翔也の眉間のしわが、さらに深くなった。敵に頭へ銃口を突きつけられたときでさえ、「別れる」とは言わなかった。そんな私が今になってその言葉を口にするとは、翔也も思わなかったのだろう。「そんなことで別れるって言うのか?」翔也は凄みのある低い声で問い返し、不機嫌そうに私を見た。私がさっきの言葉を取り消すのを待っているようだった。翔也は、今の穏やかな暮らしこそ私が望んでいたものだと思っていた。だから、私が何をそんなに怒っているのか、理解できないのだろう。私自身、もうよくわからなかった。それでも、引き下がる気にはなれなかった。「ええ。そのつもりよ」重苦しい沈黙が流れ、翔也の顔つきが次第に険しくなっていった。そんな中、朱音が口を開いた。翔也が一年以上も私に隠していた愛人だ。朱音は翔也の手のひらを指先でそっとくすぐった。甘えるようでいて、彼をなだめるような仕草だった。「翔也さん、困ってるなら、私たちの結婚式は延期してもいいんだよ……」私は思わず顔を上げた。朱音の清楚な顔を見た瞬間、頭が真っ白になり、耳鳴りがした。翔也はこの10年間、何かと理由をつけて私とは結婚しようとしなかった。私と結婚すれば、敵に弱みを握られ、私を守りきれなくなるかもしれない。私が望む穏やかな暮らしも与えられない。翔也はいつも、そんなことばかり言っていた。私が何度「それでもいい」と伝えても、翔也は婚姻届すら出してくれなかった。それなのに、朱音とは盛大に結婚式を挙げるつもりでいた。胸の奥がじわじわと痛み、息が詰まりそうになった。「いや、もうすぐ子供が生まれる。式はこれ以上延ばせない」翔也は私に冷たい視線を向けた。まるで私が折れるのを待っているようだった。「美桜には、俺のことに口を出す筋合いなんかない」翔也と目が合った瞬間、心がすっと冷えた。ふと、以前、翔也をかばって銃弾を受け、死にかけた日のことを思い出した。翔也は人混みから飛び出し、必死に私のもとへ駆け寄って抱きしめてくれた。その腕に抱かれている間も、私の体からは血が流れ続けていた。翔也は泣きながら私の名前を呼び、唇にキスをした。あのとき初めて、私は部下の身でありながら、翔也に恋をしてしまった。それ以来、組の連中は私を「姐さん」と呼ぶようになった。ふと我
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