「お父様、わたくし後宮にまいります」 蘭《らん》小蝶《こちょう》は、凛とした声で言い放った。 かつては、元宰相として豪華だった家――それが今は。 宝石や金細工のものを筆頭に、家財のほとんどが剝ぎ取られ、見る影もない。 「小蝶、しかし、それは……」 おろおろと、父の玄徳《げんとく》がいさめる。 後宮にいけば、滅多なことでは外に出られなくなる。 「おねえさま……」 「鈴鈴《りんりん》、あなたはこの蘭家の跡継ぎとして頑張るのよ。今は、よく食べて大きくなること。もう少し大きくなったら、勉強に刺繍、楽器を学ぶのですよ」 未だ5歳の妹は、痩せた体で大きな涙をためた。 2年前の政変で、玄徳は左遷され、家財は売り払った。 もう、家族3人が食べていける食料も少ない。 使用人も、皆、暇を出した。 残ったのは、玄徳が買っていた本ばかり――しかしそれも、今後生きていくために売り払っていくのだろう。 「わたくしが差し出せるものは、もうこの体しかありませんもの」 妓楼に売って、妓女として生きていくことも考えたが、後宮の下働きならば肉体労働ですむ。 「宮女《きゅうじょ》になるわけではありません。幸い、政変の際に婚約も流れましたし」 後宮とひとことで言っても、全員が皇帝陛下の女ではない。 宮女は、妃賓《ひひん》とそれに仕える女官や侍女なども含むが、小蝶が行くのは宮女ではなく一番下の下女だ。 「確かに、政変で何もかも変わった……陛下が変わられて皇太后さまも新しく擁立された……しかし、私が下級官吏の職でも得れば……」 「しかし、政敵たちに阻まれてそれも不可能なのですから」 玄徳は項垂れた。 妻は縁を切って、実家に帰った。 今は裕福な商人の妻だという。 今なんとか食いつないでいるのは、庭に植えた野菜と薬草のお陰だ。 しかし、着替えにすら困る状況で、次女の鈴鈴はどんどんこれから大きくなる。 服も、食べ物も今よりさらに必要になる。 小蝶も玄徳も、今着ているのは元使用人の服だ。 歩揺(髪飾り)も、かんざしもない。 なにもかも、売り払った。 あと、小蝶に出来るのは後宮の下女になることだけだ。 元とはいえ、名家の蘭家のものとして。 目指すのは、上級下女だ。 そうすれば、多少は給金を実家に送ることが出来る。 少なくとも、小蝶がいなくなって食い扶持
Last Updated : 2026-10-30 Read more