LOGINロザは懸命に思い出そうとする。
しかし不慣れな酩酊感に邪魔されて思考がろくに回らない……。「目が覚めたか、ロザ」
瞼を開ければ顔を覗き込んでいたのは青水晶の目をした魔族だった。
(いやに近い距離で……大体、ここはどこだ……こんなにも広いベッドは城にもない……)
『王子、飲んでは駄目です』
(そうだ……そばにいた人懐っこい魔獣が王子に盃を差し出してきたから……)
『勧めた酒を断るとは無粋な。ろくな王にならんな』
(そうだ……こいつ……この最も不敵な魔族に中傷を受けて、腹が立って……)
『代わりに俺が飲む』
(飲み干した瞬間、意識が……)
「人外の俺達が食らう酒を一気に飲むとは馬鹿な人間だ」
未だ朦朧としているロザに魔族の男は唇の片端を吊り上げる。
滾々と湧き出る泉を彷彿とさせる、見れば見る程に美しい眼だった。縦状に走る瞳孔が人外を物語る。地平線の月と同じ色をした長い前髪がサラリと靡いては片目を、時に両目とも覆い隠す瞬間があった。
長身で引き締まった体に漆黒の外套がよく似合っている。
様になった片笑みは惜しみのない不敵さに溢れていた。
ロザは状況を忘れてそんな魔族に見惚れた。おもむろに狭められていく隔たりを何ら不審に思うでもなく。
「……」
そして隔たりは無に帰した。
酔いで心身がやや麻痺しているロザはしばし密着した唇の感触を他人事のように感じていた。ただぼんやりと、繊細な刺繍の施された天蓋つきのベッドの真ん中で力なく寝そべったままでいた。
酒の酔いも手伝っていたが、実際のところ、青水晶の眼に中てられていた。
(……
今は意味深に細められている魔族の双眸にロザは瞬きも忘れて釘づけとなった。
「……!」
しかし、やっと、ロザは把握する。その瞬間に彼は翳した。上衣の袖口に潜めていた小型の刃を。
振り翳された刃は空しくも虚空を切り裂いた。「口づけの最中にとんだ真似をする」
床ではなく天井に着地した魔族の男は相変わらず不敵な笑みでもってロザを愉しげに見下ろした。
「無粋な行為が余程好きなのか、お前」
「王子はどこだ!!」天蓋を払い除けて床に降り立ち、ロザは魔族の男を睨め上げる。視界の端で薄暗い部屋の中をざっと見回して投げ捨てられた己の剣も確認した。矢鱈と豪勢なベッド以外に何もなく、どうにも妙な雰囲気が漂っている。だが今は戸惑っている暇などなかった。
「王子はどこにいる!」
天井から床へと半回転して舞い降りた魔族の男にロザは凄まじい剣幕で問い質す。呆けていた先程までとは打って変わったロザの様子に彼は益々笑みを深めた。
「一角の子と遊んでいる」
そう答え、いつの間に手にしていた古めかしい手鏡をロザへと投げた。逆手に翳した刃はそのままに素早く片手でキャッチし、覗き込むと、王子が角を生やした子馬をよしよしと撫でているではないか。場所は酒宴が繰り広げられていた遺跡のようだ。
「偽りの光景ではないだろうな?」
「どうして偽りの光景をお前に見せる必要がある。それをして何の意味がある。何の得がある?」 「魔族の考えは与り知れない」 「フン。無粋というより不躾だな、お前」鏡面に写し出された王子は確かに作り物には見えなかった。それは五年前、凍りつきかけていたロザの心を溶かしてくれた笑顔と同じものだった。
「一口で済ませればいいものを」
主の無事を確認した従者は無尽に放出していた殺気を些か収めて魔族に目をやる。
「勝手に一気に煽って失神したお前を王子が案じるものだから、この俺がわざわざ休息の部屋をこしらえ、この俺がわざわざ介抱してやったんだ」
「……そうだったのか」 「そんな懐深き心広き俺に刃を振るうとは、とんだ恩返しを喰らうところだ」 「……そうだな、確かに……いや、すまなかっ……いや、でもどうして」(口づけされる必要があるんだ!?)
