クリームで汚れたナプキンを銀のトレーに置き、ドレスの胸元に留めていたブローチを外した。綾乃はまだ笑っていた。拓海にしなだれかかりながら言う。「結衣って、今回は本気で怒っちゃったみたい。誰がなだめに行く?」拓海はグラスを圭吾のほうへ掲げた。「そりゃ婚約者の役目だろ。来週の土曜には式を挙げるんだし、今のうちに慣れとけよ」圭吾は、すぐには私のそばへ来なかった。指についたバタークリームを、ようやく事態を呑み込んだような顔で見つめている。けれど周りにはまだこちらへ向けられたスマホがいくつもあって、彼は人前で頭を下げるような人ではない。彼はイニシャルの刺繍入りのハンカチで手を拭ってから、私の前に立った。「なあ、もういいだろ」まるで、騒ぎを起こしたのは私だとでも言うように。「何が『もういい』の?」私は訊いた。「あなたたちの遊びのこと?それとも、それに怒ってる私のこと?」圭吾の表情がわずかに揺れた。けれど彼が口を開くより先に、拓海が割って入る。「大げさにするなよ。好きでもない相手のために、圭吾が半年もかけて結婚式の準備なんてするわけないだろ」「そうそう」綾乃が拓海の肩に頬を寄せる。完璧に作り込まれた、甘ったるい笑顔で言った。「たしかに最初は賭けがきっかけだったけど、そのあと圭吾はちゃんと結衣を好きになったんだよ。結衣はハッピーエンドを手に入れたの。始まりなんかにこだわってどうするの?」シャンデリアの光を受けて、彼女の左手にはめられたダイヤモンドがきらめいた。4年前、拓海は私へのプロポーズの準備を綾乃に手伝ってもらっていた。そして私が彼の寝室のドアを開けたとき、ふたりは同じ毛布にくるまっていた。綾乃はカメラを構えていて、拓海は枕の下から指輪のケースを取り出しながらこう言った。お前がヤキモチを焼くところが可愛いから、撮っておきたかったんだ、と。10年間の想いに、私はその夜、終止符を打った。その後、綾乃は周りに言いふらした。結衣はいつまでたっても冗談が通じない。拓海が綾乃を好きになったのは、結衣が彼を突き放したあとだ、と。彼女に笑い者にされたのは、それが初めてではなかった。学生時代、綾乃は私に、ある慈善パーティーのテーマは「大正ロマン」だと教えた。私は矢絣の着物に袴という姿で会場に向かった。ところ
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