ゲームの静かな序盤で、思わず呼吸を止める瞬間が訪れた。それが私にとっての'Cry of Fear'との出会いだった。
短いながら濃厚な体験で、心理的な圧迫感とゴア要素がうまく混ざっている。操作は古めだが、それがむしろ不安定さを生み、先に進むごとに常識が揺らぐ感覚を強める。敵の出現や音の使い方が巧妙で、ライトやセーブといったリソース管理も緊張を高めるポイントだ。
協力プレイやモッドで長く遊べる一方、ソロでじっくり世界観に没入するのが自分には合っている。ネタバレを避けたい人には難解な演出が合わないかもしれないが、ホラーの“古き良き”側面を味わいたいなら強く勧めたい。短期決戦よりも段階的に追い詰められていく怖さを楽しめる作品だ。
翻訳作業における最初の壁は、ただ単に語を置き換えるだけでは恐怖が伝わらないことだ。現地語の曖昧さや繊細な語感、そして読者の心にじわじわと届く間(ま)をどう再現するかが勝負になる。私はまず原文の「間」と音の設計図を読み取り、日本語で同じ効果を生む表現を探す。たとえば描写が断片的で余白を残すタイプのホラーでは、文章をあえて断ち切る短い文や句点の位置を工夫して、不安感を持続させることが多い。
語彙選びにも戦略がある。直接的な恐怖を煽る語は漢字を多めにして重さを出し、逆に微妙な不安や違和感を表す箇所は仮名主体で柔らかくすることが私の定番だ。また、文化差から来る怪異描写はそのまま訳すと意味が通りにくい場面がある。そういう箇所では、説明を足しすぎずに日本語の伝承や感覚で置き換えられないか考える。過剰な注釈は没入感を壊すので、必要最小限にとどめる。
個人的に印象深かったのは、'The Haunting of Hill House' のように家そのものが語り手になる作品を訳したときだ。物の語りかける抑揚や間を損なわないよう、文体を統一しつつも部分的に言葉のリズムを崩すことで、読者に「そこに居る」感覚を行き渡らせるよう努めた。そうして初めて、原作の不穏さが日本語で自然に立ち上がると感じている。