不審者扱い同等の訝しげな眼差しを受けて魔族の男は一歩、ロザへと近づいた。ロザは咄嗟に身構える。
敵意はなさそうだが、人とは異なる魔族に気を許すのはやはり躊躇われた。依然として向けられる刃先に彼は不快そうにするでもなく、剣帯ごと外されていたロザの得物を拾い上げる。
「そんな心許ない刃より剣を向けられた方が却って落ち着く」
(俺はやはりとんでもない不躾な真似をしているのだろうか)
介抱してくれた相手に勘違いで激昂し、刃を向けたまま……人ならぬ魔族とはいえ知性があるのだから、感情だって持ち合わせているだろう。怒りを覚えてもいいはずだ。それに、あの口づけは魔族の間では挨拶みたいなものなのかもしれない……。
「……すまない、ありがとう」
自分の武器を受け取ったロザは魔族の男の眼を見、素直に非礼を詫びた。
「その青い目、綺麗だな。宝石みたいだ」
「お前も綺麗だ」 「……」 「俺の花嫁に相応しい」(は?)
今、何て言った? 男の俺が自分の花嫁に相応しいと言ったのか?「剣で着飾って刃の花束を持て。血化粧がさぞ似合うだろう」
ロザが問い返す暇もなかった。剣帯の装着を終えた腰元を引き寄せられて魔族の男と自分の正面が重なる。突然の行為に動じたが、掴んだままの刃を振り仰ぐのは逡巡のため気が引けて足元に向けておいた。
「指輪の代わりに俺の刻印を授けてやろう」
上から目線で告げ、ロザの左手をとるや否や、彼は薬指を口に含んだ。キリリ、と痛みが走る。自分にとって余りにも現実的でない言動の数々にどう反応していいのかまるで判断がつかず、ロザは硬直していた。
呆然自失に近い状態にあるロザの額にキスをして魔族の男は言う。
「俺の名はウルヴァスだ。いずれお前を迎えにいくぞ、ロザ」
暁の森に微かな朝日が差す。 日の光を苦手とする魔獣達が嗚咽を上げて魔界へと戻っていく。 日の光を降伏した魔獣達はそのままに……。「……」
緩々と瞼を持ち上げれば青水晶の残像が不意に脳裏を過ぎり、ロザは瞬く間に覚醒する。
「ロザ、おはよう」
大木の根元で急に飛び起きたロザに目を見張らせるでもなく、王子はにこやかに従者へ挨拶した。当の従者は珍しく落ち着かない様子で周囲をきょろきょろ見回し、頻りに目元を擦り、やっと最愛なる主を視界に映す。
「あ、王子……!」
「ねぇ、この子馬、もらったんだ。とても可愛いよね。角が生えていて」微かに注ぐ朝日に照らされた真っ白な毛並みを撫でながら王子は嬉しそうに笑う。子馬と呼ばれた一角獣も一晩ですっかり懐いたらしく、小柄な体に擦り寄っていた。
「もらったとは……一体誰から……」
「青い目の魔族から」青水晶の目を持つ魔族のウルヴァス。
暁の森の懐で不可思議な悪夢からなかなか脱しきれずに、ロザは、光り輝く神々しい光景をただ眺めていた……。誰かが泣いている。 まだ年端も行かない幼い子どものようだ。(あんなに泣いて、可哀想に……)柔らかな木漏れ日の差す森の中で立ち止まっていたロザは歩き出す。鬱蒼とした茂みを掻き分け、小川を飛び越え、咲き渡る白い草花を練って泣き声のする方へと進んだ。(……見つけた……)小さな男の子が大木の根元に蹲って泣いていた。 簡素ながらもこぎれいな身なりをしている。 体つきからして六、七歳くらいだろうか。「……ごめんなさい……」膝に顔を埋めた子どもは誰かに対して謝っていた。周囲に人影はない。静寂に包まれた森の中で、ひとりぼっちで、まだ幼い少年が一体何を悔いるというのか……。そのとき。 一陣の風が吹いた。枝が大きくしなって葉が舞い乱れ、泣いていた子どもは驚いた様子で顔を上げる。視線の先にゆっくりと現れた一人の男……魔族のオペスを震える眼で見つめた。「だれ……?」長髪長躯のオペスは子どものそばで足を止める。黒布に隠されていないその顔は慈しみ深き微笑を湛えており、幼いなりの警戒心や不安を宥める穏やかさを擁していた。