爆弾処理班の夫、救ったのは妻じゃなかった私の夫の小野達也(おの たつや)は、とっても腕のいい爆弾処理の専門家。でも、人の顔を認識できない、重度の相貌失認を患っていた。
結婚式では、大勢の招待客の前で友人代表とキスをして、花嫁の私を置き去りにした。
出掛けるたび、案の定、別の女の人を私と間違えて家に連れて帰ってくる。
周りの友達は、みんな私をなだめた。
「達也さんの相貌失認は、嘘じゃないと私たちが証明できるよ。あなただけがそういう目に遭ってるわけじゃないし、少しは許してあげなよ」
その日から、私は達也が唯一見分けられる白いワンピースだけを着るようになった。真冬の凍える日でも、他の上着を羽織らなかった。
それにもかかわらず、とある表彰式のインタビューで、家族に述べる予定の感謝が、全てそばにいた女性スタッフに向けられていた。妻である私に気づかなかったのだ。
信じがたい気持ちを抱えながら、それでも家族として彼に寄り添った。
そんな私が彼を諦めたのは、何年も達也のアシスタントの和田佳奈(わだ かな)と私が、同時に爆弾を体に巻きつけられる、あの事件がきっかけだった。
爆発までの時間は、容赦なく減り続けていた。
達也が現場に駆けつけてきたが、血で赤く染まった私の白いワンピースを一瞥すると、まるで知らない人を見るような視線を向けたのだ。
「お前は誰だ?俺の妻は、こんな顔じゃない!」
その時、佳奈が声を上げた。達也は、はっとしたようにそちらを振り向いて、驚くほど速く、正確に佳奈の名前を叫んだのだ。
「佳奈!」