また、反復表現やコーラスの扱いも大事だ。原詞で同じフレーズが感情のピークを作っている場合、英語でも同じ効果を出すために語順を入れ替えたり、同義の簡潔な語に差し替えたりする。意味を損なわず、かつ歌いやすさを優先する判断を何度もやり直すことになる。情緒を直訳で失わないよう、音の響きと語感を重視するという点で、古いフォークの名曲『Where Have All the Flowers Gone』の英語表現の扱い方は学ぶところが多かった。
さらに、歴史的・社会的背景を示す語句は直訳が誤解を招くことがあるので、注釈をつける余地がない歌詞翻訳では語調と語彙のニュアンスで補う工夫をする。人称や動詞の時制も重要で、祈りや願いを表すフレーズは現在形に近い希望を表す英語表現を選ぶのか、過去の悲劇を伝えるために完了形や過去形を用いるのかで受け手の印象が変わる。サム・クックの『A Change Is Gonna Come』が示すように、言葉の選び方で未来への希望や重さを同時に表現できる例は参考になることが多い。