家を出て2時間経っても、誰からも連絡は来なかったし、どこへ行ったのかと尋ねるメッセージさえない。スマホを開くと、ちょうど珠希が投稿したインスタが目に入った。誕生日ケーキを切る直也と、頬杖をついて笑顔で見守る珠希が写っている写真。背後の窓ガラスには、二人にカメラを向けている翔吾の姿まで映り込んでいる。真っ先に「いいね」をつけ、コメントを残していたのは義母・藤堂和子(とうどう かずこ)だった。【珠希ちゃん、また時間があるとき遊びに来てね。あなたに会いたいわ】珠希はすぐに返信していた。【はい!私もお会いしたいです】スマホをポケットにしまい、私は深く息を吐き出した。直也の誕生日なのに、母親である私がその場にいないことに、誰も気づいていない。いや、気づいていないのではなく、気にしていないのだろう。10品もの料理を作った私がネギが好きなことさえ、誰も気に留めなかったのだから。ちょうど帰宅ラッシュと重なり、交差点は大勢の人で混み合っていた。青信号の残り時間をぼんやり眺めながら、私はいつからこんなふうになったのだろうと考えた。翔吾が珠希の正社員登用を祝うために、私の誕生日を忘れたときから?それとも、直也が幼稚園で【大好きな人は珠希姉ちゃん】と書いたときから?信号が青に変わり、私は人の流れに乗って横断歩道を渡った。その途中、少し緩くなっていた指輪がするりと抜け落ち、乾いた音を立てて路肩へ転がってしまった。それは、私と翔吾の結婚指輪。6年前、翔吾は今ほど裕福ではなかったため、この指輪を買うために半年分の貯金を使い、こう言いながら私にはめてくれた。「清佳。俺にとっては、いつだって清佳が一番だから」あの頃の私は、その言葉を信じていた。幼い頃から両親に顧みられずに育った私は、ようやく一生自分を大切にしてくれる人に出会えたのだと思っていたけれど、今、私が自分で選んだ夫も、私がこの手で育てた息子も、私を通り過ぎて別の人のもとへ向かっている。その時、翔吾から電話がかかってきた。「今、家にいないのか?直也が遊園地に行きたいって騒いでるんだけど」電話の向こうからは、直也の楽しそうな声も聞こえてくる。「珠希姉ちゃんと一緒に行く!ママはすぐダメって言うから嫌!」直也は生まれつき体が弱かった。だから私
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