「どうしてそんなに悲しそうに泣いている……?」 「……」 「何か苦しいことがあったのか……?」物静かな口調で問われて子どもは堰を切ったようにしゃくり上げた。「ぼくのせいで弟がっ……」オペスが大きな手でそっと頭を撫でれば子どもは彼にしがみつき、涙しながら懺悔を口にする。「おかあさんの具合がわるくて、おとうさんは畑にいくから、かわりにぼくが見てなきゃいけなかったのに……弟はひとりで湖に……ぼくのせいで……」 「そうか。怖くて寂しい思いをしたんだな」 「っ……うん……こわかった……でも弟は……きっともっとこわかった……」泣きじゃくる子どもをオペスは優しく抱きしめた。「邪気のない、慈しむべき子。泣くといい……悲しみは風が攫ってくれる」――鳥の囀りがどこからともなく地
ウルヴァスの忠告を念頭においてロザはまた白い花の咲き渡る美しい森を訪れた。「ことりっ」まるで待ち構えていたかのように飛んできた小鳥にピピが喜びの声を上げる。清澄な空気の流れる森は何だか呼吸がしやすいような気がして、小鳥と戯れるピピを隣にしてロザは一息ついた。(美しくて不思議な森だ)これまで魔界では見たことのなかった白い草花、青々と茂る木々、澄み切った小川。(まるで魔界じゃないみたいだ)「あ……」不規則に連なる木立の狭間におもむろにオペスが現れた。長い髪を靡かせ、緩やかな足取りで目の前へやってきた彼をロザはおずおずと見上げる。「……よく来たな」黒布越しに届く落ち着いた声色、静かに凪ぐ翠玉の瞳にロザは内心疑問を抱いた。(この人が過去に人間の血を奪っていたなんて信じられない)「ウルヴァスに聞いたか」 「え?」 「私が吸血筋だと」(……吸血公爵。子ども以外の人間の生き血を延々と呑み喰らってきた貪欲大食なる魔族……)「その通りだ、ロザ」ウルヴァスの忠告は忘れずに注意を払いつつ、ロザは、顔の半分が隠れていて表情が把握しづらいオペスを仰ぐ。「自分の牙を折ったと聞いた。もう血は奪っていないと」 「……」 「俺は……俺も過去に過ちを犯した。許されるとは思っていない」 「お前の罪など風に攫われる程度のものだろう」オペスがそう言えば一陣の風が梢を揺らして二人の間を吹き抜けていった。「……ほらな。もう跡形もない」乱れた前髪を払ったロザはまじまじとオペスを見上げる。ピピのはしゃぎ声と小鳥の囀りが交差する中、無意識に自分自身の胸を押さえた。「この森は……不思議な感じがする。昨日も今日も俺達を温かく出迎えてくれているみたいだ」胸の上で落ち着きなく片手を彷徨わせているロザをオペスは労わるように見つめる。「……私は懐かしく思う」 「貴方がつくったんだろう、この美しい森は。何か思い入れのある場所にでもなぞらえたのか?」ロザの問いにオペスは深く頷いた。ふと頭を垂れると両手を首の後ろに回し、首から下げた革紐を解く仕草を見せていたかと思えば、外衣の内側からソレを取り出してみせる。(……何だろう……?)差し出されて何とはなしに受け取ったロザはソレを眺める。 革紐の先には小さな石のようなものが取り付けられていた。 錆びているのか、
小鳥の囀りがどこからともなく聞こえてくる優しい森。 目に映るもの全てが瑞々しく、視界が潤うような緑ばかりの中、その屋敷は現れた。鬱蒼とした木々とコントラストを成す、くすみがかった淡く白い外壁。 連続するアーチ窓に急勾配の腰折れ屋根など、繊細な造形美の際立つ味わい深い外観をしていた。「ピピ!」屋敷の前で小鳥と遊んでいたピピを見つけ、ロザはオペスを追い越して駆け寄る。「勝手に遠くへ行かないでくれ、心配するだろう」 「ふぇ~、ごめんなちゃい」 「それ、本気で思ってないだろ、この……!」しゃがみこんだロザはピピの大きな三角耳をこちょこちょし、こちょこちょされたピピはきゃあきゃあ笑って胸に飛び込んできた。