情を説明するより、なぜか少し心強い。エレベーターが来る。2人で乗る。彼が1階のボタンを押した。扉が閉まった。その瞬間。ガクン。エレベーターが止まった。「え?」照明が1度だけ消えて、非常灯に切り替わる。薄暗い。嫌な予感しかしない。「ちょっと待って」彼が操作盤を見る。ボタンを押す。反応なし。「……止まってますね」「見れば分かります」「ですよね」冷静な返事がちょっと腹立つ。非常電話を押すと、すぐにスタッフの声がした。どうやら館内で一時的な電気トラブルが起きたらしい。復旧まで少しかかる。危険はない。その説明を聞いて、私は壁にもたれた。「最悪」「閉所苦手ですか?」「ちょっと」本当は、かなり。狭い場所そのものより、出られない、という状況が苦手だった。深呼吸する。大丈夫。すぐ動く。分かっている。でも、体はあまり言うことを聞いてくれない。「
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-22
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その花、1本ください

その花、1本ください午後9時45分。駅前の花屋が、まだ開いていた。こんな時間までやっていたんだ。私は1度通り過ぎて、3歩戻った。店先には、閉店準備を始めた花たち。白いガーベラ。淡いピンクの薔薇。小さな青い花。別に、誰かに贈る予定はない。誕生日でもない。記念日でもない。でも、今日は花を1本くらい買って帰ってもいい気がした。理由はない。そういう夜だった。「まだ大丈夫ですか?」店の奥へ声をかける。「大丈夫です」男性が顔を出した。30代前半くらい。ベージュのエプロン。白いシャツの袖をまくっている。髪は少し長めで、前髪が目にかかっていた。花屋のお兄さん。なるほど。なんとなく納得する見た目だ。「1本だけでもいいですか?」「もちろん」彼は店先まで出てきた。「贈り物ですか?」「自分用です」そう答えると、彼が少し笑った。「いいですね」その言い方が自然だった。「1本だけ買う人って珍しいですか?」「全然。ただ」「ただ?」「自分用です、って迷わず言う人は結構好きです」私は彼を見る。「それ、営業トーク?」「違います」「早い」「僕、営業あんまり上手じゃないので」確かに。上手な人なら、もう少し遠回しに言いそうだ。「どれがいいと思います?」私が並んだ花を見る。「完全にお任せ?」「1本だけ選んでください」「難しいな」彼は真剣に花を見る。そこまで悩
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-23
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手首、熱いですね

映画が終わったのは、午後11時20分だった。平日のレイトショー。観客は10人もいなかった。私は最後まで席に座ったまま、エンドロールを眺めていた。泣くような映画ではなかったのに、なぜか立ち上がるのが惜しかった。暗い場所って、いい。誰にも顔を見られない。ポップコーンを1人で全部食べてもいいし、途中で靴を脱ぎたくなっても誰にも怒られない。まあ、脱がないけど。照明が明るくなり始めたところで、私はようやくバッグを持った。そのとき。「これ、落としましたよ」後ろから声がした。振り返る。男性が、小さな銀色のものを指先につまんでいた。私のブレスレットだった。「あ」左手を見る。ない。いつの間に。「ありがとうございます」受け取ろうとすると、「留め具、開いてますね」彼がブレスレットを見ながら言った。30代半ばくらい。黒いパーカーに、眼鏡。映画館で見かけても絶対に覚えていないタイプ。でも近くで見ると、意外と目が優しかった。「壊れてます?」「たぶん大丈夫。外れただけだと思います」彼は留め具を触ってみる。「直せそうですか?」「こういうの苦手なんですけど」「じゃあ返してください」「今ちょっと意地になってきました」「なんで」「できないと思われると悔しいので」面倒な人だ。ちょっと笑った。映画館のスタッフが、遠くからこちらを見ている。早く出ろ、という空気を感じる。「外でやりません?」「追い出されそうですもんね」2人でロビーへ出た。*外は雨だった。来たときには降っていなかったのに。しかも、かなり強い。私は入口のガラス越しに雨を見た。「傘……」ない。天気予報を見なかった自分を呪う。隣で彼が折りたたみ傘を開いた。「駅までですか?」「はい」「じゃあ入ります?」一瞬迷った。駅までは徒歩7分。走れば3分。でも、この雨を3分走る勇気はない。「……お願いします」「どうぞ」傘は、大人2人には少し小さかった。自然と距離が近くなる。彼は私が濡れないように傘をこちらへ傾けている。そのせいで、自分の右肩が少し濡れていた。「そっち濡れてますよ」「大丈夫です」「大丈夫じゃないでしょ」私が傘の柄を中央へ押す。彼の手に、私の手が重なった。「あ」2人とも止まった。先に離したのは私だった。「す
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-24
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毛布、半分どうぞ

