また、他ジャンルの文学からも影響が及んでいると考えている。例えば『The Talented Mr. Ripley』のように魅惑的な嘘と自己を欺く術が主題となる作品は、罪とアイデンティティの境界をめぐる問いを深化させる助けになっている。さらに古典の『The Strange Case of Dr Jekyll and Mr Hyde』に見られる「自己の分裂」というモチーフも、変容を巡る物語的機構として重ね合わせることができる。
この種の作品に影響を与えた源は一つではなく、文学的伝統、犯罪文学、そして現実の事件が入り混じっていると感じる。まず最も古典的な影響としてよく挙げられるのが『The Strange Case of Dr Jekyll and Mr Hyde』(ロバート・ルイス・スティーヴンソン)だ。自己の二重性や人間の内なるモンスターというテーマは、ハリスの描く人物像──表と裏を使い分ける殺人者、社会的な仮面をかぶる者──に通じるものがある。僕自身、この対比の扱われ方が『沈黙の羊たち』の心理的な緊張感を生んでいると思っている。