「まるで兄弟のようだな」頭の上に乗った小鳥にも気づかずにピピを抱き止めていたロザは、自分達をそっと見下ろすオペスの言葉にパチパチ瞬きし、家族みたいだと言われた混血の子どもをまじまじと見つめた。「どこが兄弟だ。蝙蝠もどきのへなちょこチビに振り回される哀れな花嫁だ」むっとするしかないウルヴァスの言葉には「あっかんべー」で仕返ししておいた。「……せっかくの機会だ。寄っていくか?」 「お前の屋敷は辛気臭いし陰気臭い。それに俗世嫌いのお前から誘ってくるなんて珍しい。まさかロザのことを本気で――」 「じゃあウルヴァスは一人で帰ったらいい。せっかくだから俺とピピは寄っていく」 「ピピっ、よってく」 「辛気臭い陰気臭い男の元に花嫁を置き去りにできるわけがないだろう。俺も付き添ってやる」「――オペスには近づきすぎるな、ロザ」オペスの屋敷から帰ってくるなりウルヴァスに忠告されてロザは面食らった。「奴は人間の生き血を喰らう吸血筋だ」ピピはおやつをもらいに厨房に行っていて自分達以外に誰もいないロザの部屋。壁に追い込まれて逃げ場を塞がれた花嫁はウルヴァスの発言に耳を疑う。「吸血筋……?」
地面に咲き渡る白い草花。 樹木が伸び伸びと呼吸して枝葉を張り巡らせる瑞々しさに満ちた清澄なる森。「……誰だ……?」ウルヴァスの屋敷近くに忽然と出現した森を訪れていたロザは、一際立派な大木のそばに佇む彼に問われたものの、うまく回答できずにただ相手を見返すばかりだった。腰まで届く長い黒髪。 ウルヴァスよりも背が高く、顔の下半分は黒布で覆われていて一目では把握しづらい顔立ち。足首まである丈の長い外衣を着込み、ほとんどの肌を隠した長髪長躯の男の頭上では白い小鳥達が枝にとまっていた。(聞かれているから答えないと、相手に失礼だ)頭の中ではわかっているのに何故だか言葉が出てこない。 掴みどころのない妙な感覚に圧迫されて思考も回らない。(……何だ……この感じは……?)「ピピですっ」ロザははっとする。自分のすぐ背後で元気よく返事をしたピピを慌てて顧みた。「ピピ……まだ小さい。魔族と魔獣の混血子か……」男は大木のそばからゆっくりと歩き出す。 ロングブーツの靴底で落ち葉の降り積もる地面を踏み締め、地表に現れた木々の太い根を乗り越え、ロザの正面へやってきた。眦が深く切れ込んだ冴え冴えとした目。 この美しい森とお揃いのような翠玉の瞳にロザはほんの少し視線を奪われる。「ピピとね、ロザっ」 「ロザ……?」 「あ……すまない、名乗るのが遅れた、俺はロザだ。貴方は……?」敵意はなさそうだが、油断はせず、不可思議な心地から脱して正気を取り戻したロザは前へ出ようとするピピを制して尋ねた。「……」顔の半分が隠れていて表情がわかりづらい黒衣の彼にじっと見下ろされると、また、得体の知れない感覚が込み上げてきてロザは内心戸惑う。「……お前は……」中低音域の弦楽器が奏でる重厚な音色にも似た深みある声で男が呟き、胸を押さえたとき。 その肩に白い小鳥が一羽、舞い降りた。「わぁ、ことり~」 「……私の森にいつの間にか住みついた」 「ピピもさわりたいっ」ロザの後ろから赤目をキラキラさせて顔を覗かせているピピを見、男は、肩にとまる小鳥に指を差し出した。ピィピィと囀って誘われるがまま指にとまれば、腰を屈め、小さいピピの方へと傾ける。「わぁ」自分の銀髪頭に飛び乗って大きな三角耳をツンツンする小鳥にピピはさらに目を輝かせた。「……か弱げで邪気のない。慈しむべき
