まだ5歳の鏡也は小さな体を強張らせ、私を見上げている。幼い顔には、傷つき、途方に暮れたような表情が浮かんでいる。いつも自分を一番に愛し、甘やかしてくれた母親が、なぜ「いらない」などと言ったのか、理解できないのだろう。一方の夏彦は、冷ややかな目つきでしばらく私を見つめている。やがて、ゆっくりと手を差し出す。「ひより、迎えに来た。帰ろう」私は思わず鼻で笑いそうになった。皮肉なものだ。以前は私がいくら頼み込んでも、夏彦は決して車で送り迎えをしてくれなかった。会社では、夫婦だと知られたくないから。外では、知り合いに見られるかもしれないから。結婚して6年、彼の車に乗せてもらった回数は、片手で数えられるほどしかない。そのことで、何度も泣いて喧嘩した。妻なのに、助手席に座ることさえ許されないのかと。そう訴えても、夏彦は冷めた顔で私を見るだけだった。私が泣いて、怒って、疲れ果てるまで。それがどういう風の吹き回しか、今日はわざわざ迎えに来てくれた。親友に別れを告げて車の助手席に座ると、足元が少し窮屈に感じる。私はシートを少し後ろに下げた。どうやら普段ここに座っているのは、小柄な人らしい。例えば、夏彦が7年間付き合っていた元カノ、紫苑のように。シートを調整した後、視界の端で何かが揺れているのが見えた。振り返ってみると、鏡也のリュックに付いている戦隊ヒーローのキーホルダーだった。私が買ってあげたピカチュウは、いつの間にか外されていた。鏡也はキーホルダーをいじりながら、じっと私を見つめて言った。「これ、紫苑ちゃんがくれたんだ」私の反応をうかがい、少し間を置いてから、慌てて付け足した。「ママが嫌なら、これ……」「別に、嫌じゃないよ」私はスマホに目を落としたまま、淡々と答える。鏡也はピタリと動きを止めた。運転席の夏彦も一瞬驚いたようで、訝しげに私を横目で見た。しばらくして、彼は口を開いた。冷ややかな声には、珍しく気遣うような響きが混じっていた。「そういえば、裁判はどうなった?」「今は結果待ち。弁護士さんがなんとかしてくれるって」私は顔を上げることもなく、友達とのLINEのやりとりを続けた。車内は再び静まり返った。私が一向に取り乱さないからか、今度は夏彦のほうが
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