私は呆然と陸を見つめ、自分の耳を疑う。次の瞬間、胸に鋭い痛みが走る。激しくせき込むと、生温かい液体が口の中に広がり、口元から顎へと伝い落ちる。「陸……」血を吐いたことを伝えようとした。しかしそのとき、優衣が突然、悲鳴を上げる。「足の感覚がないの!」陸の顔色が一変した。すぐさま優衣のそばに駆け寄り、壊れ物に触れるように彼女の膝を支える。「大丈夫だ。今すぐ病院へ連れていくから!」兄も、救助隊員に向かって声を荒らげる。「何をぼさっとしてるんだ!早く俺の妹を運び出せ!」救助隊長がちらりとこちらに視線を向ける。「まだ中に取り残されている方がいます。コンクリートに挟まれていて、重傷かもしれません」「あいつも俺の妹だ」兄は一瞬だけ言葉を切ったものの、その表情に一切の迷いはない。「だがあいつは昔から体が丈夫だし、まだ口も利ける。しばらく待たせても問題ないはずだ。優衣のほうが大事なんだ」隊員たちは顔を見合わせる。すると優衣は、目を赤くして首を横に振った。「お兄ちゃん、やっぱり先にお姉ちゃんを助けてあげて。私、足が本当にだめになっても、お姉ちゃんを恨んだりしないから……」口ではそう言いながらも、優衣は陸が本当に離れてしまうのを恐れるかのように、彼の腕にしっかりとしがみついている。兄の目には憐れみの色が浮かぶ。「馬鹿なことを言うな!お前はまだ18だろ。まだまだこれからなんだ!」そう言ってから、がれきの下にいる私を冷ややかに見下ろす。「涼寧、お前はもう大人なんだから、こんなときまで優衣と張り合うな」何か言おうと口を開いたものの、ゴホッと血を吐き出すことしかできない。――助けを求めることすら、「張り合う」ことになるのか。優衣が継母の京谷美穂(きょうたに みほ)に連れられて、京谷家にやってきた日から、周囲はずっと同じことを私に言い聞かせてきた。優衣には父親がおらず、幼い頃から苦労してきたのだから、もっと優しくしてあげなさい、と。言われるがままに、一番日当たりのいい自分の寝室を優衣に明け渡した。父が私のために手配してくれたダンスレッスンの特別枠も譲り、優衣の夢を叶えてあげた。やがて優衣は兄に甘えるようになり、陸の腕にも親しげに絡みつくようになった。最初のうちこそ、陸も面
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