「や、やだ、もういいッ……頼むからッ……待っ……っ……んんっ……ぁ」ロザがいくら嫌がろうが、髪を引っ掴もうが、ウルヴァスはお構いなし。 初心な乳首を好きなように思いのまま貪る。 屹立した突起をじっくり食んでは啜り、勢い任せにむしゃぶりつき、どちらも交互に余すことなく可愛がった。「や……っ」濡れそぼった乳首を器用な指先に囚われ、念入りに捏ね繰り回されると、この上ない甘痒さに犯されてロザはまた胸を反らしてしまう。「ロザ、またおねだりか……愛おしくて敵わない花嫁め」乳輪ごとかぶりついてきたウルヴァスにロザは悶絶した。 ゾク、ゾク、甘い戦慄が背筋を駆け抜けていく。 まだ触れられていない下肢に熱を溜め込んで全身を火照らせた。「ん……ッ……ッ……!」速やかにやってきた最初の絶頂。 射精は伴わずに胸への口づけだけで痺れた脳天。 癖づきそうな快感に身も心も一呑みにされた。「母乳は出なかったな」しぶとい絶頂の波に半身を攫われているロザは気怠そうに瞬きし、真上に居座るウルヴァスを薄めがちに仰ぐ。「ッ……だから……出るわけないだろ……いい加減にしてくれ……」サラリと流れた長い前髪に片目が隠れたウルヴァスは欲深げに濡れた唇を歪めてみせた。「こっちは出るだろう……?」そう言って、服の上からでもわかるほど昂ぶっていたロザの下肢に触れる。「ッ……さ、触るな」 「胸への奉仕だけでこんなに昂ぶらせて、すぐ楽にしてやる」 「必要ないッ……ッ……く……ぅ……ッ」服の内側に潜り込んできたウルヴァスの手に熱源を握られ、おもむろに愛撫されて、ロザは切なげに呻吟した。「……そうだな、悪夢で苦しむ声よりも快楽に溺れる声の方が断然いい」下着の中で窮屈そうにしていたペニスが取り出される。 隙のない滑らかな動作でロザの両足の間に割って入り、頭を屈めたウルヴァスは躊躇なくその頂きを一息に頬張った。「ッ……うそだろ、待てッ……おい、ウルヴァス……ッ」耳たぶの隅々まで紅潮させてロザは起き上がろうとした、しかし官能的にも程がある舌遣いでもてなされ、うまく力が入らない。控え目に色づく亀頭をねっとりと舐め上げられる。 鈴口から裏筋、括れから根元まで満遍なく。生温く潤む口内での手厚い歓迎に勝手にビクビクと跳ねる腰。 溢れ出る先走りまで舐め取られ、
夢を見た。 怖い夢だ。目の前で大切なものが奪われる夢。 為す術もなく、自分はただ見ていることしかできない……。「ぅぅ……」 「ロザ」 「う、う、う……嫌だ……誰か……」 「大丈夫だ。俺がいる」寝台で息苦しそうに胸を掻き毟って呻吟していたロザは瞼を震わせる。「お前には俺がいる」背中から抱きしめられ、その心強い熱に、真摯なる呼びかけに駆け足で去っていった悪夢。ロザは目尻に涙を滲ませて薄目を開けた。「……ウルヴァス……」胸に巻きつく腕に手を添え、強張っていた体を弛緩させて真夜中の抱擁に身を委ねる。加速していた呼吸は徐々に正常なリズムを取り戻し、落ち着いたところで長いため息を一つ。「はぁ……」 「悪夢にでも足をとられたか、我が花嫁」 「ん……とても怖くて……嫌な夢だった」 「どんな夢だ?」(……思い出せない……)「また胸をまさぐっていたぞ」 「……覚えていない」 「あれは何かを探しているような手つきに見えなくもない」 「探して……? 一体、何を……」(……いや、待てよ……)暗闇の中で眠気を引き摺りながらすぐ背後にいるウルヴァスと会話を交わしていたロザは、ようやく異変に気がつく。「お前ッ……また勝手に人の寝床にッ……!」抱擁を強引に解いてぐるりと振り返れば、いつの間に寝台に潜り込んでいけしゃあしゃあと寛いでいたウルヴァスと目が合い、切れ長な双眸を驚きと怒りで震わせた。「ッ……ピピは? あの子はどこに行った!?」 「廊下に放ってきたぞ」 「なんてことするんだッ!」 「毛布で包んでやったし、ぐーぐー熟睡していたから平気だろう」 「この冷えた夜に可哀想なことを……今すぐ連れ戻して……」寝台から出ようとしたロザだが、そうはさせまいとウルヴァスに組み敷かれる。黒ローブは脱いで革手袋とブーツを身に着けた普段着姿の彼を睨みつければ不敵な笑みが返ってきた。







