「結衣のやつ、またどこへほっつき歩いてるの!今夜は超大型台風が来るっていうのに!」母である柚木春子(ゆずき はるこ)は、居間をぐるぐると歩き回っていた。窓の外は異常なほど暗く、暴風が庭のブリキのタライを転がし、ガンガンと壁にぶつかる音を立てている。町の防災無線は、すでに3回も同じアナウンスを繰り返していた。「特別警報発令。全町民は直ちに避難してください。20分後に救助車両が町の入り口に到着します」母が猛烈な勢いで私を睨みつけた。その目には怒りの炎が燃え盛っている。「あんた!今すぐ結衣を探してきなさい!」私は窓の外に目をやった。雨は降っているというより、バケツをひっくり返したように叩きつけている。庭の木々は風で地面に張り付くほどしなり、塀のそばの鶏小屋は吹き飛ばされ、数羽の鶏がバタバタと軒下へ逃げ込んでいた。「お母さん、結衣は友達の家に遊びに行くって……それに、今は外……」「誰の家だろうと知ったことじゃないわ!今すぐ連れ戻してきなさい!見つかるまで帰ってくるんじゃないわよ!」母は私の言葉を乱暴に遮った。私は無意識に、部屋の隅に座っている父、柚木健一(ゆずき けんいち)を見た。父の唇がわずかに動く。「外はさすがに風が強すぎる。もう少し待ってみては……」「あなたは黙ってて!」母は振り向きもせずに怒鳴りつけた。「結衣に何かあったら、責任取れるの!」父はそれきり、口を閉ざした。私は底が剥がれかけたサンダルを履き、玄関のドアを開けた。その瞬間、突風に煽られて吹き飛ばされそうになった。壁伝いに、よろめきながら前へ進む。道路の冠水はすでに足首の高さを超えていた。町の西側にある、結衣の友達の家へ向かおうとした時のことだ。「わあ、風が強くて涼しい!」背後から、ヘラヘラとした笑い声が聞こえてきた。振り返ると、路地の入り口から結衣が走ってくるのが見えた。濡れた髪が顔に張り付いているが、その表情は興奮に満ちている。母はいつの間にか、玄関の前に飛び出していた。母は結衣を強く抱きしめ、全身をくまなく触って確かめながら、心底心配したような、安堵したような声を出した。「やっと帰ってきた!濡れなかった?寒くない?早く家に入って着替えなさい、風邪を引くわよ」私は豪雨の中に立ち尽くし、全身ず
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