「憐れ」なキャラクターの心理描写と言えば、まず思い浮かぶのは
太宰治の『人間失格』です。主人公の大庭葉蔵は、自己嫌悪と周囲への違和感に苦しみながら、どんどん
堕落していく過程が克明に描かれています。
この作品のすごさは、葉蔵の「弱さ」が単なる同情を超えて、読者自身の内面にある脆さを映し出す鏡になる点です。滑稽なまでの自虐的行動の裏側に、誰もが共感できる孤独感が潜んでいます。特に幼少期から続く「道化」を演じ続ける心理描写は、現代のSNS社会にも通じるものがありますね。
もう一つ特筆すべきは、葉蔵の「憐れさ」が決して一方的なものではないことです。周囲の人間の無理解や社会の抑圧といった環境要因と、彼自身の選択が絡み合って悲劇が形作られていく様子は、単純な善悪を超えた深みがあります。読み進めるほどに、このキャラクターの「憐れさ」が複雑な感情を呼び起こすんです。