Share

第5話

Author: みなもん
朱音が翔也の指に指輪をはめ、第二関節まで通しても、翔也は美桜の姿を見つけられず、彼女からの連絡もないままだった。

なぜか胸が重苦しく、苛立ちがこみ上げてきた。翔也は思わず指を引っ込めた。指輪が足元に落ちて、ようやく我に返った。

そうだ。今は結婚式の最中だった。

翔也は苛立たしげにネクタイを引っ張った。もともと、こんな窮屈な格好も、面倒な式の段取りも好きではなかった。

だが、もう少しで終わる。

朱音の悲しげな視線に気づくと、翔也は苛立ちを抑え、しぶしぶ指輪を拾おうとした。

そのとき、顔を真っ青にした部下が外から駆け込んできた。

「親分、大変です!鷹枝組の連中が攻めてきました!」

直後、遠くの海岸から凄まじい轟音が響いてきた。

翔也は顔色を変えた。

「美桜は!?美桜はどこにいる!」

鷹枝組が美桜をひどく恨んでいることは、翔也もよく知っていた。

さっきからの胸騒ぎは、ただの気のせいではなかった。

これまで翔也は、美桜なら自分の身くらい守れると信じて疑わなかった。朱音のために美桜に子供を産ませたときでさえ、子供たちも母親に似て、きっと強いはずだと思っていた。

だが、
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 彼の花嫁は愛人、私は海へ消えた   第8話

    1か月前、私は新生児室から二本の電話をかけた。一本目の相手は、鷹枝組だった。翔也と鷹枝組には、以前から深い因縁があった。私は翔也の情報を渡す代わりに、海に飛び込んで逃げるのを手伝ってもらう約束をした。もう一本は直人にかけた。翔也が朱音を連れてきたとき、そのことを知らせてくれたのも、翔也の前で私をかばってくれたのも、直人だけだった。私は直人に、証拠を翔也に見せてほしいと頼んでおいた。そして翔也は、証拠を見たあと、思ったとおり海辺へやってきた。私はそっと目を閉じた。すべてが終わるまで、あと少しだった。空が白み始めた頃、鷹枝組の男たちが上陸し、翔也を取り囲んだ。翔也は抵抗しようとしたが、男たちの中に私を見つけた途端、力が抜けたように動きを止めた。翔也は何か言いかけ、さっきまで虚ろだった目をぱっと輝かせた。「美桜、すまなかった!」真っ先に理由を問い詰められると思っていたのに、いきなり謝られて少し驚いた。翔也は地面に押さえつけられ、整った顔は生臭い泥で汚れていた。髪も乱れ、無精ひげまで伸びていた。こんなにみじめな翔也を見たのは初めてだった。「全部俺が悪かった!俺なら何とかできると思って、朱音を甘く見てた。そのせいで、お前も子供たちもあんな目に……本当にすまなかった!あの女も、あいつの子供も、もう始末した。それでも気が済まないなら言ってくれ!ほかに何をすればいい?お前のためなら何だってする。必ず償うから!頼む……許してくれないか?」最後はほとんど聞き取れないほど小さな声だった。許してもらえるはずがないことは、翔也にもわかっていたのだろう。それでも諦めきれないのか、必死に言葉を続けた。「お前さえよければ、今すぐここを出よう!何もかも捨てて、二人で静かに暮らそう。子供が好きだろ?養子を迎えたっていい。それか、まずは体を治して、元気になったらまた子供を……」私はそんな翔也を見て、鼻で笑った。「今さら、そんなことできると思ってるの?」翔也はうつむき、何か言いかけたものの、結局、口を閉ざした。その日、翔也は私がなぜこんなことをしたのかとも聞かず、敵である鷹枝組に味方したことも責めなかった。ただ、初めて出会ったあの日と同じように、静かに私を見つめていた。けれど、あのときとは違い、今度

