「暁の森へ武者修行!?」自分が仕える王子の旅先を聞いた従者のロザは耳を疑った。「そんな馬鹿な、無茶な……」「確かに初っ端の修行にしてはヘヴィーだよな~」「本当です、ありえない……王は何故そのような……」城の厨房で昼下がりのおやつを食べていたら庭師が「そういえば」と話を始め、驚きの余りロザは手にしたシュークリームを食べるのも忘れて棒立ちとなった。作り手である大柄な料理人が厳しい顔つきになっているのにもまるで気づかない動揺ぶりに、横で紅茶を飲んでいた執事の赤穴は肩を竦める。ハンチング帽を被った小柄な庭師は磨かれた台に座って足をぶらぶらさせながら失笑した。「暁の森っていえば魔獣がうろつく超危険地帯だ。なんてったって魔界とこの世の境目だもんな~」「魔獣だけではありません……時には魔族も姿を現すと」「魔族が? そりゃいいな、俺も同行してぇ」「お前は皆の食事を作らねばならぬだろう。そんなに気がかりならばついていくがいい、ロザ」「赤穴さん……しかし武者修行は代々一人で行うのがしきたりだと聞いています」「私は王の後をこっそりついていったぞ」「俺はその後をついていった」「俺はそんなお前らの後をつけたぞ~」王の臣下であり友でもある先輩方の罰当たりな話に普段のロザならば顔を顰めるところだが。最愛の王子を守るためならば、しきたりを破るのも致し方ないと、早々あっけらかんと腹を括るのだった……。――暁の森。人間界と魔界の境目であり、末恐ろしい姿形をした魔獣が行き来する禁断の領域。魔獣よりも知能、戦闘能力がずば抜けて高く、人と同じ外見を持った魔族が現れることもしばしば。そんな物騒極まりない場所へ、十二歳になったばかりの第一王子は意気揚々と武者修業の旅へ赴いた。十八歳のロザもこっそり主の後をついていった。癖のないブルーブラックの髪は伸びてきたら手持ちのナイフで適当にザクザク切っていて、身長は平均値をやや越す高さ、日々の鍛錬は欠かさず、しなやかな体で敏捷性に優れている。切れ長な瞳は時に深い罪悪感に囚われて物憂げに翳ることもあった。しかし今は王子を見守るのに必死で翳るどころではない。堅苦しい従者の装束ではなく歩きやすい旅支度で武器も装備し、危険があればすぐにでも王子を……。『だがな、ロザ。本当に危険が差し迫った時だけだぞ。これは歴代の王達
最終更新日 : 2026-10-24 続きを読む