午後10時15分。私は夜のフェリーに乗っていた。旅行というほど大げさなものではない。翌朝には着く短い船旅。ただ、船で眠ってみたかった。それだけだ。船内にはレストランも、大浴場も、小さな売店もある。でも夕食を済ませた私は、さっさとお風呂に入り、部屋着に着替えてしまった。あとは寝るだけ。――のはずだった。「揺れてる……」ベッドに横になると、途端に船の揺れが気になった。大きくはない。ゆっくり。右へ。左へ。右へ。左へ。眠れそうで、眠れない。私は15分で諦めた。パーカーを羽織り、船内を歩く。展望ラウンジには、まだ何人か人がいた。窓の外は真っ暗。海なのか空なのかも分からない。遠くに、小さな灯りがいくつか浮かんでいる。私は自動販売機でココアを買った。紙カップを両手で持ち、窓際のソファへ向かう。そこで気づいた。先客がいる。男性が1人。30代半ばくらい。グレーのスウェットに黒いパンツ。足元は、ホテルでもらうような薄いスリッパ。かなり気が抜けている。彼は窓の外を見ながら、カップラーメンを食べていた。夜の海。静かなラウンジ。そして、カップラーメン。雰囲気が全部台無しだった。思わず見ていたら、彼と目が合った。「食べます?」「いりません」即答した。「すごく見てたから」「海を見てたんです」「僕、海側にいました?」「かなり邪魔してます」彼は笑った。「すみません」そう言って、カップラーメンを持ったまま少し横へずれる。律儀だ。私は2席離れた場所に座った。ココアを1口。甘い。温かい。ちょっと落ち着く。「眠れないんですか?」彼が聞いた。「どうして分かるんですか」「この時間に部屋着でココア飲んでる人、だいたいそうかなと」「そっちは?」「僕もです」「船酔い?」「いえ」彼はカップラーメンを持ち上げた。「お腹すいて」健康だ。「夜中にそれ食べたら、もっと眠れなくなりません?」「大丈夫です。僕、食べたらすぐ寝られるタイプなので」「うらやましい」「どこでも寝られます」「それも腹立つ」「なんで」また笑った。くだらない会話なのに、ちょうどよかった。知らない人だから、何も考えなくていい。*しばらくすると、彼が立ち上がった。「外、行きません?」「甲板?」「今、月が出
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-25
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眠いなら、寝ろ

午後9時58分。新幹線のグリーン車は、思っていたより静かだった。私は窓側の席に座り、コートを膝に置いた。あと2時間。家に着くころには、日付が変わっている。今日はもう何もしたくない。スマホも見たくない。誰とも話したくない。買ったばかりのペットボトルの水を1口飲んで、座席を少し倒した。そのとき。「すみません」低い声がした。顔を上げる。隣の席に、男性が立っていた。40代前半くらい。濃紺のスーツ。ネクタイは外して、シャツの1番上のボタンも開けている。片手には薄い革のバッグ。髪には少しだけ白いものが混じっていた。いかにも仕事ができそうな人。というか、たぶん実際にできる。そういう空気だった。「隣、いいですか」「もちろん」私がバッグを寄せると、彼は短く会釈して座った。それだけ。会話は終わった。よかった。今夜は静かに帰れそう。彼はノートパソコンも出さなかった。スマホを1度確認しただけで、すぐポケットにしまう。そのまま窓の外を見る。意外だった。こういう人は、新幹線でもずっとメールを返していそうなのに。しばらくして、車内販売のワゴンが来た。私は迷った末、缶のハイボールを買った。隣の彼も同じものを頼んだ。思わず見る。彼もこちらを見る。「同じですね」私が言うと、「真似したわけじゃない」「そこまで言ってません」彼の口元が少しだけ上がった。「じゃあ、乾杯します?」「何に」「今日が終わったことに」彼は一瞬だけ考えて、缶を
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-26
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そこ、狙う場所が違います