  • 彼の花嫁は愛人、私は海へ消えた   第7話

    「いやっ!その子だって、あなたの子でしょ!」「俺の子は、美桜が産んだ三人だけだ」翔也はナイフを投げ捨て、外へ飛び出した。朱音がどれほど泣き叫んでも、もう振り返ることはなかった。翔也が海岸に駆けつけたときには、鷹枝組の連中はすでに撃退されていた。あたりには、冷たくなった遺体がいくつも横たわっていた。その中には、翔也と苦楽を共にしてきた仲間や、美桜が彼のために育ててきた部下たちもいた。翔也は背筋が凍る思いでその場にひざまずき、倒れた者たちの顔を一人ずつ確かめていった。けれど、どこにも美桜はいなかった。何度も首を振りながら美桜の名前を呼び続け、やがて声を上げて泣き崩れた。どうしてこんなことになってしまったのか、翔也にはわからなかった。そもそも翔也が朱音をそばに置き、何かと甘やかしていたのは、美桜から敵の目をそらすためだった。朱音にここまでしていいのかと迷うこともあった。それでも、腕の中で幸せそうに寄り添う美桜を見るたび、彼女が離れていくはずはないと信じていた。そのうち、美桜の愛情に甘え、朱音の優しさも手放せなくなっていた。まさか朱音との関係にここまでのめり込み、取り返しのつかない過ちを犯すとは思ってもみなかった。翔也はふと両手を見つめた。美桜と子供たちの血が、その手にこびりついているような気がした。翔也は後悔に震えながら、倒れた仲間たちのそばで海に向かい、何度も謝った。美桜を愛していると、声を上げて叫び続けた。けれど、いくら叫んでも返事はなかった。もう美桜が戻ってくることはない。それだけは翔也にもわかっていた。後悔で気が狂いそうだった。何もかも朱音のせいにしてしまいたかったが、美桜が本当に恨んでいるのは翔也だった。彼にもそれは痛いほどわかっていた。翔也はそのまま夜遅くまで海辺に座り込んでいた。涙も枯れた頃、朱音との結婚式の準備に追われていたあの1か月を思い返した。美桜とはろくに口もきかなかったその間、彼女もこんなふうに絶望していたのだろうか。朱音が結婚のことをあちこちで自慢し、式の話を広めるのも、翔也は止めなかった。翔也の妻になるのは朱音だと周囲に思わせれば、敵の目を美桜からそらし、彼女を守れると思っていた。けれど今になって、それがどれほど甘い考えだったか思い知らされた。そ

  • 彼の花嫁は愛人、私は海へ消えた   第6話

    「朱音のために、姐さんの子の心臓を取り出させて、血まで抜かせたんだぞ!姐さんはもういない。お前と朱音の邪魔をする人間もいなくなったんだ!それでもまだ何が不満なんだよ!」直人は拳を握りしめ、かすれた声で怒りをぶつけた。翔也は一瞬呆然としたが、すぐに直人を殴り返した。「心臓だと?血を抜いただと?何をわけのわからないことを言ってる!美桜の子供の心臓を使うって話は、朱音を安心させるために言っただけだ!人工心臓ならとっくに手配してある!あいつらは俺の子供だぞ!心臓を取り出したり、血を抜いたりするわけないだろ!」そこへ朱音がやってきた。不安を必死に隠し、目に涙を浮かべながら翔也の腕にすがりついた。「翔也さん、この人、何を言ってるの……?私、虫も殺せないのよ?美桜さんの赤ちゃんの心臓や血なんて、本気で欲しがるわけないじゃない!前にあんなことを言ったのは、妊娠中で気が立ってて、つい口にしちゃっただけよ!本気じゃなかったの!それなのに、この人、嘘までついて私を悪者にしようとして……もしかして、美桜さんとグルなんじゃない?お願い、信じないで!同じ女だから、美桜さんが何を考えてるかくらいわかるの。きっと死んだふりをして、翔也さんを騙そうとしてるのよ!」直人は口の中にたまった血を吐き捨て、朱音を睨みつけた。「よくもそんな平気な顔で嘘がつけるな!俺が嘘をついてるっていうなら、これは何だ!」直人は数枚の書類を投げつけた。床に散らばったのは、手術記録と採血器具の使用記録だった。さらに直人はスマホを掲げた。そこには、手術室と新生児室の監視カメラ映像も保存されていた。翔也は一瞬言葉を失ったが、すぐに何かを察し、眉をひそめて朱音をじっと見つめた。「翔也さん、見ちゃだめ!」朱音は泣き叫びながら翔也にしがみついた。翔也は朱音を信じたかった。何もかも嘘で、美桜もただ怒って姿を隠しているだけなら、きっとまた自分のもとへ戻ってきてくれるはずだった。それでも翔也は、床に散らばった書類を拾い上げた。書類に一枚ずつ目を通すうちに、翔也の表情はどんどん険しくなっていった。その間に、直人は監視カメラの映像も再生した。画面には、新生児室で勝ち誇ったように笑う朱音の姿が映っていた。翔也はそこでようやく、朱音の本性を思い知った。ずっ

  • 彼の花嫁は愛人、私は海へ消えた   第5話

    朱音が翔也の指に指輪をはめ、第二関節まで通しても、翔也は美桜の姿を見つけられず、彼女からの連絡もないままだった。なぜか胸が重苦しく、苛立ちがこみ上げてきた。翔也は思わず指を引っ込めた。指輪が足元に落ちて、ようやく我に返った。そうだ。今は結婚式の最中だった。翔也は苛立たしげにネクタイを引っ張った。もともと、こんな窮屈な格好も、面倒な式の段取りも好きではなかった。だが、もう少しで終わる。朱音の悲しげな視線に気づくと、翔也は苛立ちを抑え、しぶしぶ指輪を拾おうとした。そのとき、顔を真っ青にした部下が外から駆け込んできた。「親分、大変です!鷹枝組の連中が攻めてきました!」直後、遠くの海岸から凄まじい轟音が響いてきた。翔也は顔色を変えた。「美桜は!?美桜はどこにいる!」鷹枝組が美桜をひどく恨んでいることは、翔也もよく知っていた。さっきからの胸騒ぎは、ただの気のせいではなかった。これまで翔也は、美桜なら自分の身くらい守れると信じて疑わなかった。朱音のために美桜に子供を産ませたときでさえ、子供たちも母親に似て、きっと強いはずだと思っていた。だが、最後に美桜が向けた、悲しみと失望に満ちた眼差しが頭から離れなかった。今度ばかりは大丈夫だとは思えなかった。本当に美桜が二度と戻ってこないのではないかと、翔也は怖くなった。招待客たちが逃げ惑う中、朱音は険しい顔で立ち尽くしていた。何度も翔也にせがんで、ようやく実現した盛大な結婚式だった。この1か月、ずっと楽しみにしていたのに、指輪を交換する肝心な場面で翔也が上の空だったせいで、大勢の前で恥をかかされた。美桜から連絡がないせいだということは、朱音にもわかっていた。それなのに、こんな命の危険が迫る状況でさえ、翔也が気にしているのは美桜のことばかりだった。朱音は嫉妬で気が狂いそうだった。美桜の何がそんなにいいのか、朱音にはどうしてもわからなかった。翔也から何度も、美桜に手を出すなと釘を刺されていたことも気に入らなかった。朱音は込み上げる怒りをぐっとこらえた。ここまで来れば、あと少しで翔也と本当の夫婦になれる。そう自分に言い聞かせ、なんとか気持ちを落ち着かせた。翔也は朱音の目に宿る憎しみにも気づかず、部下の胸ぐらをつかみ、もう一度美桜の居場所を問いただ