午後9時20分。私はビリヤード台の前で、完全に困っていた。友達に誘われて来たはずなのに、その友達は急な電話で外へ出てしまった。「すぐ戻るから、練習してて」そう言い残して。簡単に言うけど。キューの持ち方から分からない。私はとりあえず見よう見まねで構えた。白い球。赤い球。狙う。打つ。カツン。白い球は右へそれ、何にも当たらず、ゆっくり止まった。「……ひどい」思わず呟いた。「そこ、狙う場所が違います」横から低い声がした。見ると、30代後半くらいの男性が立っていた。黒いシャツ。袖は肘までまくっている。手にはキュー。いかにも上手そう。「見てました?」「ちょっと」「今の全部?」「ほぼ全部」最悪。私はキューを立てる。「じゃあ笑えばいいじゃないですか」「笑ってません」「顔が笑ってる」「少しだけ」正直。彼は私の台を見る。「初心者ですか?」「見れば分かるでしょ」「かなり」ちょっと腹が立つ。でも、助けてほしい。「じゃあ、どこ狙えばいい?」彼は台の横へ回った。「まず白い球の真ん中じゃなくて、少し下」「下?」「キューも高すぎ」「これ?」「もう少し下げて」言われた通りにする。でも、自分では分からない。「ちょっと失礼」彼が私の右側へ立つ。近い。手を伸ばせば触れる距離。「右手はそのまま。左手をもう少し前へ」彼の指が、台
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-27
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指についたの、取ります?

午後9時45分。帰り道。いつもはもう閉まっている小さなショコラトリーに、まだ明かりがついていた。ガラス越しに、黒く艶のあるチョコレートが並んでいる。今日は月曜日。朝から長かった。こういう日は、甘いものに判断を任せてもいい気がする。私は店に入った。「いらっしゃいませ」カウンターの奥にいたのは、30代前半くらいの男性。白いシャツ。黒いエプロン。袖は手首まできれいに折られている。「まだ大丈夫ですか?」「10時までなので」「よかった」ショーケースを見る。小さい。きれい。高い。1粒400円前後。普段なら迷う。今日は迷いたくない。「おすすめあります?」「甘いのと苦いの、どっちですか?」「甘すぎない甘いの」「一番難しい注文ですね」「プロでしょ」彼が少し笑う。「じゃあ、これ」指したのは、薄い茶色の丸いチョコ。「ヘーゼルナッツです」「おいしそう」「試食ありますよ」小さく切ったものを、紙の上に置いて出してくれる。「手でどうぞ」私は指でつまむ。一口。「おいしい」ナッツの香り。少し苦い。最後に甘い。「これ好き」「顔に出てます」「そんなに?」「かなり」恥ずかしい。もう1種類。今度は濃い赤の飾りがついたもの。「これは?」「ラズベリー」「酸っぱい?」「少し」試す。今度は先に酸味。そのあとチョコ。「これも好き」
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-28
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今日は半額でいい夜

午後10時15分。スーパーの惣菜コーナーで、私は半額シールを見つめていた。唐揚げ。焼き魚。春巻き。サラダ。どれも半額。夜10時を過ぎたスーパーは、少しだけ世界が違う。昼間なら悩むものも、「半額」と書いてあるだけで急に魅力的になる。私は唐揚げを手に取った。その瞬間。隣から別の手も伸びた。「あ」「あ」50代くらいの女性。ベージュのコート。髪は肩くらい。私と同じ唐揚げを狙っていた。最後の1パック。2人で止まる。「どうぞ」私が言う。「いいの?」「私、魚でもいいので」「じゃあ半分ずつ……は無理ね」パックだし。2人で笑う。女性が唐揚げを手に取る。そのあと少し迷って、「やっぱりあなた食べる?」「いや、大丈夫です」「若い人は唐揚げでしょ」「そういう決め方?」「私は胃がもう魚」強い。結局、唐揚げを譲ってもらった。「ありがとうございます」「その代わり、魚おすすめして」なぜか一緒に選ぶことになる。鮭。さば。ほっけ。「どれがいいと思う?」「私ならさば」「脂多くない?」「半額だからゼロカロリー」「それは違う」女性が笑う。「じゃあ鮭」「それで」かごに入れる。そのまま少し並んで歩く。「こんな時間に夕飯?」女性が聞く。「はい」「私も」「お疲れさまです」
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-29
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