  • 彼の花嫁は愛人、私は海へ消えた   第4話

    「怖かった……本当に怖かったの……」翔也は険しい顔で私を睨みつけた。「美桜!お前、よくもやってくれたな!出産してからずっと寝てて、子供たちを放ったらかしにしてたのはお前だろ!朱音は代わりに面倒を見てくれただけなのに、なんで手を上げたんだ!それに、あの子たちはお前が腹を痛めて産んだ子供だろ!自分の子を殺す親がどこにいるんだ!愛情がないにしたって、命まで奪うなんてどうかしてるぞ!」私が寝てばかりいた?子供たちを殺したのも私だって?血だまりに倒れたまま、私は震える声で言い返した。「親なら自分の子を殺さないって?翔也、よくそんなことが言えるわね!だったら答えてよ!どうして私は手術のあと、ずっと意識が戻らなかったの?三人目の子はどこ?どうしてここにはこんなに採血用の器具があるの?それでよく、親なら自分の子を殺さないなんて言えるわね!」「もういい!お前の体が弱いだけだろ!子供を産んだくらいで丸一日も寝込んで。朱音だって同じ日に産んだのに、ちゃんと起きてるじゃないか!自分の子供の面倒も見られないくせに、親切に世話をしてくれた朱音にまで手を上げるなんてな。さっさと謝れ!」体が弱い?子供の面倒も見られない?よくもそんなことが言えたものだ。翔也を見ていると、思わず笑いがこみ上げ、涙までこぼれた。10年も一緒にいた男が、ほかの女に手を貸して私の子供たちを死なせておきながら、今度はその女に謝れと言うなんて。私はなんとか体を起こし、朱音の足元にひざまずくと、何度も額を床に打ちつけた。顔が血まみれになると、翔也は血相を変えて駆け寄り、私を起こそうとした。私は差し伸べられた手を避けた。「翔也、私が悪いんでしょ。せっかく助けてくれたのに、あなたがあんなに大事にしてる朱音を傷つけたんだもの。謝ればいいんでしょ?これで満足?」翔也は複雑そうに私を見つめ、何か言おうとしたが、朱音に腕を引かれた。「翔也さん……お腹が痛い。さっきので傷口が開いちゃったかも……」しばらく迷った末、翔也は朱音を抱き上げた。病室を出る前に、私のために医者だけは呼んでくれた。二人が出ていくと、私はその場に崩れ落ちた。残った力を振り絞り、電話を二本かけた。それからの1か月、翔也は朱音に付きっきりで、産後の世話をしながら結婚式の準備も進めて

  • 彼の花嫁は愛人、私は海へ消えた   第3話

    翔也は、私に麻酔をかけることさえ許さなかったのだ!もう傷つくことなんてないと思っていた。それなのに、胸がまた痛んだ。体を切り裂かれる痛みよりも、ずっと苦しかった。目を覚ますと、直人がこちらを見ていた。その表情には、どこか痛ましげなものがあった。思わず乾いた笑いが漏れた。知り合ってまだ10か月の直人でさえ、私を心配してくれていた。それなのに、10年も一緒にいた翔也には、私の命なんてどうでもいいようだった。もう悲しむ気力すら残っていなかった。やがて三人の赤ん坊の産声が聞こえ、私は再び意識を失った。どれほど眠っていたのだろう。次に目を覚ますと、子供たちの姿はどこにもなかった。子供たちのそばにいられなかった自分を責めている暇もなく、私は傷だらけの体を引きずって病室を飛び出した。とにかく子供たちを見つけなきゃ!その一心で廊下を進んだ。歩くたびに血が滴り、床には長い血の跡が続いていた。下腹部は引き裂かれるように痛み、立っているのもやっとだった。意識が遠のきかけたころ、ようやく新生児室で子供たちを見つけた。ところが、ガラス越しに中を見た瞬間、血の気が引いた。どうして二人しかいないの?二人の小さな体には何本もの管がつながれ、そこから血が流れ出ていた。その管は、それぞれ朱音と彼女の子供につながっていた。二人とも顔は青白く、泣き声もほとんど聞こえないほど弱々しかった。胸が締めつけられ、私はたまらず新生児室へ駆け込んだ。私は子供たちにつながれた管を必死に外した。手が震えて仕方なかったが、二人に痛い思いをさせないよう、それだけは気をつけた。二人を抱き上げて、ママが来たよって言ってあげたかった。そのとき、突然後ろから髪をつかまれ、強く引っ張られた。朱音だった。まるで私が来るのを待っていたかのように、勝ち誇った笑みを浮かべていた。朱音はあっという間に私を床に倒すと、容赦なく頭を踏みつけた。そこで初めて、朱音が清楚でか弱い女子大生なんかじゃないと気づいた。長年、裏社会で修羅場をくぐってきた私よりも、はるかに力が強かったのだ。「美桜さん、もうここまで来たの?」その口ぶりから、わざと私にこの光景を見せつけるつもりだったのだとわかった。「ねえ、美桜さん。私にお礼くらい言ってもいいんじゃな

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status